第49話 神々の戯れ
次の日。あの後ドルグの言葉の意味を俺は早々に気にしても仕方がないと見切りをつけてログアウトした。
そして再びログイン。
師匠に挨拶をしてから、サクヤ達と合流し屋敷を出る。
サクヤとユウゴは俺の両隣に、ユキホは俺の肩の上に陣取っている。
だが俺がログアウトしている間に何かあったのかサクヤとユウゴの様子がおかしい。
ユキホは特に変化はないが二人は合流してから妙に張り合っており、俺の両隣で何やら火花を散らしている。
その上二人して妙に俺と距離が近い。
喧嘩でもしているのかと思ったが、聞いても違うの一点張り。
こんなことは初めてだった。というか召喚モンスターが喧嘩とかこのゲームのAIは高度すぎる!
困った俺は師匠にも相談してみたが返答は「放っておけばよい」だった。
そしてついでに「愛されていますね?」だ。
解せぬ。とはいえ他に解決手段を持たない俺はおとなしく師匠の言葉に従うことにして屋敷を出たのだった。
そして今向かっているのは神殿だ。
一度参拝(、でいいのかな?)に行こうと思いながら、結局まだ一度も行っていないからな。
神殿は噴水広場の近くにある。それなりに大きな建物で白い壁に見事な彫刻を施されており、神様を祭る神聖な場所にふさわしい雰囲気を放っていた。
そして入り口からは時折死に戻ったのであろうプレイヤーが出てきては他のプレイヤーと合流しては街中に消えて行く。
そんな神殿から出てくるプレイヤーを尻目に俺達は神殿に入った。
中に入った俺が最初に見たものはプレイヤーのリスポーン地点になっているらしき神像だった。
その神像は入り口の正面に配置されている。恐らくリスポーンして直ぐに出ていけるようになんだろうが、その部屋は明らかに…
「狭い…?」
神殿の大きさを考えたらこの部屋の広さは…大体3分の1くらいか?
そのあまりの狭さに周囲を見渡すと、左右に更に大きな扉があった。
そしてその前にはシスターさんらしき人が立っている。
「なるほど。あの奥が本殿みたいな場所かな?」
そしてここは恐らく神殿の玄関口だろう。
俺は大扉の前のシスターに近づき声を掛ける。
「すみません。神様に祈りを捧げたいのですが、どこですればよろしいでしょうか?」
話しかけるとシスターは絵に書いたような清楚な笑みを浮かべ…
「お祈りですね?この先で行うことができます。」
そう言って俺を大扉の先へ誘ってくれた。シスターは俺達を中へ入れるとそのまま扉の外に残る。
扉を潜った先は別世界だった。
左右の壁には彫刻外に施されたものに比べ、遥かに繊細で美しい彫刻が彫られており、柱には蔦をかたどったような彫刻が天井まで伸びている、そしてその蔦の先には現実でも見た事がないような神秘的で美しいステンドグラスが陽の光を受け、正面奥に並んでいる神々の神像を照らす様に飾られていた。
「…綺麗だ…」
もはやそれしか俺の口からは出てこなかった。まさに神を祀るにふさわしい神秘の空間。
ユキホはもちろん、先ほどまで仲違い気味だったサクヤとユウゴもこの光景には言葉を無くし、ほぅ…。と息を吐いている。
ステンドグラスには7柱の神々を中心に精霊に龍のようなもの、それと様々な動物のようなものが集っている。
俺達が暫し、その美しさに浸っていると後ろから、声を掛けられる。
「もし、そこのお若い方。」
その声に我に返り、俺は声のした方に顔を向ける。そこには白髪に長い白髭を蓄え、白い祭服のようなものを纏った老人が穏やかな顔をして立っていた。
恐らくここの聖職者の一人だろう。
「大丈夫ですかな?」
その表情と同じ穏やかな声。
「大丈夫です。その、凄く綺麗な光景だったので見入ってしまって…。」
「おや、そうでしたか。確かにここはとても美しい場所ですからな…。」
老人が視線をステンドグラスへ向け目を細める。それにつられて俺も視線を先ほどまで向けていた場所に向ける。
そして暫しの静寂の後。
「それでどのような用件でここに?」
老人の問いかけで俺は当初の目的を思い出した。
「あっ!その神様に祈りに来て…」
「おや?そうでしたか!では神像の前へどうぞ。」
老人に促されて俺達は神像の前まで進み片膝を突く。
祈るって多分こうでいいはず…
そして俺達は、全員で手を合わせた。
(神様、祝福とか色々と手助けありがとうございます。特にソレイユ様の選んでくださったスキルとセレーネ様から頂いた武器には助かっています。それとセレーネ様、湖での助言のおかげで新たな出会いがありました。彼女達とはこれからも仲良くしていきます。)
神々に感謝とこれまでのことを報告する。そして最後まで話し終えた瞬間、神像が玄妙な光を放った。
(ふふっあなたの感謝。確かに受け取りました。これからも見守っています。)
(またお話しできた。あの子たちの事。助けてくれてありがとう。その絆、手放さないでね?)
