第70話 3つの島の選択
「そういえばシュンは結局どの島に行くつもりなんだ?」
俺が掲示板を見て改めてサクヤ達、契約モンスターへの注目度の高さに戦慄し、思わずお礼を言った俺にあまり気にするなとでも言うように肩を叩きながらアースは今回のイベントのことについて俺にそう尋ねてきた。
アースのその唐突な話題転換と肩への衝撃で俺は我に返る。そして今だ高速で流れる掲示板を気にしても仕方がないと思い込むことで見なかったことにして、アースの方に意識を向けることにした。うん、もう考えない。コレ、大事。
「そういえば言ってなかったっけ?」
「ああ。夏休みに入ってからはいろいろ忙しかったし、ここんところはISO内でもシュンとはなかなか会えなかったからな……」
「忙しかったって……アースは夏休みに入ってからISOしかやってないだろうに……。 まあISO内でのことは悪いと思ってるよ」
「あははは……ま、まあ俺の今年の夏はISO三昧にするって決めてるからな! あと……ISO内でのことはしょうがないってわかってるから気にするな!」
そう言って微妙に目を逸らすアース。まったく……そんなだから毎年休み終わりに慌てることになるんだぞ?
「はあ~……まあそれはいい。今は島のことだろ?」
「そ、そうそう! それで……どうするんだ?」
慌てたように俺が戻した話題に乗っかりに来るアース。その様子は去年の夏休みのアースの様子に重なるもので……。
……これは今年も夏休みの終わりは忙しくなるな、と諦念を抱きながら俺は彼が知りたいであろうことについて答えることにした。
その瞬間、周囲が静寂に包まれる。見渡すと周囲にいるプレイヤーの殆どがこちらへと耳を澄ましながら意識を向けている。
そんな周囲の様子にやっぱりこの話題は誰のものであっても皆気になるんだろうな、と考えながら俺は努めて気にしないようにして口を開いた。
……実際は注目プレイヤーたる俺がどの島に行くかを知りたがっていたのだが注目されることに不慣れな俺がそれに気が付く事は無かった。
「『鉱玉島』『試練島』『遺跡島』の3つにしたよ」
「お! 試練は一緒だな! ならその島を探索するときは一緒にやろうぜ!」
「あっ! 私のところも試練は一緒よ! シュン、私とも一緒にやりましょうね!」
俺のその返答にざわつき始める周囲。そんな周囲の様子に頓着することなく、アースはうれしそうな顔をして俺を試練の島への探索に誘う。
そしてそんな俺達の話をユキホを可愛がりながらも聞いていたらしいマーレが追随するようにユキホを抱きしめながら俺にそう言い……
「ああ、約束だからな。二人ともその時はよろしく!」
そんな2人にもちろん俺は笑顔で了承を返したのだった。
ただマーレ……ユキホが苦しそうにしているからもう少し力加減を考えてやってくれ。
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「それにしてもどうしてその3つにしたにゃ?」
そんな風に俺達が約束を交わし、マーレにユキホへの力加減を注意したりていると、今度は隣で静かに俺達の話を聞いていたにゃん娘さんが不思議そうな表情をして俺にそう尋ねてきた。
「どうしてですか?」
そのにゃん娘さんの言葉に俺は首を傾げる。そんなに変な選択だろうか?
