表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
INFINITY STORY'S ONLINE  作者: 藤花 藤花
第2章 夏のキャンプイベント!聖なる島と太古の遺跡
39/78

第38話 領主様と褒美

~~始まりの町 領主の館前~~


 領主の館は町の中央にある。そこは小さな丘のようになっており、この町を見下ろすことができる。

 そんな一等地に館は建てられていた。

 そんな立地のため町のどこにいても少し見上げれば館を見つけることができる。そのため俺達は領主の館に何の苦労もなく辿り着くことができた。

 そんなわけで俺達は今領主の館の門前で館を見上げていた。


「でかいな…」

「そうですね、主様。」


 しばらく呆然と館を見上げていたが、館の前でそんなことをしていれば当然門番に気づかれる。

 ふと視線を正面に戻すと二人いた門番のうち片方が近寄ってきていた。


「そこの君。ここは領主の館だ。一体何用で来た。」


 威圧的な態度だな…。なんか警戒されてる?…よくよく考えれば領主の住む家を見上げている人間が居れば警戒するのは当然か。


「すみません。私は来訪者のシュンと言います。先日のゴブリンの軍勢のことで領主様からご招待頂きました。これが招待状です。」


 俺は師匠から渡された手紙を門番に渡す。その手紙を確認した門番は先ほどまでの態度を一変させて俺達のことを歓迎してくれた。


「おお!君たちが例の!それは失礼をしました。どうぞこちらへ。ご領主様がお待ちです。」


 そうして俺達に話しかけてきた門番はもう片方の門番に声を掛けて俺達を館の中に招き入れる。

 門をくぐるとそこには丁寧に整えられた道があり、左右には綺麗に見えるように計算された花々が並んでいた。

 俺達は門番に案内されて領主の元へと向かう。

 館の中に入ると来訪客を楽しませる数々の絵画などの調度品が並んでいる。

 これ一つで一体いくらくらいするんだろうな?壊さないように気を付けておこう。

 門番についていくとやがて他の扉に比べ豪華に装飾された扉の前に立ち止まった。彼はこんっこんっと扉をノックして中にいる恐らく領主に来客を告げる。

 するとすぐに「入れ!」と応答があり扉が中から開かれる。

 そこにはまさに執事です!と言った風体の老齢の男性が扉のノブに手を掛けて立っていた。


「こちら例の鬼を討伐した来訪者のシュン殿です!領主様の招待に応じ、訪ねられてきたためご案内いたしました!」

「苦労様です。シュン殿、どうぞこちらに。」


 ここで門番は「またな」と小さく言って自分の本来の仕事に戻っていく。

 そして俺達は今度はこの老齢の執事に部屋の中に招き入れられた。


 部屋の中は想像していたよりは広いものではなかった。入ってすぐのところに応接用と思しき少し豪華なソファと机がありその奥には執務机と思われるものが鎮座している。

 恐らく応接室と仕事部屋を兼ねているのだろう。

 そしてその執務机について仕事をしていたらしい柔和な顔をした貴族らしい服を着ている男性が恐らく…


「我が仕事場へようこそ。私がこの町の領主ロイデンス・フォン・アルヒだ。この町を救いし遠き世界の英雄よ。よく来てくれた。」


 その男ロイデンス・フォン・アルヒ領主が立ち上がり両手を広げて歓迎してくれる。

 その声音や態度は柔和なものでまさしく歓迎しています!といった感じでホッとする。

 領主はすぐに執務机を離れ、応接用と思われるソファに座るように俺達を促した。

 執事は領主が俺達に声を掛けた瞬間に動き出し、俺達をソファに誘導し、紅茶のようなものを俺達と既にソファに座っている領主の前に置いた。

 そのまま領主が座るソファのすぐ後ろに待機する。

 滅茶苦茶早技だったな…。これができる執事というものか!

