第7話 バグ?いいえ仕様です。スキルの秘密考察!
「そしてだからこそシュンに起きた現象が不可解なんだ」
「不可解?」
「ああ。シュンに起こった現象を引き起こしそうなのは【感応】くらいだが感応はそこまで効果が強いスキルじゃない。だからバグじゃないというならどこに原因があるかわからん!」
そのまま眉間にしわを寄せて黙り込むアース。だが俺はここまでの話で今度こそ原因に思い当たっていた。
そしてその原因を黙っている気がない俺はそれをそのままふたりに伝えることにした。
「多分原因は俺がモーションアシストと感覚補正をOFFにしてるからだと思うぞ?」
「「はっ?」」
先ほどまでの驚きなど序の口だとでも言うような驚き顔を見せるふたり。ちょっと面白いかもしれない。
「今日は俺の人生で一番驚いた日かもしれない」
「同感よ。最初にウサギと戦った時、様子がおかしかったのもこれのせいだったのね」
「言われてみれば!」
しばらくすると驚きから帰ってきたふたりにそんなことを言われてしまった。
「なんか照れるな」
「「ほめてねぇよ(ないわよ)!」」
「冗談だ」
そう言うとふたりはあきらめたように首を振り、疲れた顔をしながら今度はマーレが問いかけてきた。
「つまり感覚補正が効いていなかったからこんなことになったってことなのかしら?」
「それと多分モーションアシストも原因の一つだと思う」
「そっちも?」
「多分。俺の所感になるが聞くか?」
「「もちろん!」」
そう言うとふたりはすぐさま再び興味津々な表情に変わる。
……さっきまでの疲れ顔はどこに行ったんだろうか? それともこれがゲーマーというものなのか? ……まあ元気が出たならいいとするか。
「とはいえそんなに難しい話じゃないぞ? モーションアシストって結局のところスキルを上手に扱えるように制御する機能だろ?」
「まあそうだな」
「ってことはアシストが入った結果、効果が薄くなってるんじゃないか?」
「……どういうこと?」
「制御するってのは効果を最大限に発揮することだけじゃない。その本質はつまるところ強大な力を器に合わせることだ」
そこまで言うと、ふたりはハッとしたような顔をした。
気づいたな?
「そういうことか! このゲームのアシストの本質はつまるところスキルや能力補正で上がった、いや与えられた力をプレイヤーが無理なく扱えるようにする機能なのか!」
「単に自分の動きを良くする機能って程度の認識だったから完全に盲点だったわ。つまりスキルは元々はとても強い力だったのをこの機能で制御された結果、効果が小さくなっているってことなのかしら?」
「というよりスキルにいくつか種類があるんじゃないか?」
「種類?」
「ああ。例えば剣術と感応を例に挙げるなら、剣術はレベルが上がると技が増えて動きが良くなる。つまり元々使える力の幅が狭くレベルアップと共に広がっていくものだ」
「そうね」
ここまではふたりとも問題なく理解出来ているみたいだな。
「対して感応は元々初期の段階で使える力の幅が広いんだ。じゃあレベルアップでなにが変わるのかっていうとおそらく自分が意識して扱える力の範囲が広がるんだと思う」
「扱える力の範囲……」
「そう。アシストで制御下における範囲は多分そのスキルのレベルまでなんだと思う。そうだな……わかりやすいかはわからないが、スキルは最大出力である分母と力の使用可能範囲である分子に分けられている。で、剣術はレベルアップで分子と分母が同時に同じだけ上がって、感応は分母は最大数値のまま分子だけが徐々に増えるんじゃないかと思う。目に見える結果は同じでも過程が違うから効果の程度や使い方に差が出ることになる」
「そういうこと……!? アシスト付きで感応を使っている人はアシストに頼り切っていたから意識して感応スキルを使うことがなかった! 感応スキルの出力は意識して使おうとしないと上がらない。しかもアシストで制御されてるからシュンみたいにうっかり高出力になったりせず、意識しなければ常に最低出力になってしまう。そりゃそうよね! 生き物に触るたびにそんなことになっていたらまともなプレイなんてできないもの!」
「だろ? ちなみに俺が無事だったのは多分感覚補正ゼロでも最低限精神に異常を残さないように影響をカットする機能があるからじゃないかと思う。それを使った上で抑えきれないと多分強制切断されるんじゃないかな?」
そうでなければ俺が無事だった説明がつかない。
「いや待てシュン。つまりお前結構ぎりぎりだったんじゃないのか?」
「んー? まあ何も影響はないから気にしなくてもいいぞ!」
「「おい!」」
実際何もないからな!
それにしてもなんとか上手く説明できたな。このふたり頭の回転自体は速いんだよなぁ。普段あまり勉強してないのに俺が少し教えるだけで期末テストとかを乗り切れるんだもんな。
普段からその頭をもう少し勉強に回せば俺が先生役をやる必要なんかないんだが……まあ二人に何かしてやれることがあるのはうれしいからこのままでもいいか!
「とりあえずこれで疑問は解決だな? このあとどうする?」
「いや待てシュン! もうひとつ確認したいこと、というか伝えたいこと? がある」
「え?」
えっ? これで終わりじゃないの?
「ちょっとアース! まだなにかあるの?」
「ああ。まあこれは確認したいというよりシュンに教えておいた方が良さそうなことって感じだが」
「俺に?」
一体なんなんだ?
