第35話 対決!アーサー!
「PVP?」
なんだっけそれ?
「PVPっていうのはプレイヤー同士の対戦の事よ。それよりもアーサーはトッププレイヤーと呼ばれる1人よ? 大丈夫?」
俺が良く分かっていないことに気づいたマーレがさりげなく補足しつつ、ついでにアーサーの情報をくれた。そうなのか……。
俺はアーサーに意識を戻す。
「別に構わないがどうしてまた?」
「君の戦いを見ていて僕は別次元の戦いだと感じた。少なくとも僕たちの常識の内にはない動きだと」
う~ん……そんなことないと思うんだけどな?
「だけど君は先ほど説明している時、誰でもできるんじゃないかとしきりに言って首を傾げていた」
確かにそうだ。
「そして君の考察を聞いていて僕は的を射ているとは思ったんだ。少なくとも荒唐無稽なことを言っているようには思えない。だから実際に相対すれば君の言葉の真意もわかるかもしれないと思ってね? それになにより……」
アーサーの表情が変わる。穏やかなものから獰猛なものへ。その変化に俺は驚く。
こんな顔もできるのか……。
「ゲーマーを自称する僕としては自分よりも強い相手がいるなら挑んでみたい」
……これは受けるべきだな。相手はトッププレイヤーと呼ばれる相手だ。俺自身実際に戦えば得る物があるかもしれない。
「受けて立とう」
お互いに笑みを浮かべながらアーサーと睨み合う。
ぱん!
「それでは道場に案内しましょう」
師匠の柏手で我に返った俺とアーサーは他のメンバーも引き連れて道場に向かった。
師匠に散々扱かれた道場に入り、アーサーと相対する。
俺とアーサーの間に師匠が立った。
アーサーは腰の幅広な片手剣を抜き正眼に構える。
そして俺は腰の刀に手を添えて何度も繰り返したように呼吸を一つ、意識を切り替える。世界が変わる。
俺の空気が変わったことに気が付いたのだろう。アーサーは息を飲んで俺のことを見ていた。
「それでは……はじめ!」
師匠の合図。だがどちらも動かない。いやアーサーに関しては動けないのかな?
俺はアーサーを見る。その姿勢、呼吸、視線、心を。
アーサーは動き出さない。
「来ないのか?」
ポツリと呟く。だがその言葉は確かにアーサーの耳に届いたのだろう。
彼は意を決したように剣を構え……切り掛かってきた。
袈裟斬りに一閃。だが速くはない。刀を抜かぬまま冷静に左足を後ろに引いて半身となり躱す。
剣が俺の横を通り過ぎていく。アーサーの視線は俺の右足。恐らく機動力を奪おうと考えたのだろう。剣が綺麗に軌道を変え俺の右足に迫る。
これがモーションアシストの恩恵か?
