第68話 黒白の舞
~~シャラン ~~シャラン ~~シャラン
俺の空色の瞳の中で黒と白が舞う。
時に近づき、時に離れ、時に交わり……くるくる、くるくると舞い踊る。
黒の軌跡に紅が散り、月の光が降り注ぐ。
白の軌跡に桜が散り、白の雪花が降り注ぐ。
サクヤとユキホ……艶やかな黒と汚れ無き白がまるで円を描くような軌跡を描き、その中を紅葉が舞い、月光が注ぎ、桜が散って、雪の花が儚く消えていく。
その普通には有り得べからざる美しい光景は俺から言葉を奪うに十分なものだった。
「……」
唯々、感嘆の吐息を零し、その幻想的な光景に見入る。
2人の舞は双子のように息が合っていて、まるでお互いの思考が全て読めるかのようだった。
「見事なものでしょう」
隣で共に2人の舞を見ていた、師匠が静かにそう尋ねてくる。
そして俺はその言葉にすぐさま勢いよくけれども2人の邪魔をしないように静かに頷いた。
「はい。心から素晴らしいと思います」
頷いている間も決して視線を逸らさず2人の舞を目に焼き付ける。
一瞬でも視線を逸らしたくはない。
その時、視界の中できらりと、2人の左手首で何かが光る。
「師匠、2人の左手首にあるのは?」
「ああ、あれはサクヤさんが付けていた月夜の紅桜です」
「え?」
師匠の回答に間抜けな声を上げ、慌てて再び目を凝らし、2人の左手首を見る。
色々あって気が付かなかったが2人共、左手首によく似たブレスレットを付けている。
だけど……
「何か形が違いませんか?」
月夜の紅桜。これは以前領主様から貰った物を俺がサクヤにプレゼントしたものだ。
少し太めの銀色の土台に満月の中に紅葉と桜の花が美しくあしらわれたイラストが描かれたもので、もちろん二つに分割できるような機能など持っていない。
更に目を凝らして彼女たちの左手首を見る。
以前の面影を残しながらも最初のものより更に洗練され、形を変えたブレスレット。
サクヤの髪の色である黒をメインに白と紅を合わせた組み紐に白銀の満月と紅い紅葉が空に舞う様な飾りをあしらった美しい鈴の音を響かせるサクヤのブレスレット。
ユキホの髪の色である白をメインに緋色と蒼を合わせた組み紐に青白の雪の花と淡い桃色をした桜の花びらが舞う様な飾りをあしらい、そこから美しい鈴の音を響かせるユキホのブレスレット。
それらが彼女達の舞に合わせる様に混然一体の輝きを放って2人を美しく彩っている。
うん……
「これはどういうことで?」
「ええ。その、実は……」
少し言い淀みながらも始まった師匠の説明によると……サクヤの舞の修行を始めた当初は元の月夜の紅桜のまま修行を積んでいたらしい。
だが途中でユキホが加わって状況が変わった。
「今、この舞を見ていてもわかるかもしれませんが、あの魔道具があるのとないのとではどうしても舞う際の美しさに差が出来てしまうのです」
それでもユキホは気にせず頑張った。それはもう端から見ていて実に健気に頑張っていた。
だが、だからこそそんな状況に罪悪感を募らせてしまう者がいる。言うまでもなくサクヤだ。
健気に頑張っているユキホの隣で共に研鑽を積んでいたサクヤ。
だが片や道具に頼らず頑張っている妹分。
片や道具の力で実力以上に美しい舞になっている自分。
道具もまた力とはいえなんとなく気まずい。
そしてユキホも口では気にしていないと言いながらも、時折サクヤの持つブレスレットに羨望の眼差しを向けてくる。
……うん、それは確かに耐えられない。
「そこで私の知人を頼ってサクヤさんのブレスレットを改造し、二つに分けたのです。言うなれば姉妹ブレスレットですね。サクヤさんの方が月夜の紅葉鈴、ユキホさんの方が雪夜の桜花鈴です。効果は舞の効果上昇はどちらも同じ。そしてサクヤさんの方が筋力、耐久上昇になり、ユキホさんの方は知力、精神の上昇になります。上昇率は前のものと変わりません」
「……なるほど」
非常に納得した。確かにそんな状況で自分だけというのは罪悪感がある。
効果の方はサクヤのブレスレットにあった精神強化がユキホのブレスレットの方に行き、知力強化がユキホの方についた感じか。
エフェクトに関してはサクヤが月光と紅葉、ユキホが雪花と桜花が散る様になっているって感じか。
2人の舞が徐々に静かなものに変わっていく。そろそろ終わりが近いのだろう。
「サクヤさん達の成長ぶりはどうですか?」
説明を終えた師匠が今度は俺に問いかけてくる。
その声音は実に満足げなもので、俺がどう答えるかもわかっているかのようだった。
その問いに思わず苦笑する。
「もうわかっているのではないですか?」
