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『ヒスイの紡ぎ者』  作者: きまぐれ海産物
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ヒスイの少女

ヒスイ王国の貴族階級区域に住む蒼と緑の目を持つ少女シオは、王と王妃という親元から幼くして離れ、恵まれた環境で日々悶々と学校生活を過ごしていた。

「剣と魔法のド派手な世界」を夢見ていた少女は地味すぎる日常に絶望。

寮の看守の目を盗み、区域を抜け出しては下町の酒場に出入りすることで日々の鬱憤を晴らす。

ある日を境に、貴族階級区域に盗賊が侵入する事件が多発する___

 「はぁ…はぁ…」

 「ここ…どこ…!?熱っ!!!うわぁぁ!!!」

酷い疲労感。あまりのまぶしさと灼熱の砂地に背を焼かれ、目を覚ました。

見渡す限りの砂漠とガラス化した山々が連なっているが、

ここがどこなのかがわからない。


「嘘だ…こんなの、悪い夢だ。はぁはぁ」


死ぬほど暑いなんてレベルじゃない。死ぬ。

さっき、人生で最もつらいことがあったはずなのに、もはやそれどころじゃない


「水、水…」


「誰か…助け…て」


バタン____





_______________________________

          2218年、ヒスイ王国



教師「…〇〇年、こういった悲しい事件が起きたことを機に、我々が使用している日用魔法製品は安全基準法の規制の元で開発され、皆さんが安全に使用できるよう国民のお手元まで出荷されているのでして、町の街頭や家の明かり、パンを焼くオーブンなども、科学と魔法を融合したガジェットが現在多くの…」



シオ「(耳が腐りそう)」

 授業がまったく身に入らない。眠い目をこすりながら

窓の外をぽけーっ…と眺め、平和ボケした風が頬を撫でる。


「…よって規制法が可決されたのは西暦何年のことですか?Ms.シオン・フォレスタ」


「(ガタッ)え、あっえっと…2201年…?です」

「話を聞いていなかったようですね。2209年。9年前のことです。

   ちなみに窓の外に答えはありませんからね。

   もしノートを写していなければ授業の後にでも、友達に見せてもらいなさい」


「 ふふふ 」「「  ………  」」

視線が冷たい。これは氷結魔法。


「まぁ~~~~!!居眠りとは随分と余裕ですのねフォレスタ様、

    私惚れ惚れしちゃますわ~!」

この子はフレア。気の強い赤髪長髪の、お金持ちのお嬢様だ。

この通り、火炎魔法がお得意なようです。


「すみませんトネリコ先生。次の授業までには写しておきます。」


フレア「何よ、ほんっとつまんないわね…」


授業が終わり、何事もなかったかのような涼しい顔をしてシオは教室を後にした。





 放課後___

 「シオンさん、この後もしお暇がございましたら

       お茶会でもいかがですか?」

 「あー…お誘い大変嬉しいのですが、私やり残した課題がまだ残っていまして。

       先に片づけておきたいのです~」

 「そうでございましたか!無理に誘ってしまい申し訳ございませんわ。

       あ、もしよろしければこちらのクッキーもどうぞ夜のお供にでも~」

 「まぁ!お気遣いありがとうございます!すみませんが、失礼いたしますー」


クラスメイトとの社交辞令が済むと背を向けた瞬間、シオの笑顔はスンと消える。


「悪いけど付き合ってられないわ。

金曜日は寮の監視が甘いから、今夜は城を抜け出してオアシスに行くんだから」


~ オアシス ~

 上層階級域のガイア区の外。ネモネア区にある、

お気に入りの音楽酒場OCEANオーシャンのこと。

私やそこに通う人たちは皆オアシスと呼んでいる。


いつものようにベッドに枕を縦に置き、布団を被せデコイを作り、シーツを泥で汚したお手製のローブを身にまとい、脱出の準備が整った。

何度やっても心臓がバクバクするこのスリルが癖になる。


消灯時間の9時が過ぎた。独自に穴を掘って開発した城の裏口からうまく抜け出し、

深夜の城下町に意気揚々と溶け込んでいく、おてんばすぎるお嬢様なのであった。




「っつーわけで」

「「「今日もクソッタレなお仕事お疲れさん!!カンパーーーイ!!!!!」」

シオ「いぇーーーーーい!!!!!(上機嫌)」

乾杯の合図にギリギリ間に合った。


♪ ♬ 

 ♫

普段住んでいる城の小綺麗な空間とはまるで違い、ケルト風の民族楽器の音に加え、アウトローな男共の汗臭さ、ジャンキーな魚介飯、ログハウスの木材と、様々なにおいが合わさった独特の空気感が満ち溢れている。

