第56話 精霊3人と、創糸のブレスレット
「さてこれからどうするか……」
サクヤ達を残して師匠の屋敷を出た俺は早速やるべきことをやるために、この後の予定を考えながら街中を歩いていた。
イベントまでにやっておきたいことはたくさんある。神通流の鍛錬にレベル上げ、アース達が言ってたようにキャンプイベントならテントなんかの野外で宿泊できるようにするための道具の買い出しに……
「やることが多すぎるな」
息を吐きながら俺は空を見上げる。見上げた空には雲一つ無く、どこまでも高い蒼がどこまでも続いている。
先生に聞いた話だが、この世界も地域によって気候が大きく変わるらしい。日本のような四季がある場所もあれば常春、常夏、常秋、常冬の地域や変わり種だと常に暴風が吹き荒ぶ地域なんてものもあるそうだ。
そしてこの始まりの町は常春の地域に該当し、時折雨が降ることもあるが、基本的には晴れ間が続く温暖な地域に当たる。
そして件のフェティル島は常夏の地域。距離としてはそう遠くない場所のはずだが……その辺は流石ファンタジーというべきか?
そんな風に思案に暮れていると太陽の光が視界にちらついた。俺は反射的に目を細めながら左手で目元を覆う。その時左手首で光るブレスレットに太陽の光が当たってきらりと光った。
「……そういえばこの道具をまだ試していなかったな」
左手で光るのは先日この町の領主、ロイ様から貰った魔道具、創糸のブレスレット。
色々あってすっかり忘れていたがこの魔道具を使えば糸を使った3次元機動ができるかもしれない。
「よし! まずはこの魔道具の実験だな!」
買い物とかは後でもできるし、レベルはこの魔道具をフィールドでモンスター相手に試せば勝手に上がるだろう。
問題は……
「どこで試すかな?」
この魔道具の効果を考えると出来れば森が良い。町周辺の森は北、東、南。
南はモンスターがいないし、東は虫系のモンスターで一部のモンスターには相性が悪い。なら……
「……よしっ、決めた! 北の森に行こう!」
そうして今後の方針を決めた俺は足早に北の森に向かった。
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~~始まりの町 北の森 牙獣の森道~~
草原を抜けて北の森に到着した俺は少し森の奥に入ったところで早速魔道具を試してみることにした。
「でもその前に……」
折角なので数日ぶりにミイロ達も呼び出すことにした。
折角契約したのに、にゃん娘さんとの話し合いの時に一度だけミイロを呼び出しただけでそれ以降一度も呼び出していないからな。
一応忘れていたわけではない。今はプレイヤーがあの湖に押し寄せているだろうと思ったから少し遠慮していたんだ。
とはいえ今日アース達から湖の方は大分落ち着いたと聞いた。
だから3人ともは無理かもしれないが、誰か一人くらいは応じてくれるだろうと思う。
精霊魔法を発動すると空中に召喚陣が現れ輝く。
幸い全員が召喚に答えられる状況だったようで3人共が俺の召喚に答えてくれた。正直少し驚いた。
次の瞬間、陣が弾けミイロ、イブキ、サヨの3人が現れる。
3人は召喚されて直ぐは周囲をきょろきょろと見ていたが、直ぐに俺に気が付き笑顔を浮かべながら俺の近くに寄ってきた。
『久しぶりね、シュン』『シュン、久しぶり!』『……久しぶり』
近くによって口々に挨拶をしてくる3人。ここ数日プレイヤーが押し寄せていただろうから大丈夫だったか少し不安だったんだが……大丈夫そうだな。
「3人共久しぶりだな」
3人の頭を一人づつ撫でながら俺も3人に挨拶を返す。
……なんか頭を撫でるのが癖になってきている気がするな。
サクヤ達もだがみんな頭を撫でると嬉しそうに目を細めて喜ぶからついつい撫でちゃうんだよなぁ。
『それで今日は何の用で私達を呼んだのかしら?』
挨拶が終わると早速とばかりにミイロが呼び出した要件を聞いてきた。
「いやまあ特に深い用件があったわけじゃないんだが……」
『そうなの?』
「ああ。3人と折角契約したのに全然呼び出していなかったからな。だからそろそろ来訪者達の事も落ち着いただろうし、少し一緒に冒険でもって思ったんだ」
俺のその言葉を聞いて顔を見合わせた3人は直ぐに嬉しそうな顔になって俺に抱き着いてきた。
『なんだ! そんなことならいつでも呼んでくれていいのに!』
『そうよ! 私達いつシュンが呼んでくれるか楽しみにしてたんだからね?』
『……いつでも歓迎』
「そうか? じゃあ今度からはもっと呼ぶようにするよ」
とはいえまさか3人がそこまで呼ばれたがっていたとは思わなかった。
精霊は呼ぶだけなら余り負担はないし、3人の都合がつくときは出来るだけ呼ぶようにしよう。
『それでシュン? ここは私たちのいつもいる湖がある森の反対側の森よね? ここでなにをするの?』
「この魔道具の実験をしようと思ってるんだ」
ミイロの前に俺は左手首に装着された創糸のブレスレットを掲げる。
興味を持ったのかイブキとサヨもミイロと共に俺の左手首を覗き込み3人揃って首を傾げた。
『なにこれ?』
『確か……ブレスレット?とか言ったかしら?』
『……初めてみた』
「3人共こういった装飾品を見たことは無いのか?」
3人の様子に俺は思わず尋ねる。ブレスレットならつけている人くらいそれなりに居ると思うんだが……。
『森に来た人がつけているのを見かけたことはあった気がするけどちゃんと見たことは無いわ』
『僕たちには必要ないものだしねぇ』
『……そもそも作れない』
そうか。よくよく考えれば精霊はこういったものを必要としない上、基本的に人には見えない為人から買えないし、そもそも作ることもできないからから興味を持たなかったのか。
『でもよく見ると綺麗ね』
『……同意』
とはいえ今回の事がきっかけとなったのか興味を持ったようでミイロとサヨは興味深げにうっとりした瞳で魔道具を見ている。
『ねえこれでなにができるのさ?』
イブキは機能の方に意識が向かっているみたいだ。
精霊でも男女の感性の違いというものは人と同じなのか?