「一応一つの基準として聞いてくれよ? シュンの種族、幼竜人なんだが……」
アースがそこまで言ったところでマーレも何のことかわかったようで納得した顔をしてこちらを見た。
「他の種族と比べてかなり能力補正が低いんだ」
「能力補正が?」
「そうだ。正直今回のことで俺達はシュンに伝える情報を絞り過ぎたような気がしてる。ネタバレになったらと思ったが流石にな? 防げないことだったかもしれないけど、これを知っておけば自覚なしに無茶なことに頭を突っ込んだりってことは回避できるかもしれない。……感覚補正0ってことは攻撃を受けたりしたら現実と同じように痛みを感じるはずだからな」
そのアースの言葉にハッとする。確かにそうだ。他の人と違い俺は死んだらデスペナだけでなくかなりの痛みを味わうことになる。
なら無自覚に無茶なクエストとかに突っ込んでいかないように、他とどのくらい差があるのかを知っておくのは必要なことだろう。
「アース。その、ありがとな?」
この言葉で意味が伝わったとわかったのだろう。アースはほっとしたような顔をして話し始めた。
「気にするな。そうだな例えば人間の種族値はSTR:20 VIT:20 INT:20 MND:20 DEX:20 AGI:20って感じだ」
「え?」
高くない? MND以外全部負けてんだけど?
「まあこれでわかったと思うが、大体の種族は能力が偏ることはあっても合計で60くらいは能力値が増えるんだ」
「俺、±30くらいしか増えてないんだけど……」
「その内MNDの10は職業補正だから種族だけで見れば20くらいしか増えてないな」
よっわ。自分のことだけど弱すぎないか? ん? てことは契約して小鬼人になったあいつも普通のプレイヤーからすれば相当弱いのか?
「シュンなら感覚補正の件がなければ、どうにでもなったかもしれないが……。このゲームのランダムで出てくるレア種族とレア職業はな? すさまじく扱いづらいことで有名なんだ。ちょっとネットで情報を調べればすぐに情報が出てくるくらいには知られている。だからランダムを選ぶ奴はまずいない。普通の職業を選んだほうが確実だからな! このゲームのデスペナルティはゲーム時間で1時間のステータス減少にインベントリ内のアイテムの一部ロストにスキル、職業、種族の経験値1割減。それと一部装備の破損だからな。PKは特にペナルティがやられた側には発生しないからそこは救いかな? MPKには気を付けないといけないが……。話を戻すがそこそこ重めのペナルティだからわざわざ序盤に死にまくる可能性の高いランダムレアを選ぶ奴ってシュンみたいに情報を見てないやつか敢えて難易度を上げたい奴くらいなんだよ。このゲームは定期的にゲーム内の職業、種族、スキルの分布情報が公式に出るからそれを確認すればシュンの希少性がわかるぞ!」
……なんか二重苦、三重苦で難易度上がりまくりだな。ゲームはあまりやったことがないからどれほどかはわからないが……。
「やっぱ感覚補正0が厄介だな。気軽に死んだりできないし、モーションアシストもないから最初から武器を上手く扱えたりもしない。今思えばウサギにあそこまでやられていた時点で気づくべきだったな……。救いはこのゲームの運営と開発はゲームの難易度に対するバランス感覚がいいってことだ」
「そうなのか? 随分と差がある様に思えるが?」
「VRゲームにおける難易度のバランスってのは全てのプレーヤーがどんなステータス構成をしていてもきちんとゲームをプレイできるようになっていることだと俺は思っている」
「ふむ?」
「つまり普通のステータス構成をしているプレイヤーでもシュンのように地雷ばかりの構成をしているプレイヤーでもそれによってゲーム進行が出来なくなることはないってことだ」
……そういえば利用規約にも詰みと言われるものはないって書いてあったな……。
「少なくともこのゲームの開発がただ弱いだけのスキル、種族、職業なんてものを作るとは思えない。レア種族とは言え、いやだからこそか? 意味も無く他の種族より劣るステータスになっていることはないはずだ。それは職業にも言える」
「つまり俺達プレイヤーが見つけられていないだけで種族にも職業にも何かしらのこうなっている意図があるってことか?」
「少なくとも俺はそう思う。だって種族なんて幼い竜人だぞ? 最初は弱くても育てれば半端なく強くなるとか普通にありそうじゃないか? それならそれはただ単に大器晩成型の種族だってだけだろ?」
なるほど、確かにそうか。
公平な人間がなにも考えずにただ弱い種族を作ってゲームバランスを欠くようなことをするわけがない。
それが存在するってことはその種族はそれで他の種族とバランスが取れているってことだ。
種族、職業、スキルの扱いが難しいこと=難易度のバランスが悪いのではない。
結局のところそれにどうやって向き合い、どうやって扱い、どうやって道を決めるかはプレイヤー次第なのだ。
運営がプレイヤーに与えるのは無限ともいえる選択肢だけ。
そもそもプレイヤー全員が同じ道筋を辿れるようになっていて、同じ道筋を辿れば同じ成長が出来て同じ報酬や結果が貰えてなんて面白くもなんともない。
それじゃあINFINITY STORY'S ONLINE……無限の物語なんて生まれない。
それに……俺はそのアースの言葉の片鱗をさっきのゴブリンとの契約の際に既に感じている。
「まあそんな偉そうなことを言ってはいるが結局のところ俺も安牌を選んでるんだけどな」
アースの説明に感心しながら俺が頷いていると笑いながら余計な一言を追加するアース。
「アース……あんた折角人が感心してるんだから最後までカッコつけなさいよ……」
俺の隣でアースの説明に同じように感心していたマーレが今度はその表情を呆れに変え溜息をつく。
だけどアースのおかげで俺のやることは定まった。
「それなら俺の当面の目標は幼竜人と召喚術士が一体どんな存在なのかを探求しつつ、戦闘技術を鍛えることだな!」