背徳感がすごい。ここが居場所だ。生きててよかった。


シオ  「マスター会いたかったよ~!!これ、お土産のクッキー!ちょっとしかないけど。」

マスター「やぁ、おかえりなさい。これはまた貴重な砂糖菓子を。

     お嬢ちゃんが作ったのかい?」

    「あー‼えっと、その。えへへ~」

    「いやいや、ありがとう。うちの娘たちと大事に戴きますね。

     で、最近の学校はどうだい?」

    「退屈にもほどがあるよ。大人になってなんの役に立つのかもわからない学問の勉強、

     聞きたくもない歴史に数学に、それから…」

    「…」

    「(あれ、悲しそう)あ、えっとね。

     明日は、魔法薬草学の課外授業があってすっごい楽しみなんだ!」

    「それはまた、貴重な学びではないですか。

     …もしよければなんですが、ノートに書いた内容を私たちにも共有していただけ

     ないでしょうか?勉強のモチベーションになればと」

ゴロツキ達「おお!?それよければ俺らにも見してくれやお嬢ちゃん!

      滅多にお目にかかれないからな!」

     「もちろん!!!私の素性を知っててこうして匿ってくれてるわけだし。

      それならやる気も湧いてくるよ!マスター天才ー!」

音楽家達 「(pララrっパッパッパー‼)」

シオ   「うーん、すごい成長(レベルアップ)したような感じがする音!!!」

     「なら私も、水冷術‼水しぶき~!」

     「「「ダーーーーっッハッハッハ!!!!

      こりゃあいいもん見せてもろたわ!!!」」」



幸せだ。ずっとここにいたい。でも明日はやってくる。


ワイワイ、ガヤガヤ

そこらへんにおいてあった誰かの飲みかけをこくりこくり。

微炭酸が疲れたカラダに染み渡る!


あとなんかフラフラする。


「…?」

カウンターの片隅にフードを被った何者かが座っていたのに気づかなかった…

容姿は自分とほぼ変わらず、酒を飲んでいる。果実酒のロックだろうか。

よく見えないけど、たぶん女の人だろう。


   「…マスター、あの人は?あまり見かけないけど」

   「あー、あれは町のはぐれに住んでいる者でな。王族の血筋を毛嫌いしている。

      変装していても君の素性はもうばれてるでしょう。気をつけてください」

   「へー…………」

   「その蒼い方の目は特に、見られないほうがいいですね」

   「うん。気を付けるよ」


楽しい時間は一瞬で過ぎ去る。今夜も一週間の出来事を共有し合い、おいしいドリンクやフードで疲れを吹き飛ばした。

が、もう朝の5時。日が昇る前に帰ろう。


「またくるねー!」

「ええ、いつでもお待ちしております」



帰り道___

嫌な好奇心が止まらない。王族は市民に対して何か恨まれるようなことをしたのだろうかと疑問が湧いてきた。

「王家の血筋を毛嫌いって…」


シオは寮に戻りそのまま倒れるように眠った。




秘密の裏口付近まできたところ、物陰で何かがうごめく。






次の日___

        (朝チュン)

「んげ…まるでお酒でも飲んだみたいにフラフラする…

 飲んだことないけど」

眠い目をこすりながら洗面台に向かった。


(回想)マスター「その蒼い方の目は特に、見られないほうがいいですね」


「(バシャバシャ)ふう…」

 シオの右目は深い蒼を、左目は王家フォレスタ家の血筋から成る翡翠(緑)色という、

オッドアイになっている。遺伝でそうなるわけでもないとされているので物珍しく見られることが多い。周りから妬まれることも多かった。

生まれつきこうなっていたわけじゃなく、4年前の12歳の頃の出来事が関係していて…


ダッダッダッダッ(階段を駆け上る音がする)

「(まずい!着替えそのまま着て寝ちゃってたの忘れてた!!!)」


   「シオンお嬢様!!!また寝坊ですか?

     今日は昼から魔法薬草学の課外授業なのでしょう!?

         そんなんじゃ王妃様の跡継ぎは務まりませんわよ   」


   「ああああの、えと、

     今すっぽんぽんなのでダメです!!!!

