第60話 新たな友、新たな絆
焚火の明かりが森の闇を明るく照らす中、主熊はゆっくりと自身が街道に居た理由を語ってくれた。
「黒い靄?」
だが理由を聞いた俺は魚の焼き加減を見ながら思わず、主熊に聞き返してしまっていた。
「グルゥ」
そんな俺の様子に神妙な顔をして頷き返す主熊。いや熊の神妙な表情なんてわからんけどね?
それはともかく彼が語ったことはこちらの想像を大きく超えるものだった。
始まりはこの世界で数ヵ月近く前。俺達来訪者がまだこの世界に訪れていなかった時の事のようだ。
主熊は俺が識別で見た通り、この森の奥で川で魚を獲ったり木の実を食べたりしながら自身を鍛えるために修行をしたりしながら生活していた。……熊が修行僧のようなことをしていることについては今は置いておく。
だがそんな生活を送っていたある日、恐らくその数ヵ月前に異変が起こった。
この森の深奥。主熊が寝床にしている場所より更に深い場所で黒く昏い色をした靄のようなものが発生したのだという。
「グルルルゥ」
最初その靄はとても小さな、それこそピンポン玉くらいの大きさだったそうだ。そしてとても嫌な……吐き気を催すような気配を周囲にまき散らしていた。
「その時お前はどうしていたんだ?」
その靄が発生した当初を知っているということは寝床の奥にそれが発生したことに比較的直ぐに気が付いたということだ。
「グル、グルル」
「ふむふむ。なるほど」
俺は主熊の説明に頷きながら魚の焼き加減を見る。……もう良さそうだな。
焼けた魚をまずは一つ主熊に渡し、ミイロ達の方を見る。
「3人は食べるか?」
『貰うわ』
『食べる』
『……同じく』
一応聞いたが精霊ってものを食べられるんだな。そうなると今後は3人の食事もいるか?
『あっ、私達精霊は別に食事を人のように必要としている訳ではないから無理して用意しなくてもいいわよ? 一応味覚はあるし食べることもできるからおいしいものがあったら少しだけ分けて貰えると嬉しいけど』
「そうか」
ならそこまで気にしなくてもいいか。でも人のように生きる上でのエネルギーとして必要としていないのに味覚があるのはどういった理由なんだろうな?
……まあそれは良いか。俺は一応主熊に視線で伺いを立て了承を貰った所で焼けた魚を3人に渡し俺も一つ取って一口。
パリッとした音と共に歯が入り、ふわっとした身がホロっと崩れる。淡白な白身にしょっぱい塩がほんのり合わさり良いアクセントとなっている。
「うん、上手い!」
こんな風に焚火で作ったのは初めてだけど、思った以上に上手く出来たな。
前に座っている主熊も気に入ったのか焚火の周りに残っている魚を次々と口に入れ、おいしそうにしている。
その様子を見て空いた場所に次を刺しながら俺は主熊に中断していた話の続きを促す。
話を聞くと思った通り主熊はかなり早い段階でその靄に気が付いていたようだ。
自分の寝床の近くに気持ち悪い気配を発する何かがあれば嫌でも気が付くと。そりゃそうか。
だが主熊にはそれをどうにかすることは出来なかった。その靄は触ることができなかったからだ。まあ靄だしな。
そして手をこまねいている内に靄は拡大を続ける。そして靄が人間大の大きさになったところで次の異変が起こる。奥地に居た魔物が凶暴化したのだ。
主熊は次々と襲い来る凶暴化した魔物を倒していく。だが次から次へと凶暴化する魔物に後退を余儀なくされた。
「その奥地には魔物がいるのか?」
この熊が後退せざるを得ないレベルの数の魔物とか全く想像できないんだが……。
「グルルルゥ」
主熊は首を振りながら溜息を吐く。……熊が溜息って、こいつ実は着ぐるみとか言わないよな? なんというか妙に人間臭い奴だ。
まあそれはともかく奥地の魔物はそれほど多くはないらしい。
ならその魔物がどこから出て来たのか。なんとその靄の中から生まれたらしい。
