第12話 町外れの屋敷の女
~~ 始まりの町 アルヒ 町はずれの屋敷 ~~
サクヤとお姉さま方のもとに突撃してから30分程。俺たちは苦労の甲斐あって目的の家だと思われる場所の前に来ていた。
日本家屋風のそれなりに大きな家で正面には立派な木造の門が鎮座している。
それにしてもここまで大変だった。主にサクヤが……。
今更だがサクヤはかなり幼く見える。少なくとも両手の指を必要としない程度には、だ。
その上とんでもなく容姿も整っていて、将来が楽しみになるような愛らしい顔立ちをしている。
そんな子が話しかけてきたら女性だったらどのような反応をするだろうか?
とりあえずラーナの時以上の事態が発生した、とだけ言っておく。
「大丈夫か、サクヤ? 少し休むか?」
「主様……。いえ、大丈夫です。このくらいどうということはありません!」
小さな手で作った拳を体の前に持ってきてサクヤは俺に健在をアピールする。だがその顔には多少なりとも疲れが浮かんでいた。
「サクヤ。遠慮して無理をする必要なんてないんだぞ? もっと気楽に行こう! な?」
「主様……。ですが……」
「俺たちは仲間だ。仲間に遠慮は無用、だろ? お前はもっと甘えることを覚えろ!」
サクヤにそう言って少し説教をする。片方が片方に遠慮し続けている関係が良いことだとは思えないからな! それに今後のためにも少しでもサクヤとの距離は縮めておいたほうがいいと思うんだ……。戦闘中に遠慮から判断ミスなんて笑えないし。
そこまで言えば、サクヤも納得したのかおずおずと願い事を口にした。
「で、でしたら主様! サクヤは主様の膝の上に座りたいです!」
「俺の膝に?」
「はい……ダメですか?」
そう言って身長差から上目遣いになりながらこちらを伺うサクヤの姿。口調とは裏腹にこういうところで幼さが覗くな。
とはいえ、お願いに関してはなんでまた? とは思うが、サクヤが折角甘えてくれたんだ。叶えてやらなきゃ男が廃る!
「構わない。それじゃあ、そこの広場にある木陰の芝生のところでいいか?」
「はい! ありがとうございます、主様!」
俺が了承すると、サクヤは目に見えて上機嫌になりながら俺の手を引いて芝生まで引っ張っていく。
うん……やっぱり見た目通り子供だな。サクヤに関してどう接すればいいか、今まで悩んでいたんだがこれで何となく方向性が見えてきた気がする。
「主様、こちらにどうぞ!」
そうこう考えているうちに芝生のところへ辿り着き、サクヤに座るように促された。
俺は素直にサクヤの誘導に従って胡坐をかいてそこに座り木に背中を預けて、サクヤを促す様に努めて優しく声を掛けた。
「ほらっ、サクヤおいで!」
「そ、それでは主様失礼します!」
促すと若干緊張しながらも素直に胡坐をかいた俺の膝の上にサクヤは腰を落とす。
しばらくもぞもぞとしていたが、座りが良いところを見つけたのだろう、落ち着いたように俺に背中を預けてくる。そのタイミングで動かないように腰に手を回し、体勢を安定させる。
その瞬間、ほんの少しの緊張と歓喜そして言葉に言い表せない暖かな感情が俺の中に流れ込んできた。
おそらくスキル【感応】の効果だろう。
「ありがとうございます、主様!」
「いや、気にしなくていい」
そしてスキルの効果はサクヤにも及んでいるようで座る前と比べて明らかにリラックスしている。
スキルで伝わる感情も緊張がなくなっていき、安らいでいく。
その会話を最後に話が途切れる。
さぁっと少し涼しい風が頬を撫でる。子供らしい見た目に違わず少しだけ高いサクヤの体温が心地いい。
そんな風に穏やかな時間をしばらくボーッとしながらサクヤの頭を優しく撫でる。しばらくしてふとサクヤを見るとサクヤは静かに寝息を立てていた。
「やっぱり疲れていたんだな」
起こさないように気を付けながら労わるように頭を撫でて時間を潰し、クエストのことを考える。
「覚悟か」
ドルグも念を入れるように言っていた言葉。あの時は当然と答えたが、実際には余り理解はできていないと思う。
