第36話 勝利と助言
━Side シュン ━
俺の前にWinner!の文字が浮かび、首を斬られたアーサーがポリゴンとなって爆散した。だがすぐに爆散したポリゴンが集まってその場でアーサーが復活する。
? 死んだら神殿で復活するんじゃなかったか?
復活するアーサーを見て首を傾げていたら後ろで見学していたマーレが補足してくれた。
「シュンは知らないと思うから説明するけど、PvPでは負けて死んでもその場で復活するから。デスペナルティも発生しないわ。何かアイテムを賭けていたら勝敗が決した時点で勝った側のインベントリにアイテムが自動的に移動するようになってる。あとPvPでは経験値が入らないから」
なるほど、だからこの場でアーサーが復活してるのか。
復活したアーサーはすぐに立ちあがって俺に近づいてきた。
「いや完敗だよ」
そう言って右手を俺に差し出してくる。俺はその手に応えて同じように右手を差し出しその手を握った。
「シュン。僕は君に謝罪しなければならない」
「えっ?」
謝罪? 何に?
「僕は君があの鬼と戦えたのはイベントクエストに偶にある何かしらの強化が入っていたのだと思ってたんだ」
どういうことだ? イベントクエストだとそういうことがあるのか?
そんなよくわかっていない俺の様子に気づいたアーサーは更に説明を追加してくれる。
「他のゲームではイベントクエストのボスが不自然に強力な時は何かしらストーリー上、意味があるものだったりするんだ。負けイベントなんて言われるものとかはわかりやすいかな? ストーリー上必ず主人公を負けさせる必要があるから敵が異常に強かったり、そもそもダメージが入らなかったり」
なるほど。確実に必要な結果に導くための仕掛けがあるクエストってことか。
「だから僕は君がそういった要素を隠して自分の実力を偽っているんじゃないかと思ったんだ」
ああ。それでPvPか……。
「だけどそうじゃなかった。君はあの映像を現実に出来るだけの実力がある。残念ながら僕じゃその実力を全て引き出せなかったけど……」
まあ確かに全く本気ではなかったな……。
「疑って本当にすまない! そして恥を忍んで頼みたい。僕に戦い方を教えて貰えないか? 君にあれほどの動きができるなら僕にも可能なはずだと思うんだ。だから、頼む!」
そこまで言ったところでアーサーは背筋を正し、俺に頭を下げた。
う~ん。そうは言ってもなぁ。
「悪いんだが断らせてもらう。俺も教えられるほど強くはないし、そもそも得物が違うから俺が教わった動きがアーサーに合うとも限らない」
「……そうか残念だが仕方がない」
肩を落として気落ちするアーサーには悪いが断らせてもらう。アーサーには言わないがそもそも俺だってあちこち冒険したい。今のところ俺はこの町の一部と草原の一部、それと南の森に少ししか行っていない。
その南の森もあんな事になって全く探索なんてできてないし。
……とはいえ、だ。アドバイスくらいならいいかな?
「アーサーは冒険者ギルドの講習は受けたのか?」
「えっ?」
アーサーが顔を上げる。
「だから冒険者ギルドの講習は受けたのかって」
「いや受けていない」
「あの講習を受けているプレイヤーは多分殆どいないにゃよ?」
俺がアーサーに問いかけていると俺達の様子を静かに見ていたにゃん娘が話に入ってくる。
多分自分の得意分野の話だと思ったのだろう。
「プレイヤーにはモーションアシストがあるから態々冒険者ギルドの講習で時間を使うプレイヤーはいないと思うにゃ」
「なんでだ?」
「誰だって早くモンスターと戦ったりしたいにゃ。アシストがあるなら教わらなくたって普通に戦えるんにゃから講習に時間を使いたがらないにゃ」
「はぁ~」
俺は思わずため息を吐いた。そして納得する。だからアーサーはこんなに変な動きなのか……。
俺はあの鬼と戦うまでの間、師匠に扱かれて腕を磨いた。
何十時間もぶっ続けででサクヤと共に師匠と戦いダメな動きを修正される。
それはただ刀を振るう、回避するみたいな単一のものではなくそれぞれの動作を流れるように繋げて融合した動きだ。
刀での様々な戦い方や動きを師匠を見て覚えられたのも大きい。
だから俺の動きは全てが自然と繋がっている。師匠と比べればまだまだだが動きに無駄がないと言ってもいい。
だけどアーサーは、いや他のプレイヤーも含めそれがないんだ。
アシストは所詮アシスト。確かにアシスト付きの動きは綺麗で理想的な動作だがそれは単一の動きに限った話だ。
アースが前にやっていた昔のTVゲームみたいな動き。
ボタン操作だから動きが殆ど決まっていて一つ一つは派手で綺麗な動きだけど逆に言えばそれだけしかない。
モーションアシストはあれをVRに反映したようなものだと俺は感じた。
