第18話 神通流二つの道
「知らない天井だ」
少しリアルで時間を潰してログイン。
部屋の中はまだ真っ暗で殆ど天井なんて見えてないけど、一度はやっときたいお約束だよね? そんなバカなことを考えながら真っ暗な部屋の中身体を起こす。
俺が動いたことでサクヤも目を覚ましたのだろう。隣を見るとサクヤも目を擦りながら起き上がってきた。
「主様?」
「おはよう、サクヤ」
「おはようございます!」
「今何時だ?」
「もう幾ばくも無く夜明けですよ?」
窓の方に顔を向けながら答えてくれるサクヤ。
その答えを聞いてベッドから立ち上がり窓際に歩み寄る。外を見ると部屋はまだ真っ暗だが、周囲は薄暗い日が昇る直前の独特な明るさを纏わせていた。
「そうみたいだな」
「はい! 下の階で音が聞こえたのでもう朝食を食べに降りてもいいと思います」
言われてみれば下の階から小さく物音がする。なら食事を食べていれば丁度いい時間になるかな?
「なら朝食を食べに行くぞ! 食べ終わったら師匠のところに行くからな!」
「はい主様!」
サクヤと共に部屋を出て階下の食堂に行く。食堂に着くと、まだ殆ど人は居らずラーナさんが机や床を掃除していた。
食堂に入るとラーナさんもこちらに気づいたようで挨拶をしながら近づいてきた。
「シュンさん、サクヤちゃん! おはようございます!」
「ラーナさん、おはようございます!」
「おはようございます!」
「お2人は朝食ですか?」
「ええ、お願いできますか?」
「大丈夫ですよ! 好きな席に座って待っていてください!」
ラーナさんのその言葉に頷き、サクヤと適当な席に座る。その間にラーナさんは厨房へ引っ込んでいた。
「サクヤ。今日から師匠のところでお世話になるからな」
「はい! ここに泊まるのは一日だけでしたが少し寂しいですね……」
「ラーナさんとも仲良くなれたからな。また食事を取りに此処に来よう!」
「そうですね! ラーナさんともっとお話ししたいです!」
そんなことを話しながら待っていると、それほど待つこともなくラーナさんが食事を持ってきた。
「お待たせしました!」
「ありがとうございます、ラーナさん! おいしそうですね!」
「ええ! 今日のは少し自信作ですよ!」
そう言いながら俺とサクヤの前に食事を置く。他に宿泊客もいないし、今日で宿を出ることをラーナさんに伝えておこう。驚くだろうなぁ……。
「ラーナさん。俺たちは今日で宿を出ます。1日だけでしたがありがとうございました」
「えっ! お2人とも、もう宿を出てしまうのですか!」
伝えると予想通りラーナさんは驚愕も露に詰め寄ってきた。
「ええ。他にお世話になるところ? ができまして。今日からそちらで寝泊まりすることになります」
「ええ~……。せっかくサクヤちゃんと仲良くなれたのに~!」
……俺は? まあラーナさんだししょうがないか(諦め)……。
「でもしょうがないですね。お2人のことを私が縛るわけにはいきませんし……」
あれ? 意外とあっさり納得したな?
