第57話 ある日、森の中 boy meets bear ♪
木の枝から木の枝へ。左右の手から交互に出した糸で木々の間を飛び回る!
「ははは! これはすごいな!」
頬を撫でる風が心地よい。周囲の景色が次々と変わっていく。
とはいえ森の中故に見えるのは木だけだが……。
『凄い凄い! 凄い速い!』
『僕達と同じくらい速いよ!』
『……鳥並み』
そしてミイロ達は俺の隣を飛びながら歓声を上げて追随していた。
だが俺は飛び回りながらもミイロ達の称賛の声に思わず苦笑を浮かべてしまった。
なぜなら……
「……そんな俺にあっさりついてくるミイロ達に言われてもな」
ミイロ達もまたそんな俺に疲労一つ見せず着いて来ているからだ。
この姿を見ては苦笑を浮かべざるを得ないだろう。
だがミイロ達はそうは思わなかったようだ。
『だって私たちは元々こういう存在だもの!』
『そうそう! そんな僕たちに道具一つで並んでいるんだからシュンは誇っていいんだよ!』
『……謙遜しすぎ』
「そういうものか?」
『『『そうそう!』』』
ミイロ達の言葉に納得しながらふと気配察知に反応があった。
俺は素早く反応があった方へ方向転換。飛び降りる先を見るとイノシシのようなモンスターの姿。
■《魔獣》ストライクボア Rank:1■
種族:突撃猪 Lv.8
ステータス
HP:??/??
【北の森に生息する猪型の魔獣。敵を見つけるや否やその名の通りひたすら一直線に突撃を繰り返し口元に生えた牙を突き立てんとする。その一撃は非常に強力で速度は大したものだが走りながら曲がることができないため、方向転換をするには一度停止する必要がある。時折群れを作っており、その群れに手を出したものは四方八方からの突撃に身をさらすことになる。肉が美味でこの辺りでは主要食糧の内の一つとなっている。】
正面から受け止めようと思うと大変なモンスター。
だが残念な事に俺の攻撃は……上からだ。
「ピギィ!」
ボアの首が落ち、ポリゴンとなって消える。
取得アイテムはストライクボアの肉。これは帰ったらサクヤに頼んで料理して貰おう。
因みにこうして肉になったボアはこれで10体目だ。
そうそうに魔道具の扱いに慣れた俺は先程から木々の間を飛び回りながらこうしてモンスターを倒してついでにレベル上げの糧になって貰っているのだ。
これぞアース達の言う効率の良い攻略というものだろう。(違うか?)
ボソボソ
『いやホントに凄いわよ』
『ね? こんな短時間の内に一瞬、しかも一撃でモンスターを倒しながら糸で高速で移動までしてるんだからさ』
『……本当に謙遜しすぎ』
『ああいうの人の道具で何かなかったっけ?』
『確か人が罪人を何かするときに使ったとか言う……』
『……ギロチン?』
『『それだ!!!』』
なんかミイロ達がボソボソと何かを言っているが、声が小さくて良く聞こえない。
「何か言ったか?」
『『『いいえなにも』』』
「そうか?」
ミイロ達が口を揃えてそう言う。なんか目を逸らされてるような? ……まあいいか。
俺は再び糸を出し空中に飛ぶ。そして直ぐに気配を感知。
先ほどからずっとこんな感じだ。少し移動すると直ぐに次のモンスターの気配があり、その度に叩き切る(首を)単純な作業。
今のところ遭遇したモンスターは猪の他に猿、鶏だ。
鶏は飛べないため鳥の悲哀よろしく、猪と同じ末路を辿った。そして猿は……
「うおっ!」
硬い木の実のようなものが連続して飛んでくる。俺はそれを刀で弾きながら糸を使って軌道を変え、一息で木の実を飛ばしてくる犯人に近づく。
「キキキ!」
だが敵もさるもの。俺が近づいてくるのを見るや否や素早く身を翻し木々の中に紛れ込む。
だが俺の気配察知からは逃れられない。俺は更に加速しながら突撃し背後から犯人を切り裂いた。
「キッー!」
ポリゴンとなり消えた木の実を飛ばしてきていた犯人の正体は猿。
■《魔獣》ストライクモンキー Rank:1■
種族:投擲猿 Lv.8
ステータス
HP:??/??
