第6話 やらかしと地雷
「「意味がわからん(わからない)」」
俺の話を聞いた2人の第一声がそれだった。
「そうか?」
「「そうだよ!」」
2人の言葉がシンクロする。
「まずお前がゴブリンを掴んだ時だ。聞く限り明らかな異常事態だろ? シュンが何故大丈夫なのかはわからんが、普通いきなりそんなことが起こったら錯乱、とまではいかないかもしれないがもっと慌てるし、下手したらVRとのリンクを緊急切断されて強制ログアウトしかねない」
「そうなのか?」
実際に経験した俺としてはそこまでとは思えなかったんだけどな。手もすぐに放したし。
「そうなんだよ! これは一応運営にクレームを入れたほうがいいな」
そう言うと何やらコンソールを出して操作し始めるアース。すると今度はマーレがアースの後を引き継いで話し始める。
「アースの言う通りよ、シュン。あの時は本当に心配したんだから」
そう言って心配げな顔を俺に向けながら服を引っ張るマーレ。
「いやその、すまん」
そんな様子のマーレを見ては流石に謝らざるをえない。思わずバツの悪い顔をして目をそらすと、マーレがクスッと笑いながら俺の顔を覗き込んできた。
「まあでもなんともないのならいいわよ!」
そんなマーレの様子に思わずホッとする俺。そんなことをしているといつの間にか運営へクレームを入れ終わっていたアースがにやにやしながら話しかけてきた。
「いい雰囲気のところ悪いんだけど、話を進めていいか?」
その言葉に何故かマーレが顔を赤くしながら俺から少し離れ顔を背ける。
いい雰囲気?
「どうしたんだマーレ?」
「なんでもないわ。いいから話を進めて」
「? わかった」
マーレがそういうのなら話を進めよう。
ボソッ「アースの奴、後で覚えてなさい」
「マーレ、なにか言ったか?」
「いいえなにも」
「そうか……」
まあいいか。いい加減話を進めよう。
「それでアース運営の方はなんて言ってたんだ?」
「ああそれなんだけどな、運営からは『ログを確認いたしましたが、バグ等の異常は確認できませんでした。起こった現象は全てこのゲームの仕様であり、プレイヤーの皆様の安全を損なうものではありません』って返ってきたんだ」
「仕様? なによそれ?」
「わからん。それで…シュン!なにか心当たりはあるか?」
心当たり? ……めちゃくちゃあります!
「心当たりがありそうな顔だな」
....ハハ、見抜かれてーら。
まあもともとそのつもりだったけどステータス、特にスキルを見せれば多分2人ならわかるだろう。
「多分俺の持つスキルが原因だと思う」
「どんなスキルだ?」
「まあ待て。最初からそのつもりだったが、2人には俺のステータスを全部見せるから。多分それで一通りのことがわかると思う。とりあえずステータスの開示方法を教えてくれ」
ステータスなどのプレイヤーの個人情報は基本的に本人の同意がないと、他者が見ることはできない。覗き見防止だな!
それはともかくアースにやり方を聞いて2人にステータスを開示する。
2人は表示されたステータスを興味津々に覗き込み内容を確認し始め、すぐに興奮し始める。おそらく種族辺りでも見たのだろう。こっちもレアだからな。
というか俺への心配云々はどこへ行ったんだ?まあ2人が楽しんでくれてるならそのほうがいいんだが。
そして目線が一番下まで行きついたところで2人揃って顔を上げた。かなり興奮しているがどことなく疲れているように見える。
一息ついたところでアースが一言。
「いろいろツッコミどころの多いステータスだな」
「第一声がそれか」
まあ自分でも薄々思っていたことだから反論もできないが。
「そもそもなんでこんな構成になったんだ?職業と種族はランダムだと思うが……」
「いやその……いろいろ見てもよくわからなかったから……。スキルもおすすめを選んでもらったんだ」
「おすすめ? 誰に?」
「案内の声の人?」
「そんなことができたのか……」
アースはそう呟き、呆れたように溜息を零す。
そんな呆れなくても…。
「むぅ」
「まあまあ。シュンはこのゲームが初めてなんだもの、ある程度はしょうがないわよ! 私たちもいろいろ聞いちゃうと面白くないと思って、ほとんどなにも教えてなかったし!」
そう言って肩を叩いて慰めてくれるマーレ。いやこれ慰めてるか?