 領主は目の前に置かれた紅茶を一口飲み早速とばかりに話を始めた。


「まずは感謝を。この町を救ってくれてありがとう。君たちが件の鬼を討ってくれたおかげでこの町は救われた。」


 そう言って彼は俺達に頭を下げた。貴族が頭を下げるとかいいのかな?馴染みがないから断言はできないけどダメじゃないかな?


「頭を上げてください。俺…私達はたまたま南の森にいて、たまたまかのゴブリン達と遭遇しただけです。抗った結果鬼を討伐いたしましたがそれは自分の身を護るためにしたことです。お礼を言われるようなことではありません!」


 領主の殊勝な態度にビビりながら少し早口に俺は礼は不要と伝える。 

 流石に明らかにお偉いさんといった人に頭を下げさせて平静でいられるほど肝は座っていない。

 それに…


「もしお礼を言うのであれば私以外の来訪者の方にお願いします。町にゴブリンが入らないように尽力したのは彼らですから。」


 俺の正直な感想はこれに尽きる。自分の意志とは関係なくどうしようもなく巻き込まれたものと、安全な場所にいて自身の意志でもって戦った者。称賛されるべきは後者だろう。


「もちろん町を守った来訪者達には十分な報酬を渡し、労った。だが彼らだけでは恐らく無限に進化し続け、湧き出し続けるゴブリン達にいずれ抗することができなくなっていただろう。そうなればこの町は恐らく滅んでいた。周囲を完全に囲まれていたのだ。逃げることもできずに住民は私を含め皆殺しにされ、更に成長した軍勢は隣町へその次は更に隣へ進みいずれは王都に到達しただろう。…今回のことはそれほどの事態だったのだよ。本当はすぐにでも君にお礼を言いたかったのだが鬼との戦いで疲弊し眠っているとシズカ殿に聞いてね?今日君が起きたと連絡を受けてすぐさま招待状を送ったのだよ。」


 話が大きくなり過ぎだろう。まさかプレイヤーが到達していない町の話にまで発展するとは…。本当に異世界に紛れ込んでいる気分だ。

 

「シズカ殿に君が戦った鬼のことを聞いたときは全く肝が冷えたよ。まさかゴブリンがそれ程までに強大な存在になるとは夢にも思わなかったからね。この周辺はそれほど強力なモンスターが生息していない。それゆえにこの町にいる兵士や騎士の数はそれほど多くないのだ。強さだけならあの程度のゴブリンを誅するのに苦労はないがあの数ではな…。来訪者達がいてくれたのは全く幸運だった。」


 それでこれほどまでに感謝されているのか。にしても、だ。


「あの領主様「ロイでよい。」…ではロイ様。師匠とはどういう関係で?」


 この人なんか師匠のことものすごく信頼している気がするんだよね?


「ああ。シズカ殿には昔いろいろ世話になってね?その関係で私がこの町で信頼する者の一人なんだ。ちなみにドルグもその一人だよ。」


 ドルグもか!師匠もドルグもいったい何者なんだよ…。


「シズカ殿からの情報では君の戦った鬼は恐らく我が騎士たちでは勝てなかっただろう。その鬼の力を聞く限りシズカ殿なら戦えるが倒すことは出来なかったと思う。彼女と彼女の教えを受けた君がいたからこそ倒すことが出来たのだと思うのだ。」

「そんなことは…」


 もし俺と師匠しか倒せなかったらそれはゲームとして成り立たない。このゲーム、基本的にはリアルに作られているけどこういった報酬が発生したりするものに関しては誰にでもチャンスがあるように公平に作ってある。

 多分本来はこの町にある教会だか神殿に協力を求めてあの邪気を払うんじゃないか?