「にゃっ! 試練と鉱玉はわかるにゃけど遺跡は一応観光メインのプレイヤーが選ぶような島にゃ。ぶっちゃけ今回全く人気がない島にゃよ? シュン君なら『草糸島』あたりを選ぶかと思ったにゃ」
ああ、そういうことか。
「最初はそうしようかと思っていたんですが……」
「それについては儂が不要だと言ったんじゃよ」
にゃん娘さんの疑問に納得し、事情を話そうとしたところで後ろから今回の選択をした原因たる人物……
「ガンテツさん……」
が、声を掛けてきたのだった。
「にゃん? ガンテツにゃんがにゃ?」
「そうじゃ」
「それまたどうしてにゃ?」
?を頭上に浮かべながら首を傾げるにゃん娘。その表情は心底よくわからないという表情で……まあたしかにガンテツさんは鍛冶屋で鉱玉以外は特に関係ないだろうからな。
「それはじゃな……」
「私から頼んだんです!」
そうして事情を説明しようとしたガンテツさんの言葉に被せる様に小柄な女性がガンテツさんの後ろから姿を現す。
そして事情を説明しようとして思い切り出鼻をくじかれる形になったガンテツは実に微妙な表情をしながら口を噤んだ。
というかこの流れなんかデジャブ……。
「シャーリーにゃん?」
ガンテツの後ろから出てきたのはガンテツの孫シャーリーだった。
「なんでまたシャーリーにゃんが?」
「実はですね……」
あれは俺がオルソと共に邪素の中に突入し、休憩のため一度拠点にしていた川岸に戻ってきていた時だった。
俺は初日以降休憩の時は毎回火を起こして魚を焼いたり森で狩った猪の肉を焼いたりしてオルソと共に食事を取っていた。
「その時にシャーリーさんとガンテツさんが来たんだったよな……」
「はい!」
正直俺としても予想外の遭遇だった。だって2人は生産職。それもトップ生産ギルドのツートップの生産職なのだ。服飾素材も金属素材も採れない筈の北の森にわざわざ来ることなんてない筈の相手だし、そもそもトップクラスの生産者なのでぶっちゃけわざわざフィールドに採取しに行かずとも普通に買い取りで素材を集めることもできるのだ。
そんな人間がなぜか今いろいろ問題があって話題になっている北の森に居る。にゃん娘さんに情報を流して掲示場にも情報を乗せて貰っていたから、俺じゃあるまいし知らなかったなんてこともない筈だ。
それでもって目的は俺だと言うのだからさらによくわからずその時はかなり混乱したものだ。
「にゃんでまたそんなことしてるにゃ」
そして当然にゃん娘さんも俺と同じ結論に達し不思議そうな表情になった。 だよな? そう思うよな? 俺も思った。
「少しお願いしたいことがあったんです」
「お願いにゃ?」
「はい。実はシュンさん達の防具を今回のイベントで集めた素材で作らせてもらえないかと思いまして」
「シュンにゃんの?」
「そうです」
「まあそういうわけだ」
なんでもガンテツさんの元に訪れた時に俺達のことを見た時からお願したかったらしい。
「ならその時に言えばよかったにゃ」
「その時はシュンさんの防具を上回るものを作ることは出来ませんでしたから……ですが今回のイベントでいい素材をたくさん手に入れて彼の装備をパワーアップすることが出来そうならその時は……と」
と、まあこういう次第である。
「それなら猶更シュン君に素材集めを手伝ってもらえばいいんじゃないかにゃ?」
「これは私の戦いです。素材の採取からこだわり最高の1品を作らなければなりませんから」
「なんちゅう頑固な職人にゃ……」
俺もそう思う。こういう頑固なところはガンテツさんに似たのかもしれない。
「それで? にゃんでシュン君のところに直接行ったにゃ? ガンテツにゃんからメールか何かでお願すればいいと思うにゃけど」
「それはだめじゃ。頼むのはこちらなのだからこちらが出向かねば」
「その通りです」
「「……」」
本当にそっくりな祖父とその孫である。
「まあそんなわけです」
正直何故そんなに俺達の防具を作りたいのかはよくわからないが正直有り難いことには変わりない。
先生も今の性能以上の装備は作れないと言っていたし、これから先のことも考えるなら彼女とのつながりは正直ありがたい。
そんなこんなでこの世界で出会った友人たちと会話をしているうちにイベント開始の時間が訪れるのであった。
次回投稿は3月4日(金)16時です!
これでどの島に行くか決まりました! 実は試練と遺跡以外はどの島にするかギリギリまで悩んでいたので無事に決められてほっとしています。
一応それぞれの島でのお話を一通り考えてあったのですごい悩みましたw
それでは次回もお楽しみに!