一つ一つは綺麗で理想的なものでも画一的な動きで意外性がない。しかもスキル一つ一つに動きが設定されている上所持しているスキル以外は元のままだからちぐはぐになる。
スキルを持っていてもそれを正しく扱えなければ複数のスキルの動きが重なってちぐはぐになる。
剣術スキルと回避系スキルを持っていたとすれば、回避しながら剣を振るった場合、剣を振るうためだけの動きと回避のためだけの足捌きが同時に反映される。
先ほどのアーサーの動きはまさにそんな動きだった。
下半身は回避に専念する動きをしているのに上半身はとにかく俺を倒すために剣を振るう動きをする。
アーサーというロボットの上半身と下半身に別々に操作系統があってそれぞれ別の人が動かそうとしているような感じだ。
ある意味ではとんでもない動きだがそれでは効果は半減どころではないだろう。
レベルが上がったらもしかしたら良くなるかもしれないが今のところははっきり言って気持ち悪い。
あの動きはTVゲームだからいいがこの現実とほとんど差がないVRゲームにおいては違和感しかない。
だけどそれはモーションアシストに殆ど全ての動きを任せているから起こる話。
きちんと自分でスキルを扱うことを意識して、アシストを足りないところを補う補助として使えばアシストのない俺よりも遥かに早く強くなるはずなんだ。
なんたって自分の身体で理想の動きを再現してくれるんだから。
そのために冒険者ギルドの講習は存在している気がしてならない。
俺が今回受けた修行クエストも恐らくそれぞれの武器に存在していると思う。
「と、俺は思ったんだが……」
俺がここまでのことを語った所でこの場にいる俺とサクヤと師匠それから生産職だからかあまり戦闘をしないガンテツさんを除く全員が膝を突いてうなだれた。
これがorzというやつか。
でもまあしょうがない。順序を守って人に教えを乞うことを面倒がらなければすぐにでも気づいたことだろうからな。
「にゃ、にゃんということにゃ。まさかそんな簡単な事だったにゃんて」
「あんな動きができるなんておかしいとか言ってた自分が恥ずかしい」
そんな中いち早く復帰したにゃん娘とアーサーはそんなことをぼやいている。
正直俺からは何とも言えないな……。
2人が復帰してからすぐに他のメンバーも復帰し立ち上がったが非常に疲れた顔をしていた。
「と、ともかく今日はいろいろ聞かせてくれてありがとうにゃ。正直これだけの情報には見合わにゃいけどひとまずこれだけでも貰って欲しいにゃ」
俺の前に譲渡と書かれたボードが現れる。
なになに?一、十、百、千、万……
「300万G?」
前回よりも更に100万程多いぞ?
「こんなにいいのか?」
「当たり前にゃ! これだけの知識はっきり言ってこれでも足りないにゃ! この情報があればプレイヤーの戦闘力はもはや別次元になるはずにゃ。そんな情報をこの程度の金銭で買うにゃんてありえないのにゃ……。今は手持ちがこれだけしかにゃいから一先ずの前金として渡すにゃ。恐らくこれほどの情報ならあっと言う間に300万G以上余裕で稼げるにゃろうから、そしたら追加で支払う形にして欲しいにゃ」
う~む。MMOという世界でのプレイヤーの金銭感覚がわからないな。
「それともちろん最初に言ったように君のことはしっかりと守るにゃし、君個人の情報についても細心の注意を払って扱うにゃ! というか個人のステータスについては基本的には開示しないにゃ! しても職業と種族くらいにゃ!」
「? なぜその二つだけか聞いても?」
「野良でパーティを組む時にこの二つはだけは申告する場合が多いからにゃ」
なるほど。それなら変に隠しても仕方がないか……。
「それと君の護りに関しては僕達、ラウンドテーブルも責任を持って協力しよう」
「私達、ワルキューレもよ! こんだけのことを教えてもらったんだからきっちり護るわ! ……わからずやには少しお話してでもね?」
「シャッフェンもじゃ。若いのを護るのも年寄りの役目だろうて」
トップクランが総出で護ってくれるのは本当にありがたいな。
ヒルドさんの笑顔が少し怖いが……。
それはともかく……
「よろしくお願いします」
頭を下げてお願いする。こういう礼儀は大事だ。
そうして話がひと段落し、息を吐いていると話を終わるのを待っていたマーレから預かっていたお金をと俺に譲渡申請を出してきた。
「半分はマーレにだぞ?」
「わかったわ。ありがとね、シュン」
一気に400万もお金が増えた。正直何に使うか全く思いつかない。
「それじゃあ今日はこれでお開きでいいかにゃ?」
にゃん娘がそう言って見渡すとガンテツさんが俺の前に近寄ってきた。
「すまないんじゃが、シュン坊。もう少しだけ儂に時間をくれんか?」