 それでゴブリンが減ったところで鬼が出てきて決戦って形になったんじゃないかと思うんだ。

 まあそれはともかく今は結果的に倒したのは俺ってところか…。


「ゆえに私は君のことを英雄と称賛する。偶然でもなんでも君は鬼と戦い倒して見せた。この町を救ってくれた。だからこの感謝だけは受け取って欲しい。本当にありがとう。」


 ロイ様は深々と頭を下げる。此処まで言われたら受け入れないと失礼だな。俺としてはかなり面映ゆいというか偶然落ちていたお宝を拾って見せたら何故か君は素晴らしい人間だ!みたいに言われている気分だ。


「感謝を受け入れます。私としてもこの町を守れて良かった。」


 俺が感謝を受け入れたことでロイ様は頭を上げてくれた。良かった…。正直な話、目上の人に頭を下げさせ続けるのは胃に悪い。


「それではこの町を守った報酬を受け取って貰いたいのだがなにか欲しいものはあるかね?」

「そうですね…。」


 なにかあったかな?普通ならお金とか貴重なアイテムに武器、防具辺りだろうけど…。武器はガンテツさんがいるし、防具は師匠から貰ったものがある。お金は今は十分あるし、なら貴重なアイテム?そもそも貴重なアイテムってなんだ?

 俺がどうしようかうんうん唸っているとそんな俺の様子を見たロイ様が苦笑いを浮かべ始めた。


「他の来訪者に聞いたときは我先にといろいろ要求してきたというのに…君は謙虚だな。」


 …ゲーム慣れしてないからこういう時何をお願いすればいいか思いつかなかっただけなんだけどなんか好意的に解釈されてる?


「なんでもいいのだぞ?流石に伝説の武器をと言われたら困るがちょっとした名刀くらいなら手元にある。他にも宝石や魔道具なんかもあるぞ?」

「魔道具?」


 ファンタジーの定番じゃないか!まさかこんなに早い段階で手に入るものだとは…。


「魔道具に興味があるのかい?なら目録を持ってこさせよう。ウォルター。」


 そう言うとロイ様は後ろに立っていた執事に声を掛けた。すぐさま執事は近くの本棚に向かいそこから皮用紙でできた紙束を取り出す。

 というかこの執事、ウォルターっていうのか。セバスなんちゃらならテンプレなんだろうけどそこまで運営も遊んでないか。

 ウォルターは紙束をそのままに俺に渡してくる。あまり量はないけど…。


「さて何があるかな?」 


 サクヤと共に一覧を確認する。なになに?

 火付け、創水、薪割り…etc.ってリアルのアウトドア用品店に売っていそうなものばかりだな。この世界では便利そうなものだけど。この肥料自動生成機とか農民プレイをしているプレイヤーくらいしか使えなさそうだ。

 あっ!この泳水の足掻きとか呼吸の空気袋は海とかの水場に行った時便利そうだ。

 泳水の足掻きは足に着けることで浮き沈みが自由にできて泳ぎの補助をしてくれる。

 呼吸の空気袋は口元に着けると5分間だけ空気がない場所や毒煙が充満している場所で呼吸ができる。5分経った後は再び5分経つと袋の中に空気が溜まり再使用できる仕様みたいだ。


「気に入ったものはあったかね?」


 この二つの魔道具の説明を見て俺が使い道を考えていると俺の様子に気が付いたロイ様が俺の手元を覗き込んできた。


「ふむ泳水の足掻きに呼吸の空気袋か。なかなか良いものに目を付けたね?」

「ありがとうございます。」

「これなら君とそこの女の子に一つずつ進呈しよう。だけど…」

「なにか?」

「この魔道具はあまり価値があるものではない。もう少し何かないか?」


 マジですか?えっと他には…。

 俺はリストを目を皿のようにして眺める。

 そしてふと俺と共にリストを覗き込んでいるサクヤの様子に気が付いた。

 その視線は一か所に固定されている。ん~、月夜(つきよ)紅桜(くれないさくら)、ブレスレット型の魔道具か。

 満月の中に紅葉と桜の花があしらわれたイラストが描かれている。

 効果は…筋力強化に耐久強化それに精神強化がついて特殊効果になんと舞系スキルの効果上昇。舞を舞うと月と紅葉と桜のエフェクトが散るらしい。3つの能力強化率は+1と低いがこれはかなりの拾い物ではないか?