ソレイユ様とセレーネ様の声。そして…
(お前の進む道。なかなか楽しかった。これからも期待しているぞ?)
おそらくこれが創世神様の声。更に、
(あら?私たちにまで感謝してくれているの?)
(僕たちなにもしていないのにね?)
(なかなか見どころのある奴じゃねえか!気に入った!)
(だのう。その清き心を評すべきじゃろう。)
どれがどれかはわからないが残りの4柱の神々。
その玄妙な光から伝わる神々の心。その深く強い慈しみを俺に伝えてくるようだった。
■《称号》創世神デミウルゲインの祝福 ■
効果:種族経験値取得量UP(微)神々の好感度UP(極微)
《備考》
【創世神デミウルゲインが好意を持ち祝福した者に与えられる称号。運命に愛されし、来訪者。これから先のお前の運命がいかなるものか見させてもらうぞ?】
■《称号》太陽神ソレイユの祝福 ■
効果:職業経験値取得量UP(微)神々の好感度UP(極微)
《備考》
【太陽神ソレイユが好意を持ち祝福した者に与えられる称号。あなたの眩いまでの命の輝きをこれからも見せてください。】
■《称号》火神プロクスの興味 ■
効果:STR強化(極微)
《備考》
【火神プロクスが興味を覚えた者に与えられる称号。時に苛烈なまでの熱い意志を持つお前に興味が出た。俺様を楽しませろ!】
■《称号》水神ユーラの興味 ■
効果:INT強化(極微)
《備考》
【水神ユーラが興味を覚えた者に与えられる称号。その深く澄んだ英知と共にこれからも進みなさい。】
■《称号》風神アネモスの興味 ■
効果:AGI強化(極微)
《備考》
【風神アネモスが興味を覚えた者に与えられる称号。その自由な思い付きからなる行動……なかなか愉快だったよ!】
■《称号》土神ボーデンの興味 ■
効果:DEX強化(極微)
《備考》
【土神ボーデンが興味を覚えた者に与えられる称号。お主の健やかで豊かな未来を祈るとしよう。お主ならきっと大丈夫じゃ!】
他の神々からも祝福を貰ってしまった。
俺は余りの事態に呆然とする。この世界の神様暇でもしているんだろうか?
4柱の神々から貰ったのはステータスの強化のようだ。
と言ってもその効果は本当に微々たるもので上昇率はたったの+1だった。
ということは前に貰った3柱の祝福も4柱の神々のものと同じくらいの効果しかないのかな?
気が付いたときには神像から放たれた光は消え去っていた。
俺は祈りの姿勢を辞め、立ち上がる。
俺が立ち上がるのに合わせてサクヤ達も立ち上がった。
「祈りはすみましたかな?」
後ろを振り返るとそこには先ほどの老人が何事もなかったかのように立っていた。
「無事に終わりました。」
「そうですか。それはよかった。」
「あの、俺が祈っているとき何か見ましたか?」
「はて?特になにもありませんでしたが…。」
ってことはさっきの光は俺にしか見えていないのか…。
「それでお若いの、まだなにか御用がありますかな?」
俺は先ほどの光景について考えるのを辞める。他には…
「あの、こちらにこの世界の成り立ちや神話などに詳しい方はいませんか?」
もう一つの目的。この世界の事を知ること。
「おや?お若いのにそのようなことに興味がありますか?」
「はい。少し事情がありまして…」
事情→ミイロ達の為と俺の知的好奇心の為。
「それでしたら私がお教えしましょう。」
「あなたが?」
俺は目の前の老人の目を見る。
「失礼ですがあなたは一体?」
「おお!自己紹介がまだでしたな。私は当神殿の長を務めています。ドーテと申します。」