      すぐ行くんで!!」

うまくごまかした。危なかった。

制服に着替え、急いで学校へ向かった。



タッタッタッタッタッタ…

魔法に関する授業はなるべく遅刻したくないけど、しょうがない。


___学校に向かう道の途中、やけにあわただしそうな憲兵たちが目に入った。

何かあったのだろうか。





城の敷地内にある畑に着き、先生の元へと急ぐ。

魔法薬草学の先生は、ぽってりした栗色くせ毛をしている、生徒たちから人気の先生だ。


 「はぁはぁ、すみませんメイプル先生、遅れました」

 「これは寝坊ですか?」

 「寝坊です!」

 「頭のアホ毛が元気ですね。正直でよろしい!今は薬草を栽培してもらっているところです。

  さて、シオンさんも来たところで、授業を始めましょう!」


みんなの視線が先生の手元へ集中する。


 「今日皆さんに教えるのは、《ラトネーム》という魔法植物です。これは通常の植物とは違い魔法植物の類になります。

魔法植物とそうでない種との違いは、皆さんの体の中にある〝魔力〟に影響を及ぼすかそうでないかの違いです。

ので、もし擦り傷などの回復に特化したものを薬の材料にしたければ、オトギリソウやヨモギなどの通常種を使うといいでしょう。

一応どちらも植物には変わりはないので、傷を治す成分が入ってる魔法植物もありますがね。面白いでしょう」


超面白い。よだれがでそう、

と、あぶないあぶない。顔には出すな私


メイプル先生「さて、このラトネームの効能ですが、わかる人はいますか?」

シオ    「(はい!!はい!!はい!!!)」

      「ではイーソさん」

      「(ちくしょう!!!!!!!!!!!!)」

      「魔力の源そのもの、つまり魔力回復です!」

      「正解です!」


「その魔力ですが…

 人それぞれ、その人そのものの属性エレメントという特性があるのは知っていますね。自然の属性を持っていれば、その属性の能力がのびやすくなったりと、得意不得意が"ある程度"はわかりやすくなるといったものです」


「さて、このラトネームはある属性の魔力に反応し、より効果を発揮します。この効果がわかる人!」

「(あ、  はい!)」


「ではシオンさん」

「やった!あっ、えっと、ラトネームの場合は自然、草属性です。生命を司る属性ともいわれているものですよね」

「正解です!よく勉強されていますね!」


「では、次はいよいよ、ラトネームの葉っぱから薬となる成分を抽出し、簡易的なポーションを作ってみましょう!

手順は紙に書いてありますので、それを見ながら作ってみてくださいね。

今日は手順②まで進めて授業を終わりましょう!

「「はーい」」



紙にレシピが書いてある。

・ラトネームの魔力成分は、傷が入った部分から空気中に出ていってしまうので素早く加工する必要があります

【魔法回復薬の簡易版製作手順】

①石や木の棒などですりつぶすか、刻んだらなるべく早く(訳10秒以内)水に溶かした後、瓶に詰めしっかり蓋をします。水に入れながら刻むと尚良し。

②半日置いておく。

③すると、液体の底にぼやっと光る液体が分離、沈殿し生成され、その部分がポーションの元となる。


なるほど。これは瓶と水さえあればどこでも簡単に作れそうだ。

ごりごりと薬草をすりつぶしていく。



生徒「せんせー!」

  「はい?」


  「なんで学校の人も親戚の人も、みんな自然属性が多いんですかー?」



「そうですね、この国は自然のエレメントを受け継ぐ血筋をもとに、皆で一丸となって自然を愛し、繁栄してきた歴史がありますので、本人の属性とは関係なく習ってきたことが由縁だと思われます。

 ただ、自然属性同士のパパやママの子であっても、時々火や水属性のエレメントを宿して生まれる子もいるので、それもまた自然なことなんですよ。

 本人のエレメントとは違う属性魔法だからといって、その魔法が使えないということはないのです」



ふと、メイプル先生と目が合う___

シオ「…」



シオは誰よりも早く、瓶に薬草を詰め終えた。

と、突然。


憲兵「失礼いたします。伝達です。」

なんだか空気が重々しい。


「警備班より、ガイア区に盗賊化か何者かが侵入したとの一報が入った。一旦生徒を非難させるようお願い申し致す。」

「わかりました。みなさん、大変残念ですが今日のところはここで終わりです。一旦寮に避難してください。

 …ここ最近物騒だね。国の規制がなきゃ私の拘束魔法でとっ捕まえてやるところだよ」



ガイア区に盗賊が侵入…?こんなことは初めてだ。

とりあえず寮に戻るけど、これはまずい。

警備が増えたら




安易に町に抜け出せなくなる……



続く

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