第65話 ユキホの成長
クスクスと俺の様子に笑いを零しながら、愉快気にこちらを見てくる先生と後ろでそんな先生に呆れたような視線を向けている師匠達。
俺はそんな彼らに一瞬視線を向け、今はそれどころではないと直ぐにユキホへと意識を戻す。
「ユキホ、一旦俺から……」
「いやです」
「……」
「い・や・で・す~」
俺に最後まで言わせず俺の言葉に被せる様に拒絶を口にし、全身でもって俺から離れるのを嫌がるユキホ。
そんなどこか幼いユキホの様子にこの子がまだ召喚されてそれほど経っていないことを思い出す。
この子が召喚されてからまだ1ヶ月くらいしか経っていない。
そう考えればユキホが甘えん坊なのはしょうがないことではないだろうか?
むしろサクヤとユウゴみたいに精神年齢が高い方が珍しいのではないかと俺は思い直す。
俺から離れまいと全身全霊で腰にくっ付いているユキホ。
そんなユキホの様子を見て放っておいた負い目もあり、無理やり引きはがすのが可哀そうになってしまった。
「……」
息をついてユキホを引きはがすのを諦め、そのままでいいと伝えるためにサクヤのように膝下まで伸びた白いさらさらのストレートロングの髪を一撫でした。
ピンっと、一瞬2本のしっぽが縦に真っ直ぐ伸び、喜びを表すように左右にユラユラと揺れる。
感応スキルを使わずともわかりやすいユキホの反応に俺は思わず苦笑しながら、ユキホを腰に張り付けてそのまま立ち上がった。
「主様」「主」
そして今度は俺が落ち着くのを見計らっていたのだろう2人。
サクヤとユウゴが師匠達の後ろから俺の前へ出てきて、片方は笑顔で、もう片方は真面目な顔をして俺に声を掛けながら近寄ってきた。
「サクヤ、ユウゴ……しばらくぶりだな。元気だったか?」
「お久しぶりです、主様! はい、私の方は問題なく!」
「私もです。修行の方も万事滞りなく」
「それならよかった」
二人のその言葉にユキホのような異常事態は起こっていないようだとひとまずほっとする。
そして労わるように2人の頭をユキホにもしたように撫でてあげる。
俺の手をサクヤは嬉し恥ずかしそうにユウゴは気恥ずかしそうにしながらも受け入れてくれる。
手から感応スキルを通して伝わってくる2人の充実感と喜びに思わず笑顔になってしまうな。
まあ師匠とドルグが面倒を見てくれていたんだからこちらは問題ないか……。
問題があるのは……
「それで先生? ユキホのこれは一体全体どういうことで?」
俺は二人を撫でるのを辞め、顔を引き締めて今回一番気になる事態を引き起こしたであろう元凶へと視線を向ける。
その際、撫でていた二人が非常に残念そうな表情をしていて思わず手を頭の上に戻しそうになったが鋼の精神で手を2人の頭から引き剝がした。
……2人とも以前から少し犬っぽいとは思っていたが、今は前よりも更に犬っぽくなっているような気がするな。
ちらりとユキホに視線を向け、続いてサクヤ、ユウゴと視線を飛ばす。
……そういえば俺が3人と数日以上の間、離れて行動したことはなかったな。
現実時間では1週間、こちらでは現実の3倍時間が進むから大体3週間くらい離れていたことになる。
当然そんな長期間、俺と離れて行動する経験なんて俺含め誰もしていないのだ。
俺はずっと北の森にオルソと籠っていたからこの屋敷に帰ってくることもなかったし。
改めて放って置きすぎたか、と心の中で深く反省しつつ後でたっぷり甘やかしてやることを決める。
とはいえ今はひとまず先生に尋問して話を聞き出すのが先だ。
「どういうことも何も見た通りだよ、シュン君!」
バッ、と両手を広げてまるでさあ我が偉業を称えよ! とでも言うようにドヤ顔を向けてくる先生。
その様子に更にイラっとしながら言葉を重ねようとしたところで……
「ぐえっ!」
その態度に業を煮やしたドルグにドヤったことで仰け反った頭を思い切りブッ叩かれた。
「ぐっ! おっ! っ!」
背中と頭を打ち付け、後頭部に走る痛みに恥も外聞も投げ捨てて地面の上をゴロゴロと転がり回る狐男。
「いいから早く説明してあげなさい」
その様子に思わずうわぁ、と引いているとそんな先生の様子などまったく気にした様子もない師匠からいいから早くしろと言わんばかりの言葉が投げつけられる。哀れ。
「うぐぐっ! さ、さすがにこれはひどく……いやわかった! わかったからその拳をおろしたまえ……!」
その扱いに文句を言おうとして再度振り上げられたドルグの拳に慌てたように説明を承諾し、拳を下ろすように懇願する。
その姿には最初出会った頃のような隠れた実力者、知恵者といった雰囲気は全くと言っていい程皆無だった。
俺があの頃の(ゲーム時間で1ヶ月程前の)先生を思い出して遠い目をしているとコホンと咳ばらいをしながら俺に向かって居住まいを正した。
「ゴホンっ! え~そうだな……シュン君まずはユキホ君を識別してみてくれ」
「わかりました」
師匠とドルグのおかげで真面目モードに入った先生をみて俺もまた居住まいを正し、素早くユキホを識別する。
■《魔獣:幼体》名前:ユキホ ♀ Rank:1■
種族:二尾白狐 Lv.20↑
職業:巫女≪NEW≫
ステータス
HP:40/20→40↑ MP:400/105→400↑ KP:80/40→80↑ EP:100/100
