第47話 街道の怪物
食事を取り終え、ラーナさんと別れた俺達は今冒険者ギルドに来ていた。
理由はもちろんラーナさんに聞いた情報を確かめに、だ。
中に入り、受付を見ると都合の良いことに前回対応をしてくれたサラさんの姿があった。
俺がサラさんに近づき声を掛ける。
すると彼女は書類仕事をするために俯けていた顔を上げた。
「あら?貴方は…シュンさんでしたね?」
「はい。先日ぶりです。今いいですか?」
「大丈夫ですよ。どのようなご用件でしょうか?」
「実は先ほど北の街道のことについて聞きまして…」
俺がそういうとサラさんの表情が一気に暗いものになる。
「その件ですか…。実は冒険者ギルドとしても困っていまして」
その弱り切った表情は俺の推測を裏付けているようだった。
「討伐の為に動いていると聞いたんですが?」
「その通りです。ですがかなり強力なモンスターな事と先日のゴブリンの襲撃でこちらも消耗が激しくて…。」
なんでもそのモンスター自体はゴブリンの襲撃がある前から認識していたらしい。
そして討伐の為に偵察を繰り返しながら物資を準備し、順調に討伐計画を進めていた。
が、そこにゴブリンの襲撃が発生、物資を使い切ってしまった。
しかも討伐の為の人員もケガをしたりして動けないものが出ており、結果としてギルドに討伐するだけの余力がなくなってしまったらしい。
「そのため再び物資を含め、計画を進めているんですが…」
?
「その…先日のゴブリン襲撃の際にそのゴブリンから攻撃を受けたみたいでして。それが原因で襲撃前より凶暴化しているんです。」
マジですか?襲撃前よりも事態が悪化しているな。
「今ドルグさんが人員も含めて声を掛けているのですが…なかなか。」
それでドルグがギルドにいないのか。
「ギルドとしては物価がこれ以上、上がる前に何とかしたいのですが…。そのモンスターが一筋縄ではいかないんですよ。」
そんなに厄介なのか…というかそもそも、
「そのモンスターってどんな奴なんですか?」
ドルグ達強者が入念に準備をしないと勝てない相手って言うのが正直想像できない。森ならイノシシとかか?
俺がドルグ達を圧倒する化け物を何とか想像しようとしていると、サラさんが答えをくれる。
「熊のモンスターです。恐らくフォーアームズグレートベアの変種だと思われます。」
フォーアームズ。つまり4本腕の熊か?確かに強そうだけど…
「通常この魔獣は黒い毛並みに4つの腕があり、身体がとても大きいことが特徴です。立った状態で大体8mくらいでしょうか?」
でかいな?8mってオラグランデの3倍はあるぞ?しかも通常ってことは…
「変種のフォーアームズグレートベアは腕の数は同じですが大きさが10mになり、毛並みが茶色になっていたそうです。そして土系の魔術を操ります。」
リアルの熊が可愛く思えるレベルの化け物だな。そりゃあ苦戦するはずだ。
「そしてこれが一番の特徴なのですが…その熊、格闘術を使うそうなのです。」
「はい?」
なんだそれ?
「格闘術ですか?人間の使う?」
「その通りです。4本の腕を使って実に巧みなフットワークで攻撃してくるそうでそこに土の魔術が含まれるともう手が付けられないと…」
それもう熊じゃないだろ!熊の姿をした何かだろ!
「その為周囲から飛んでくる土の魔術と俊敏なフットワークから放たれる格闘術を防ぐ者、それにそれらを潜り抜けて攻撃する攻撃役に魔法攻撃役と回復役が複数いなければならないのですが…」
「先日の襲撃でケガをして動けないと…」
はい…。と、気落ちした様子で返すサラさんの様子はかなり憔悴して見えた。
もしかしたらゴブリンの襲撃の前から忙しく熊に対処していた中での襲撃だったのかもしれない。
そうだな…これで癒されるかはわからないが…
「あの、サラさん?この子俺の新しい仲間でユキホというんですが…良ければ抱きます?」
本当は甘いものなんかがあった方がいいんだろうが、ないので代わりの癒しを。
俺は視線でユキホにお願いする。
ユキホも彼女が憔悴していることがわかったのか了承するように鳴いてくれた。
そして俺のこの気遣いは功を奏したらしくサラさんはユキホに吸い寄せられるように手を伸ばし、抱きしめた。
ここ数日で分かったことだが、ユキホは女性に対して効果抜群だな。
そうしてしばらく彼女がユキホと戯れているのを眺めていると後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「よう、シュン!久しぶりだな!」
俺は声がした方に振り返る。そこには予想通りドルグの筋骨隆々な巨体があった。
「久しぶりって程じゃないと思うぞ?ドルグ。」
「そうか?まあいいだろ!それよりも大丈夫だったか?」
?大丈夫って…ああそうか。
「大丈夫だったよ。ドルグ、その件もだけどその前も色々助けてくれてありがとな!」
ドルグの言ったのは恐らく先日の襲撃の件だろう。だけど俺はその前に世話になったことも含めて礼を言う。
俺の言葉の真意に気が付いたのだろう。それも含めて笑い飛ばしながら気にするなと言ってくれる。
その姿は実に先達としての貫禄に満ちていた。
「それで一体何の話をしてたんだ?それにサラちゃんは…」
俺は戸惑ったようにサラさんを見ながら、微妙な表情を浮かべるドルグを見る。
そしてここまでのいきさつを軽く語って聞かせた。
俺から件の熊のことだと聞いたドルグも彼女の状態に納得したのだろう物凄く苦い顔をしながらも納得していた。
そのドルグの表情にその熊の厄介さがにじみ出ている。
「その熊はそんなに強いのか?」
「ああ強い。俺も一度威力偵察でやり合ったが守ることは何とか出来てもそれ以上は無理だった。」
ドルグの強さは具体的にはわからないが、あの師匠と繋がりがあるくらいだ。恐らく相当なものだろう。それが防戦一方か…。
「まあそんなわけで、今領主とも相談してきたんだが…シュンお前たち来訪者の力を再び借りようと思う。」
「来訪者の?」
ドルグは頷きながら続きを口にする。
「そうだ。情けない話だが俺達だけでは正直人手も強さも足りなくてな。まあ今はまだ来訪者も強さが足りないが、来訪者の成長速度は俺たち以上だと聞いている。なら少し待つ必要はあるが力を借りた方が確実だってな?実績もあるし、領主の説得もしやすかったぞ?」
それはまた。これはゴブリン戦に引き続きの大規模戦闘になるか?
「まあ今決まっているのはこれくらいだ!その内領主様からクエストが出るだろうから受けてくれよな!」
「わかった。その時にもっと強くなってたら受けるよ。」
「それでいい!」と言ってドルグは豪快に笑っているが、これはまたにゃん娘さん達に言っておかないと争いになりそうな気がする…。
とはいえ聞きたいことは聞けたことだし、そろそろ…
「それじゃあドルグ、情報助かった!ありがとう。俺はそろそろ行くよ。」
「おっ?そうか!それじゃあまたな!次は戦闘訓練でもしてやろう!」
そう言いながら俺の肩をバシバシと叩くドルグ。
そんなドルグなりの激励を受けながら、俺はサラさんにユキホを返して貰い、挨拶をして、ギルドの入り口に向かう。
「あっ!そういやあもう一つ!領主様が言ってたんだが、しばらくしたら来訪者にゴブリン戦の慰労も兼ねて何かあるらしいぞ!」
そんな俺の背中を追いかけるようにドルグからついでとばかりに一つの情報が齎されるのだった。