「時々食事には来ますから」
「あっ! 気を使わせてすみません! でも食事に来てくれるのは嬉しいです!」
「ラーナさん! 必ずまた来ますね!」
「待ってるね、サクヤちゃん!」
手を取り合って別れを惜しんでいる2人を眺める。本当にまた来ないとな。
そうこうしているうちに食事も終わり、日も完全に上がった。立ち上がり宿の玄関に向かう。
「それではラーナさん、マーサさんまた!」
「はい! お待ちしております!」
「また来るんだよ!」
最後にラーナさんと見送りに出て来た、マーサさんに声をかけて宿を出て、師匠の家に向かう。
朝の気持ちのいい空気を吸いながら、中世風の街並みを歩く。昨日はスルーしたけど結構いろんな店らしきものがあるな? 屋台とかも出ていたし、金が稼げるようになったらいろいろ行ってみるか。
そんなことを考えているうちに師匠の家に辿り着いていた。
門を潜り、屋敷の中に入る。屋敷には昨日の時点で入る許可をもらっていた。
「師匠、おはようございま~す!」
玄関の扉を開け、中に呼びかける。するとすぐに奥から師匠が出て来た。
「おはようございます。シュンさん、サクヤさん。早いですね?」
「ちょっと目が覚めてしまって……」
「そうですか。それでは早速修行を始めましょうか?」
「よろしくお願いします!」
「やる気十分ですね! では早速道場へ行きましょう」
3人で道場へ移動する。どんな修業か……緊張するな。試しがあれだったからかなり大変なことになりそうな予感がする。
そんな予感に背筋を震わせているうちに道場に辿り着いた。
広い道場の中に入り、真ん中まで進んだところで師匠が俺たちの方へ振り返り修行の開始を宣言した。
「それでは早速修行を始めます」
「「よろしくお願いします!」」
その宣言に頭を下げ、礼をする。
そんな俺たちに師匠は一つ頷き話し始めた。
「それではまず神通流を使うために必要となる技能を習得してもらいます」
「技能、ですか?」
「はい。来訪者の方たちはスキルというのでしたね?」
なるほどこちらの人たちはスキルのことを技能と呼んでいるのか。
「それではこれからはスキルと呼びましょう。ともかく神通流を扱うためのスキルはそれなりに多岐に及びます」
「そんなにたくさんあるのですか?」
「はい。ところでですが……シュン、サクヤ。神通流には二つの道があります。一つ目は正面から火の如く苛烈な力をもって敵を打ち砕き、ゆるぎなき土の大地の如く受け止める剛の道。二つ目は敵の攻撃を風の如き変幻自在な速さと水の如き淀みない型無き動きで持って切り裂き、受け流す柔の道」
「剛と柔……。それはどちらかを選べということですか? 選んだ道に合わないアーツは習得できないとか?」
「そうとも言えますし違うとも言えます。神通流を極めんとするならば片方の道だけを修めるだけでは足りません。そのため両方の道を修めてもらう必要があります。ただどちらの道を重視するかというだけの話です。そもそも神通流はどのような種族、職業であっても扱うことができ、いかなる状況敵種であっても受け躱し斬ることができる。究極的にはその一撃は神に通ずといいます。ですがやはり向き不向きは出来てしまいます。肉体強度が低い種族が剛の道の技のように正面から敵の攻撃を受け止めるのは酷ですし、逆に動きの遅いものに軽やかな身の熟しを求める柔の道を求めるのは難しい。そのため剛を基本として柔の技を取り入れるか、柔を基本として剛を取り入れるかという話になります。選んだ道によって修行の内容も変わりますのでよく考えてください」
なるほどだな。そうなると俺の場合は柔一択だな。今の俺が正面切って敵と戦うのは難しい。
サクヤはどうするんだろうな? 今の内容だと俺と同じ柔かな?
「俺は柔に決めたけどサクヤはどうする?」
「はい主様、私は剛にしようと思います」
「剛?」
サクヤのその意外な選択に驚く。剛は向いていないんじゃないか?
「それでいいのか? サクヤも俺と同じ柔の方が……」
「いいえ。私は剛で行こうと思います。私は主様を守る盾であり、剣です。だからこそ正面から敵を受け止め、打ち破る力が欲しい」
そう言うサクヤの目は決して譲らない決意を秘めた目をしていた。
「サクヤって意外と頑固だよな……」
思わず苦笑が漏れる。
「すみません、主様」
「いいさ。サクヤが自分で決めたことだからな! ……ってことで師匠、俺は柔、サクヤは剛でお願いします」
黙って俺達のことを見ていた師匠の方を見て俺とサクヤの決定を告げる。
「わかりました。それでは始めましょう。私の修行は厳しいですよ?」
そう言ってもう幾度も見た微笑みを浮かべる彼女は、今までにない凄みを感じさせるのだった。