STR:20↑ VIT:20↑ INT:120↑ MND:120↑ DEX:10↑ AGI:80↑
Skill:≪火魔法Lv.15↑≫≪氷魔法Lv.15↑≫≪光魔法Lv.15↑≫≪魔力操作Lv.25↑≫≪幻影Lv.5↑≫≪符術Lv.15≫≪NEW≫≪扇子術Lv.10≫≪NEW≫≪舞Lv.15≫≪NEW≫≪歌Lv.10≫≪NEW≫≪人化Lv.―≫≪NEW≫
≪AS:符術≫
・魔力を込めて紙に綴った文字を現実とすることが出来る。
▼<作成可能符術>
・火魔法・氷魔法・光魔法・幻影
▼<作成可能特殊符術>
・伝達
【SW:祈りは力。祈りを込めて、文字を綴れば祈りは必ずあなたに答える。】
≪AS:扇子術≫
・扇子を上手に扱えるようになる。
【SW:ひらり、ふわり、舞い踊る。芸の中、戦の中をひらりふわりと舞い踊る。】
≪AS:舞≫
・無手または扇を用いて舞を踊り、神々に奏上することで様々な効果を得られる。強く願うことでその願いに沿った効果を得ることができることもある。全ては神々次第。
この舞は特に光、闇、風、水の神が好んでいる。
≪AS:歌≫と合わせることで効果を増幅できる。
▼現在得られたことのある効果:なし
【SW:それは神々の遊戯。だが強き願いに神々は必ず答えるだろう。】
≪AS:歌≫
・上手に歌を歌えるようになる。レベルが上がると歌に様々な効果を付与することが出来る。
≪AS:舞≫と合わせることで効果を増幅出来る。
【SW:思いを胸にあの先へ更なる先へ響き渡る様に。思いは必ず歌と共に。】
≪AS:人化≫
・人の姿になることが出来る。成功すると神より職業の加護を与えられるようになる。(一部モンスター限定)
解除すると元の姿に戻る。
【SW:魔でありながら、人を求めるものよ。人の姿を手に入れても魔であることに変わりはなし。努々忘れぬことだ。】
ユキホのステータスに思わず絶句する。
いったい何がどうなればこんなことになるのかと思うくらいの急成長。
ステータスは種族、スキルレベル共に軒並み上昇しており、新しいスキルを5つも習得している。
まずは符術。これは今回俺がお願いしていた伝達の魔道具を作るためのスキルだろう。魔道具作成とかそんなスキルかと思っていたが符術だったんだな。
まあこのスキルの方が先生にはしっくりくる。
そして今回の騒動の原因はこの人化スキルが原因だろう。
この人化スキルの効果のおかげで人の姿を手に入れ、更には今まではなかった職業まで手に入れている。
そして残りのスキルは舞に歌に扇子……。
「師匠……」
思わず責めるような視線を師匠へと向ける。
だが師匠はそんな俺の視線など、どこ吹く風とでも言うように言葉を返してきた。
「それに関してユキホさんが自分から習いたいと私の元へ来たのです」
「そうなのか?」
腰に張り付いたままのユキホへと言葉を向ける。
ユキホは腰に張り付いたまま顔を上げてにっこりと可愛らしい笑みを浮かべて言葉を返してきた。
「はい、にいさま! 私からお師匠様にご教授をお願いしました!」
「そうか……」
その輝くような笑みに俺は何も言えなくなる。
ま、まあこれに関しては覚えておいて損はないだろう!
芸は身を助けるとも言うからな!
「シュン君……君、シズカ君には弱いんだね……」
そんな風に納得している俺に、横から残念なものを見る視線を向けてくる先生。
だけど……
「あなたにだけは言われたくありません」
心の底からそう思う。そもそも師匠の友人なのに頭が上がらない先生と弟子である俺。
弟子が師に頭が上がらないなんて当然のことなのだからそんな視線を向けられる謂れはないのだ。
現在進行形でいろいろお世話になっているうえに尊敬できる相手なら余計にだ。
「そんなことよりユキホのこれは人化スキルが原因ですか?」
師匠の話題から話を戻す。正直師匠がユキホに教えたスキルよりもこっちの方が問題だ。
ユキホを見る。小さい。
ちらりとサクヤのことを見る。俺の視線に気が付いたサクヤが微笑みながら首を傾げる。小さい。
サクヤを召喚した時も思ったが……俺、このままだと本当に手が後ろに回ってしまうかもしれん。
「その通り! 符術を覚えるにあたってどうしても必要だったのでね! 何よりも先に覚えてもらったのさ!」
自身の手に手錠が掛かっている光景を幻想して、冷や汗を流しているとそんな俺の様子になど頓着することなく必要性を主張する先生。
「符術に……ですか? なぜ?」
「だって人型にならないと字を書けないだろう?」
その発言に思わずあっ、となる。
確かに符術スキルの説明には文字を「綴って」とあった。
「ごもっともです、先生」
「だろう?」
俺が納得した様子を見て、先生は再び踏ん反り返る。
だけど今回はその態度に文句は言えない。
「俺を揶揄う為に面白半分で教えたんじゃないかと疑ってました。すみません」
「シュン君……君、段々シズカ君に似てきたね?」
師匠の弟子ですから。
次回投稿は1月28日です。
妹兼巫女枠ですw
サクヤも妹兼巫女枠っぽいですが、こちらは徐々に妹っぽさが抜けて凛々しい姉剣士系ヒロイン?にすることにしたので妹枠からは外しましたw
それでは次回もお楽しみに!