「ええ。ですがやはり直接聞きたいと思うのです」
「……そうですか」
徐々に穏やかな動きになっていく2人を見つめる。
こんな素晴らしいものを魅せられて出る返答なんて決まっている。
「想像以上、素晴らしい、感無量……俺の語彙を全て使い果たしてもどう表現すればいいかわからないくらい凄いです」
心底そう思う。万感の思いを込めて師匠に答える。
そんな俺の答えに師匠は満足げに息を吐き出すと、もう聞くことはないとでも言うように押し黙る。
2人の舞はもう風前の灯火とでも言うように静かなものになり、やがて最後の鈴の音と共に止まった。
俺達の方を向き静かに一礼する。
そして俺達は頭を下げた2人に万感の思いを込めて拍手を送った。
拍手を送られた2人は恥ずかし気にしながらも俺たちの方に近づいてくる。
俺はそんな2人を満面の笑みでもって迎えた。
「2人ともすごく綺麗だったぞ! こんな綺麗な舞を見たのはこれが初めてだ!」
俺の前に立った2人の頭を撫でながら全力で称賛の言葉を送る。と、言っても思ったことをそのまま言えばいいだけだから苦労もないが。
2人はしばらく俺になされるがままに気持ちよさそうに撫でられている。
5分程、2人を愛でた後、俺はサクヤのステータスを識別した。
■《魔物》名前:サクヤ ♀ Rank:1■
種族:小鬼人 Lv.25
職業:刀巫女≪NEW≫
ステータス
HP:225/135→225↑ MP:100/50→100↑ KP:110/60→110↑ EP:93/100
STR:65→100↑ VIT:45→80↑ INT:20→30↑ MND:25→60↑ DEX:30→50↑ AGI:30→60↑
▼Skill:≪神通流派刀術Lv.25↑≫ ≪身体強化Lv.20↑≫ ≪料理Lv.10↑≫ ≪気配察知Lv.15↑≫ ≪気力操作Lv.17↑≫ ≪生命力操作Lv.10↑≫ ≪足運びLv.20↑≫ ≪呼吸Lv.20↑≫ ≪集中Lv.15↑≫ ≪見切りLv.15↑≫ ≪身軽Lv.15↑≫ ≪剛力Lv.25↑≫ ≪剛体Lv.20↑≫ ≪身体制御Lv.20↑≫ ≪精神制御Lv.15↑≫ ≪暗視Lv.5≫ ≪剣舞Lv.20↑≫ ≪魔力視Lv.1≫≪NEW≫ ≪マナ操作Lv.1≫≪NEW≫
「なんて?」
サクヤのステータスを確認した瞬間、俺はつい思わず片手で目元を覆う。
はっはっは、今なんか予想のはるか上をぶっ飛んだ何かを見てしまったような……!
流石に、うせやろう? と、思いながらチラリ、と目元を覆う指に隙間を作る。
うん、見間違えじゃない。
俺は師匠に視線を向ける。なぜか師匠も俺の方を見ていたらしくパチッと視線が合う。
「……」
「……」
お互いに無言で視線を合わせる。
舞の指導の筈がどういうこっちゃねん? という俺の疑問一杯の視線と師匠の涼やかな視線がぶつかり合う。
そして俺の視線に根負けしたかのように深いため息を付いて口を開いた。
「あなたがいつまで経っても帰ってこないからです」
「え?」
「舞の指導自体は7日もあれば終わりました。しかしあなたは何時まで経っても帰ってこない。そのため帰ってくるまでの間サクヤがまだ覚えることが出来ていなかった月の型を教え、それも終わりでは帰ってくるまで少し実践を……と、やっているうちにこうなったのです。流石にあなたが帰ってくるまで家の炊事洗濯だけでは可哀そうですから」
「本当に申し訳ございませんでした」
理由を聞いて俺は即座に頭を下げた。そりゃそうか……舞の指導だけで3週間近くもかかることなんてスキルなんてものがあるこの世界ではありえないことだった。
俺は家に殆ど帰らず、偶にフラッと帰ってくる父親、というものはこんな感じなのだろうか。
と、そんなことを思いながら俺は次に別行動があったらもっとこまめに皆の顔を見に戻ってこようと心の中で反省しながら師匠の許しを得るまで頭を下げ続けるのだった。
次回投稿は2月18日(金)です!
全員著しい成長でした! ですがこれでも他プレイヤーと比べたらステータス的には低いですw
サクヤは夜桜ならぬ夜紅葉、ユキホは雪桜のイメージです! 雪桜は過去に実際にあった現象でネットを探せば画像があるので興味のある方は探してみてください。
次回はいよいよキャンプイベントの開始日です!
キャンプイベントの内容自体は去年の11月時点で決まっていたのですが、なかなかそこまで辿り着かず……もうすでに5~6章分くらいは内容が纏まっているので早いところ残りも書いていきたいところですねw
もっと速筆になりたい今日この頃です!
それでは次回もお楽しみに!