 …よし。残りはこれともう一つ。創糸のブレスレットに決めた。

 創糸のブレスレットは魔力を込めると糸を作り出す魔道具だ。これの良いところは込める魔力量とイメージで糸の性質を変えられることだ。細く硬い糸にしたらブービートラップが作れるかもしれないし、太く伸縮性があるものにできれば某ヒーローがビルの間を飛び回るみたいなことができるかもしれない。

 夢があるな。


「それでは残りはこの月夜の紅桜と創糸のブレスレットでお願いします。」


 俺がそうロイ様にお願いするとサクヤは驚いたように俺の方を見た。俺はそんなサクヤの頭を撫でてやる。


「わかった。すぐに持ってこさせよう。」


 俺はなんとか報酬が決まりホッとしながら既に冷めてしまった紅茶を飲む。程よく冷めていて心地よい。

 サクヤも俺が紅茶に手を付けたのを見て一緒に飲み始めた。おいしかったのか可愛らしい笑みを浮かべている。


「この紅茶は我が屋敷の庭で作っている自家製でね?庭師が趣味で作っている物なので高価なものではないがなかなかの味になっているだろう?」

「はい。とてもおいしいです。」

「それはよかった。」


 この後は魔道具が届くまでロイ様と雑談をして過ごした。特にオラグランデとの戦いの話はかなり興味深かったらしく前のめりになって聞いてくれていた。

 そうこうしているうちに魔道具を載せたワゴンを押したメイドが入室してくる。ワゴンを置いたらすぐに退室してしまったが流石ファンタジー。ゲームの中とはいえリアルメイドさんくらいは居るか。

 ロイ様が魔道具を俺達に渡してくる。


「これが約束の報酬だ。受け取ってくれ。」

「ありがとうございます。」


 魔道具を受け取り、インベントリにしまう。…実はインベントリの中に防衛戦で戦ったゴブリンの魔石とウサギやウルフの素材がかなりの量入ったままなんだよな。このゲームのインベントリは上限が多めだからまだ大丈夫だが早いところ売ったりして処分しないと。

 因みにサクヤのインベントリは俺のインベントリをフォルダ分けするみたいに存在している。装備は別だが回復アイテムなんかは分けられたサクヤ用のインベントリに入る。 

 プレイヤーのインベントリ容量は1種類99個までの最大500種類だ。

 このうちサクヤは20種類分のインベントリ容量を自分用として使える。

 つまり俺は今480種類までしかインベントリが使えない。サクヤ用の方はサクヤのみ出し入れが可能だ。

 今後召喚獣が増えた時のためにも何かインベントリの容量を増やす方法を見つけないと…。

 閑話休題


 俺は受け取った魔道具のうち泳水の足掻きと呼吸の空気袋そして月夜の紅桜をサクヤに渡す。

 前二つはともかく最後の月夜の紅桜については最初サクヤは受け取るのを遠慮していたんだが俺が…


「サクヤに似合うと思って貰ったんだ。それにゴブリンとの戦いでは頑張ってくれたからな。ご褒美だ。」


 と言ったらはにかみながらも受け取ってくれた。かわいい。

 今、月夜の紅桜はサクヤの左手首で輝いている。

 俺も創糸のブレスレットを左手首に着けてロイ様にお暇を告げた。

 ロイ様自ら玄関まで送ってくれる。


「ロイ様、今回はありがとうございました。」

「お礼を言うのはこちらだよ。この町を守ってくれてありがとう。また機会があれば話をしよう。」

「はい!それではまた機会があれば。」


 俺とサクヤは門番に挨拶をして館の敷地から出る。

 さあ今度こそ南の森を探索だ!師匠の言っていたことがなんなのか…楽しみだな!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そろそろ、5ヶ月ですかね? 色々とお忙しいのかと思いますが続きが気になっているのでお待ちしております
[一言] そうして、また、兎やらの素材を入れっぱなしにするのであったww
[一言] 有力貴族ぽいだし、王城いるの召喚術士の紹介状貰う手もあるね、まぁ先ずは師匠湖の知り合いさんだな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