女性型のミイロとサヨはブレスレットの見た目にイブキは機能の方に意識が向かっている。
「これはな……」
俺はこのブレスレットの機能について3人に説明する。
3人は魔道具を見たのも初めてだったこともあり、興味津々に話を聞いており、説明が終わった時には瞳を輝かせていた。
『なにそれ! 面白そうね!』
『シュン! 早く使って見せてよ!』
『……激しく同意!』
3人に急かされて俺は苦笑いしながら魔道具に魔力を流し込んだ。
■《魔道具》創糸のブレスレット ■
・効果:創糸(魔力を込めることで糸を作り出す。込める魔力量とイメージ等によって糸の性質や創出場所が変化する。糸の創出は魔道具の装備者と装備者に繋がる場所のみでしか行うことは出来ない。)
「まずはほどほどに……」
左手の人差し指を伸ばしてそこからまずは何も考えずに糸を出してみる。
魔道具に魔力が伝わり切った所で効果が発動し、人差し指から太さ1ミリくらいの糸が出て来た。
こう、ツツッ~という感じで。
『なんか地味ね?』
もっとものすごい光景を想像でもしていたのか、余りに地味な光景に3人は拍子抜けしたような顔になっている。
「まだまだこれからだぞ」
俺は一度魔力を止める。止めた瞬間糸は跡形もなく消え去り、後には何も残らない。
これじゃあ裁縫に使ったりは出来ないかな?
消費は10センチくらいしか出していなかったこともありMP1だけ。
この消費ならもっと大胆にいってもいいか?
「魔力を増やして、太さを5センチくらいに伸縮性と粘着性をイメージして……」
再び魔道具を起動。想像通り太さ5センチくらいの糸が出た。
糸を掴んで伸ばすと想像通り良く伸びる。だが直ぐに切れてしまった。強度が足りないか?
だが切れた糸はそのままそこに残っている。恐らく創出は装備者と繋がる所のみだがその後は魔道具を止めない限り残り続けるんだろう。
今度は指を離してみるが離れない。粘着性は想像通り。
今度は指に着いた糸を引っ込めるイメージをしてみる。すると指の中にするすると戻るように糸が引っ込んだ。
なるほど糸は魔道具を止めるかこうして戻すことで消えるのか。
が、先ほどと同じで全く勢いがない。
そして今度は先程と長さは同じだが消費はMP2くらい。性質の変化で消費MPも増えるようだ。恐らく長さが伸びればその分消費も増えると思う。
「そして魔力量は勢いに関係ない、か」
再度魔道具を止める。次は強度も含めてイメージしながら魔力操作で勢いよく魔力を注いで見た。
今度は人差し指から勢いよく糸が飛び出る。これなら行ける!
再度魔道具を止め、俺は人差し指を木の枝に向けた。
3人も俺が何か掴んだことが分かったようでワクワクしたような顔で見ている。
「行けっ!」
勢いよく糸が木の枝に飛び出し、枝に引っ付いた!そのまま糸を握り込み引く。だがそれだけではまだ俺の身体は枝に飛んでいかない。
ここで魔力操作。恐らく糸は魔力で出来ている。であるならば……。
魔力操作で糸の魔力を操り、指に戻る勢いを上げる!
それにより俺の身体は勢いよく引っ張られ木の枝に引っ張り上げられた!
「よしっ!成功だ!」
途中で糸を消し、そのままの勢いで枝に飛び乗る。
その様子を見ていたミイロ達は歓声を上げながら俺に近づいて来た。
『すごいじゃない、シュン!』
『まさかそんな小さなものでこんなことができるなんて思わなかったよ!』
『……』コクコクコクッ!
興奮しながら凄い凄いと俺の周りをくるくる回るミイロ達。
その様子は見た目通り子供のようで俺は思わず和みながら3人に答えた。
「だろ? この魔道具を見た時できそうだと思ったんだ」
『よくこんなこと思いついたわよね!』
ミイロがひどく感心したようにそう言い募ってくる。
……リアルの映画を真似しただけだから素直に喜べないな。
「……まあいいか。ともかく思った通りこの魔道具を使えばかなり変則的な動きが出来そうだ」
特にこういった森林ではかなりの効果を発揮するだろう。
「そんなわけで今日はこの魔道具を使った動きを練習するぞ!」
その後、俺は3人に木から落下した時の救助をお願いして、枝から枝へと飛び移る練習を開始するのだった。
本題のイベントまで中々遠いですね(汗
後何話かで到達する予定ですのでもう少しお待ちください!
それと只今以前投稿したお話の文章を1日2〜3話くらいのペースで少し加筆修正しています!
基本的にはセリフの最後の「。」を消したり!の間にスペースを入れたりですが、少しだけセリフを足したりしていたりもします。(本当に少しですが……)
気になる方はご確認下さい^ ^(とはいえまだ数話しか修正していませんが……)
これからもよろしくお願いします!次回もお楽しみに♪