迫る剣を俺はほんの少し身体を引くことで回避し、その動きのままに加減をしてアーサーの腹部を蹴りつけた。
その一撃にアーサーは眉を顰めながら体勢を崩し後ろに下がり距離を取った。
なんというか違和感のある動きだ。
体勢を整えたアーサーが話しかけてくる。
「やるね?」
「……そうか?」
「そうだよ。少なくともこの攻撃を余裕をもって躱せるプレイヤーは今までいなかったよ?」
これでか? あまりの事実に俺は思わず眩暈がしそうになった。
精神制御スキルを意識して無理やり平静に戻すが、驚きは消えない。……このスキル地味に便利だな。
「それじゃあ僕も本気で行くよ!」
再びアーサーが突貫してくる。確かに先ほどよりは多少速い。だが所詮多少は……だ。
再び袈裟斬り。先ほどよりも力が入っているのか更に単調になり、まるでさっきの焼き回しのように同じ軌道。多少速度は上がっていてもこれでは無意味だ。俺は刀を抜くまでもなく躱す。そのまま2撃目3撃目と続くが俺には当たらない。
この程度の剣戟なら全く怖くない。
これがモーションアシストの恩恵? こんなのが? 確かに理想的で綺麗な剣の振り方だ。だけどそれだけだ。
師匠と比べてはいけないが彼女の斬撃はただ速いものではない。その軌道はまるで自由な風、決して捉えられぬ水。
攻防の全てで自然そのものを体現している。
まあつまり簡単に言えば刀の軌道が読めない。呼吸も視線も今では心すらも全く分からない。捉えどころがない。
最初に戦った時に感応スキルと危機察知スキルで殺意が察知できたのは彼女が手加減してくれていたからだと気づいたのは修行中のことだ。突然先ほどまでわかったものがわからなくなったからその時はかなりびっくりした。
それでもあきらめずに感知しようとした結果レベルが上がったのだからよかったのだろうけど。
閑話休題
そんな相手と修行してきた俺からするとアーサーの剣の軌道は気持ち悪いくらい理想的で綺麗だが同じような軌道タイミングで動く。
剣だけではない。彼の身体の動き、その全てが同じ様に理想的で綺麗に動く。まるで殺陣を見ているようだ
何回目かの斬撃。俺は全く動じず刀を抜くこともなく躱し、今度はアーサーの膝を蹴り抜く。アーサーは全くガードすることもできずに膝を蹴り抜かれ膝を折った。そのまま俺は下がってきたアーサーの顎を蹴り抜き彼を後ろに吹っ飛ばした。
だが後ろに吹っ飛ばされたアーサーは特に痛苦を感じた様子もなく立ち上がる。これが感覚補正の恩恵……。痛みも何も感じない。
「ははっ! 流石だね! でも刀を抜かないのは嘗め過ぎじゃないかな?」
……うーん。正直抜く必要を感じないんだよなぁ?
「なら抜かせてみろよ?」
「言うね?」
とりあえず挑発してみる。再びの突貫。だが今度は先ほどまでとは違う。
「スラッシュ!」
剣の初期アーツ【スラッシュ】。刀の一閃と同じような効果だったか?
剣戟の速度が少し上がった。多分威力も上がってる? でもやっぱりそれだけ。……正直少し飽きて来たな。
終わらせるか……。
俺はアーサーのアーツを躱し刀に手を添える。
俺が刀に手を添えたのを見て、アーサーは自分がアーツを使ったことで俺を追い込んだと思ったのか笑顔を見せる。
そんなアーサーに俺はポツリと一言。
「神通流、風の型・一番 風抜」
一閃。白い閃光がアーサーの首筋を通り抜ける。
その白き一撃でこのPVPは終わりを告げることになった。
━Side シュン Out━
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━Side アーサー ━
シュンと最初相対した時、僕は彼の実力を正直嘗めていた。疑っていたと言ってもいい。
確かに動画は見た。率直に言ってとんでもない動きをしていてプレイヤーに本当にこんな動きができるのかとその時は思ったのだ。
僕がマスターをしているクランはこのゲームの中でもトップクラスの実力を持つクランで僕自身もトッププレイヤーの1人として数えられている。
言い訳になるが、だからこそ僕は自身の強さをそれなりだと思っていたし、ほとんどのプレイヤーに負けることはないと思っていた。
うぬぼれていたと言っても良い。
だからだろう。1日たった今日、クランの副マスターであるアースが件の彼と会うという約束に便乗したのは。
向かった先の屋敷で直接彼と接して思ったのは特別なものなど何もない普通の少年だということ。
種族や職業には驚いたが彼が開示した彼のステータスを見る限りはっきり言って弱い。先日の戦いでレベルが上がったらしく僕より少し低いくらいのレベルになっていたがそれでも僕と比べると数値上はかなりの差がある。
持っているスキルも珍しいものはあったがはっきり言って使いどころがなかったり地雷扱いされているスキルばかり。
あの映像のような動きができるとは到底思えない。
彼が嘘を言っているようには見えないがこのステータスであの動きは到底信じられるものではない。チートも疑うがこのゲームはセキュリティも最新のものが使われ、少なくとも一般人が抜けるような代物ではない。噂ではどこぞの国が技術情報を盗むためにハッキングを仕掛けて手も足も出ずに返り討ちに遭ったとか言うことも聞く。
まあそれはともかく。チートはあり得ない。ならあの時はイベント時特有の何かがあり、それを彼は黙っているのではないか? ならば僕が化けの皮を剝がしてやろう。
自分より強い相手がいるならと嘯きながら、そう考えて僕は彼にPVPを申し込んだのだ。
彼と相対し、彼の師だという人物が僕と彼の間に立つ。恐らく開始の合図をしてくれるつもりなのだろう。
僕は剣を抜き、彼に向かって構えた。
だが彼は刀を抜かない。居合かなにかか?