「魔物が生まれる靄……」
……何処かでそんな光景を見た記憶があるな。具体的にはどこぞの鬼の軍勢を相手にしたとき……
「グルグルウ」
後退を余儀なくされた主熊だが魔物は追ってこなかった。靄から生まれた魔物は靄からそれ程離れることは出来なかったらしい。
そのことに少しほっとする。あの時の戦争のようなことがすぐにでも発生するかもしれないと思ったからな。
とはいえ……
「その靄は今はどうなっているんだ?」
先程までの話を聞くに靄は拡大を続けているようだった。もしその靄が町まで届いてしまえば……
「グルゥ」
俺の疑問に疲れたように首を振る主熊に俺は嫌でも状況を察してしまう。
だがまだ希望はあるようだった。
なんでも靄から発生する魔物を倒すことで靄の拡大を少しだけ抑えることができたらしい。
それでも靄は大分街道に近づいているそうだ。そして主熊は街道で靄を抑え込みながらこの状況を打破できる人を探していたのだという。
「話はわかったが、だったらなんで街道を通る人を襲っていたんだ?」
人の言葉を理解できるくらいに頭がいいんだからいろいろやりようもあったと思うんだが……。
「グルッ!」
主熊はフンッと鼻を鳴らした後、追加で焼いた魚を口の中に放り込んだ。
主熊曰く自分と戦えるような強者でなければということらしい。そんなところで脳筋にならんでも……!
「だがそうなると余り猶予はないか?」
というかもはやキャンプイベントどころではないような気がする。
「グルグルウ」
だがそんな心配は不要らしい。自分がまだ暫くは抑えられると。
だが悠長にしているわけにもいかない。このままじゃあの時の再来になる。
いつの間にか主熊が獲った魚は全て無くなっている。
正面に座る主熊と見つめ合う。ここまで話を聞けば彼が俺に求めるものが何なのか嫌でもわかる。
そのことに俺は師匠の言葉が本当になったと思わず溜息を吐きながら腹を括った。
絶対に師匠の言葉がフラグになったんだ。
「わかった。手伝うよ」
俺がイベントに行って帰ってくるまでなら猶予はあるらしいからそれまでに何とかしないといけない。
「とりあえずその靄とやらを確認したい。案内してくれるか?」
俺のお願いに素早く頷き、主熊は立ち上がる。
それを見ていつの間にか食い尽くされた焼き魚に刺さっていた串を火の中に投げ込んで処分した後、土をかぶせて火を消した俺は主熊の後に続いて歩き出す。
「そういえばお前って名前はあるのか?」
歩き始めて数分。
目的地にはまだ遠そうだと思った俺は何となく主熊にそう尋ねていた。
主熊が歩きながら俺に視線を向ける。
「せっかく仲良くなったのにいつまでもお前とかじゃすわりが悪いだろ? だから名前を知りたくってな」
俺の識別じゃ出てこなかったからな。
「グルルウ」
「無いのか?」
思わず目を丸くする。
どうやら特に名前があるわけではないらしい。オラグランデに名前があったからてっきりあるものだと思っていた。
「それなら俺が付けてもいいか?」
頷く主熊を見て顎に手を当てて名前を考える。
う~ん、どんなのがいいかな? 土、熊、熊……。
「……ステルクオルソ。オルソなんてどうだ?」
強さを求める熊という意味だ。戦闘狂気味のこいつにはぴったりだと思う。
「グルウ」
俺が付けた名前に主熊が頷いた瞬間、いつもの音と共にインフォが届く。
■《称号》北森の主の友 ■
効果:獣系モンスターとの友好度上昇率UP(極微)
《備考》
【北の森の主に認められ絆を結んだ者に贈られる称号。人在らざる者にすら手を伸ばす。その気高き在り方を、魂を、ここに称そう。】
「これからもよろしくな、オルソ!」
次回投稿は12月24日(金)16時です!
次はクリスマスイブに投稿です^^お正月中にも変わらず最低週1更新は崩さず行きますのでよろしくお願いします!
それでは次回もお楽しみに!