とはいえ俺もネタバレが嫌で2人から最低限のこと以外は聞かなかったから余り強くは言えないが……。
というか割と自業自得だが……。
「はぁ。もういい。それで?」
「ああとりあえずゴブリンに触れた時に起きた現象の原因はこれか?」
そう言ってアースはある一点を指差す。指の先を見ると予想通りその指の先にはスキル【感応】があった。
「多分、いや十中八九そうだと思う」
というかそれ以外に心当たりがない。
「でも確かこのスキルはそんなとんでもないスキルじゃなかったはずだぞ?」
「そうなのか?」
「ああ。このスキルは確かに触ったりした相手の感情が伝わるが本当に何となく? くらいなものだって話だったはずだ。βでは主にテイマーが使っていたが、ぶっちゃけほとんど効果がないから地雷スキルの一つとして数えられていたはずだ。地雷スキルはネットに情報が載っているから、多分製品版でこれを取得するやつは殆どいないと思う」
「初期スキルはβ時代に大体検証されているからね。βから変更があったスキルは公式HPでスキル名だけは公開されてるけどこのスキルはなかったはずよ」
「マジか!」
まさか地雷扱いされているスキルだったとは……。
「……この際だから言っちまうが、シュンの地雷はこれだけじゃないぞ?」
「え?」
「種族は初めて確認されたから何とも言えんが、職業と刀術、魔力操作はネットでは地雷扱いされている」
「そうね。特に召喚術士は元の響きがいいだけにかなり酷評されていたわよ?」
あ~。ちょっと酷評した人の気持ちがわかってしまった。俺も最初なんだこれって思ったしな。
「一応俺の職業と地雷スキルの評価を聞いてもいいか?」
「「もちろん!」」
面倒くさがらずにあっさりと頷いてくれる2人に感謝する。本当に今度なにかお礼をしないとな……。
「そうだなまず召喚術士だが、簡単に言えばすべてにおいてコストが重くアーツの成功確率が低い。その上能力値への補正がMNDにしか振られず補正値もあまり高くない。それで同じようにモンスターを仲間にするなら、従魔士の方がはるかに使い勝手がいいってなったんだ」
アーツ関係については気づいてたけど、補正値まで低いのか。
「うわ~……。ちなみにテイマーはどんな感じなんだ?」
「そうね……。まず召喚術士はモンスターをしまっておいてどこからか召喚するけど、従魔士はモンスターを常に連れ歩くか、家を買ってそこに待機させる必要があるわ。基本的にテイム数に限界はないけど、自分のホーム以外ではパーティ人数を超えて連れ歩けないから、テイムするほど待機させる広い家または土地が必要になるわね」
「土地さえあれば羊みたいに毛が取れるモンスターなんかをたくさんテイムして、家でアイテムを大量生産できるから生産系ギルドに一人はテイマーがいるな。生産系ギルドに協力する代わりに土地を買うお金を工面してもらう、って感じの共存関係を築いている。テイムは従魔士にならないと覚えられないからな」
そこまで一息に言ったところで2人はお互いに目配せし、
「「そしてなによりテイム確率がそれほど低くない!」」
と、息を合わせてトドメとでも言うべきことを言い放った。
「モンスターの強さにもよるが、自分よりはるかに強かったりしない限りある程度追い詰めればそこそこの確率で成功する」
「確か同格の相手なら5割方成功するらしいわよ? 追い詰めていればさらに確率が上がるみたい」
ということは、
「現状、召喚術士が勝っている点はモンスターを連れ歩く必要がないから、家が必要にならないってことだけってことか?」
「まあそういうことだ。一部ではレア職業なのに召喚術士は従魔士の下位互換なんて言われたりするからなぁ。βの時召喚術士をやったやつも本リリースで従魔士に変えたらしいぞ?」
召喚術士の扱いに涙を禁じ得ない。
「とまあ従魔士関連はこんなとこだ。そして次に刀術。これについては準地雷って感じの評価だな」
「準地雷?」
「そうだ。使える人をかなり選ぶが使える人が使えば強いって感じだな」
「なるほど。ちなみにどの辺が人を選ぶんだ?」
「モーションアシストがあっても、上手く刀を振れない」
「え?」
「モーションアシストはどんな奴でもスキルさえあればそれなりに上手に武器とかを扱えるようになるんだが、限度はあってな?」
「ある程度力任せでもどうにかなる片手剣とか槍とかと比べて元々扱うのに技量が必要な分操作難易度が高いのよ。そして武器の特性をかなり現実に近づけてあるみたいで、耐久値の減りが多いうえに上手く振るえないと敵に当たった時の耐久値の減りがほかの武器に比べて更に増えるみたいなのよね。具体的には大体倍くらい」
「倍!?」
「そう、倍。まあその分攻撃能力自体は高いんだけどね!」
……あ~、確かに現実でも刀ってすぐに刃こぼれするとか言うもんな。でもそれを差し引いたうえで最強の美術品なんて呼ばれ方をすることもある。そこらへんが反映されてるのか。
「さて長くなったが最後の地雷スキル、魔力操作だ。まあこれは簡単だ。感応と同じで取得しても全く効果が実感出来ない。だから取得するだけポイントがもったいないし、練習してポイント消費なしで取得するのも時間の無駄だって言われてるんだ」
そうなのか?俺はバリバリ実感できてるし、取って良かったと思ってるが?
「まあそんなわけでこれらは地雷扱いされてるわけだ」
「なるほどなぁ」
理由を説明されると実に説得力があるな。
そんな風に思わず感心していると、納得したような俺の様子に気づいたのだろう。
一つ頷いてここからが本題だとでも言うようにアースは口を開いた。
「そしてだからこそシュンに起きた現象が不可解なんだ」