【北の森に生息する猿型の魔獣。敵を見つけるとその辺で拾った物をひたすら投げつける。その勢いは人に当たれば一撃で昏倒するほど。人を昏倒させた後は昏倒させたものの持ち物を根こそぎ奪って自らの巣に持っていくため盗人猿とも呼ばれている。そのため巣には沢山のアイテムが置かれていることがあり、運よく巣を見つけられたものは一攫千金も夢ではないと言われている。が、同時にその巣を見つけられるものはいないと言われるほど巧妙に隠されており、過去に見つけたものは数えるほどしかいないため、その巣を探すものは夢想家として名を馳せることとなる。】
これである。耐久力はないがこの猿が投げつけてくるものに当たると一撃で叩き落されるためこの森で最も警戒が必要だと言える。
初遭遇時は刀で受けはしたもののまだ糸の扱いに慣れていなかったこともあり、危うく文字通りストライクされそうになった。
まあ既にこの猿の攻撃には慣れたため多少手間がかかる程度の差になりつつあるが……。
さておきそんな調子で俺はモンスターを時折ポリゴンに変えながら森を縦横無尽に進んでいた。
後から思えば楽しくて少し調子に乗っていたのかもしれない。
「おっ?」
ふと木々が途切れ、俺の身体はポーンと開けた場所に飛び出る。
それにより糸を伸ばす先がなくなった俺はイブキに頼んで風のクッションを足元に出してもらい、地面に柔らかく降り立った。
……急に糸を伸ばす先が無くなると地味に危ないな。イブキが居なかったら勢いで地面を転がることになってた。
頭の中で反省しながら周囲を見渡す。
「ここは……街道か?」
恐らく始まりの町と次の町を繋ぐ街道。人の往来が多い為かそれなりに道幅が広く踏み固められてる。
それ故に木々が一旦途切れたらしい。
「かなり遠くまで来たみたいだな」
街道の向こうを見るがどちらを向いても始まりの町は見えない。
「キリも良いし、一度戻るかな?」
幸いここは街道。俺は森の中を魔道具の練習も兼ねて動き回ったが進んだ方向事態は一直線だ。
だから俺が森から出てきた方に戻れるように街道を進めばいい。
そうと決まれば……
「3人共、一先ず町にもど……?」
俺が考えをまとめミイロ達の方を見るとポカンと口を開けて俺の方を見ている。
「どうした?」
その様子に訝し気な顔になりながら声を掛ける。
3人は俺の声にビクンとなりながら俺の後ろを指差した。
「?」
俺は3人の指先を追うように後ろを振り返る。
「グルルルゥ」
ある~日、森の中、熊さんに、出会った♪
「あ~その、」
あまりの事態に頭の中に有名な某フレーズを再生しながら意味のない言葉を思わず呟く。
考えごとに夢中になっていて近づいてくるのに気づかなかった!
頭をフル回転させて、逃げる手段を模索する。が、直ぐにそんなことを考える必要はなくなった。
「グルアアァァァァ!!!」
なぜならこの熊さんは俺のことを逃がす気など欠片も無いようだからな!
「うおお!?」
熊から飛んでくる拳を身を捻って躱し、一度距離を離すため咄嗟に糸を背後の木に飛ばす。
練習の甲斐あり正確に背後の木に引っ付いた糸に引っ張られ熊の剛拳の射程から素早く退避できた。もちろんミイロ達も素早く俺の近くへ退避。
「あ、危なかった!」
危うく一撃でひき肉になりそうな拳をもろに喰らうところだった!
『シュン、大丈夫?』
距離ができたことでこちらの動きを窺っているのか熊が動きを止めている隙に驚きで上がった心拍を落ち着けているとミイロが心配そうに尋ねてくる。
「大丈夫だ。当たってはいない。かなり驚いたけどな!」
呼吸スキルのおかげで素早く息を整えた俺は熊から目を離さずにミイロの問いに答える。
そして自身の持つスキルをフル稼働。オラグランデと戦った時と同じように集中力を高めていく。
『ど、どうするの、シュン! あんなの倒せっこないよ!』
そんな風に俺が戦闘準備をしている横でイブキはあわあわと俺以上に焦りながら右往左往している。
「落ち着け、イブキ! 理由はわからないが熊はこちらを睨みつけ動きを止めている。今のうちに作戦会議だ」
イブキを落ちつかせながら、この隙にミイロ達と作戦会議。
いつまであの熊が様子見してくれるかわからないから手早くしないとな!
なんとか逃げるか倒す算段を立てたいところだが……
「いやな予感がするんだよなぁ」
なんか少し前にドルグから聞いた熊が頭をよぎって仕方がない!
「さて、どうするかな……」
次回投稿日は12月3日(金)です!
寒い日が続きますね!ですがISO世界は夏休みまで秒読みなタイミングですw実に空気を読んでいませんが、気にせず熱いお話を書いていこうと思います!(今のところ夏らしさはほぼ無いですけどw)
読者の皆様も風邪にコロナにインフルエンザなどにはお気を付けください!
それでは次回もお楽しみに!