そして彼が一つ特徴のある呼吸をした瞬間、彼の空気が変わった。
まるで己の全てを見られているような感覚。
それでも僕はこの期に及んでもまだ彼のことを格下だと思っていたんだ。
正直勘違いも甚だしい事だったが、その時の僕にはそんなことはわからなかった。
「それでは……はじめ!」
彼の師の合図で試合が始まる。だが僕は動くことができない。
彼の雰囲気に押され身体が固まったように動かなかった。
しばらくしてシュンがポツリと言葉を零した。
「来ないのか?」
僕はその言葉に一瞬カッとなりその感情に押されて飛び出す。モーションアシストが起動し僕の身体を理想的な形で誘導する。
トッププレイヤーと言われるだけあって僕はレベルもトップクラスに高い。今までこのスピードについてこれたプレイヤーは多くない。
だが彼はその速度に全く動揺することもなく僕の袈裟斬りを躱す。
余裕の表情。だがそれもここまで。
振り降ろした剣の軌道を変え右足に切り掛かる。
獲った!!
そう思った僕は思わず笑みを浮かべる。だがそれは所詮僕の思い込みだった。
僕の剣は彼の表情を変えることもなくひょいとでも言うように躱され返礼とでも言うように彼の蹴りが僕の腹に入る。
それほど強くはない蹴りだが僕の体勢は崩れる。それを嫌った僕は彼とバックステップで距離を取り体勢を整えた。
彼は何故か追撃してくることはなかった。
体勢を整え本気宣言をして気合を入れる。そして宣言通り僕は更に力を入れて彼に切り掛かった。
先ほどよりも上がったスピード。これならば対処できないだろう?
だがそんな僕の考えは見事に外れ、全く掠ることもなく躱されていく。
回避だけは上手いな……。でもまったく攻撃してこない。回避に必死で攻撃できないんだろう? それを余裕の表情で誤魔化しているんだな?
何撃目かの攻撃やはり簡単に躱されたがどうせ攻撃なんてできない。そうして油断したところで今度は膝を蹴り抜かれる。
膝が折れ頭が下がる。そのタイミングで頭に衝撃。感覚補正のおかげで痛くはない。ダメージもほとんどない。が、その衝撃に後ろに吹き飛ばされる。
僕は吹き飛ばされた先で素早く起き上がり体勢を整える。
やはり吹き飛ばすだけでそれ以上のことはしてこない。
だが彼は未だに刀を抜かない。
「ははっ! 流石だね! でも刀を抜かないのは嘗め過ぎじゃないかな?」
「なら抜かせてみろよ?」
「言うね?」
少しカチンときた。こうなればトッププレイヤーとして大人げないかと思ってたけど……。
「スラッシュ!」
再び突っ込み今度はアーツも込みの攻撃を繰り出してやった。更に上がった速度に彼も手を刀の柄に添えた!
ふふん! そうやって意地を張って余裕こいてるからだよ?
そうして思わず笑みを浮かべたところで……
「神通流、風の型・一番 風抜」
僕の意識は暗転した。
━Side アーサー Out━