だがそれでもやってみせる。そうでなきゃ折角このゲームに誘ってくれた2人に悪いからな。
(せめて2人と肩を並べて戦えるようにならないとな……)
そんな風に自分なりに覚悟を決めながら、その心の裡に闘志を燃やすのだった。
ーー30分後ーー
「あ、主様。ありがとうございました」
俺の前には顔を赤くしながら、お礼を言うサクヤの姿があった。
「ああ。十分休めたか?」
「はぃ」
体調を確認すると蚊の鳴くような声で返事をしてくる。流石に寝てしまったのは恥ずかしかったのかもしれない。その姿に思わず笑いそうになりながらも俺は彼女の頭を撫でた。
それにますます顔を赤らめる様子を見て、俺はまた機会があったらしてやろうと心に留める。
「よしっ! それじゃあ今度こそ行くか!」
「! はい!」
お互いに気力を充実させたところで、俺はサクヤに再度目的の家に行くことを告げる。
その言葉を聞いたサクヤは素早く顔を引き締め気合を入れ始める。
そんなサクヤの様子を見ながら俺たちは再び屋敷の門の前にやって来ていた。
「さて、呼び鈴もないし、どうやって中に呼びかけようか?」
正直声を張り上げても中に伝わるか怪しいのだが……。
「ですが主様。勝手に入るわけにはいかないですから、頑張るしかないのでは?」
「……そうするしかないか。ここで時間を使ってもしょうがないしな」
―最悪怒られたら謝ろう―そう考えて声を張り上げるため息を吸い込む。
そして声を出そうとした瞬間、目の前で固く閉ざされていた門が何の苦労もなく唐突に開き始めた。まるで俺たちが来るのをわかっていたみたいだ……。
張り上げようとしていた声を飲み込み、開いていく門を見つめる。
ある程度開いたところで中から黒い髪を後ろで束ねた美しい女性が出てきた。
暗めの紅紫色に白く小さな花が連なる可愛らしい花をあしらった着物を着ており、柔和で優し気な風貌だが、その隙のない立ち姿は女性の雰囲気を凛としたものに変えており思わず背筋が伸びる。
後で知ったのだがこの着物の色と花は二人静というらしい。
突然のことに話しかけることをためらっていると、女性は俺たちに歩み寄りながら、優し気な笑顔を浮かべて、その顔に違わぬきれいな声で歓迎の言葉を掛けてくれた。
「シュン、サクヤよく来ましたね」
俺の前に立つ彼女はとても小柄な女性だった。サクヤよりは大きいがおそらく150センチもないだろう。
刀の修行を付けてくれるのは別の人なのだろうか?
ともかく挨拶せねば。これ大事。
「こんにちは。ドルグさんに紹介されて来ました、シュンと言います。こっちはサクヤです。刀の修行を付けていただきたくお邪魔いたしました。あの、俺たちのことは?」
サクヤと共に頭を下げて挨拶し、俺たちのことを知っているのか尋ねる。女性は俺の質問に一つ相槌を打ち、口を開いた
「ドルグから話は聞いています。話すべきことはいろいろありますが、まずは中にお入りなさい」
そう言って女性は俺達を屋敷の中に招き入れてくれた。門を潜り、玄関を通り過ぎ、廊下を進む。どこも綺麗に掃除されているが女性以外に人の姿はない。
「ここに住んでいるのは私だけです」
俺が不思議そうな顔でもしていたのか、女性はそう言い、少し寂し気な表情を浮かべた。が、すぐに元の優し気な表情に戻る。今の表情はどういう意味なんだろうか?
その言葉を最後にしばらくお互い無言のまま歩みを進める。
そして女性は奥の整えられた庭が見える一室に俺達を案内すると、お茶を入れてくると言いながら部屋を出ていった。
俺とサクヤは部屋に置かれた座布団の上に座り、ホッと一息つく。
「ふぅ。主様、中に入れて貰えてよかったですね!」
「そうだな。正直門前払いされることも考えていたからな……。ドルグが話を通しておいてくれて助かった」
ドルグが前もって話を通してくれていなければ、話をするのにもっと苦労したに違いない。そう考えればこの結果は最良のものだろう。あんなごつい見た目のわりに気配りが細かい。
俺がドルグに対してそんな失礼なことを考えながら、しばらくサクヤと雑談をしていると、女性がお茶をもって部屋に戻ってきた。
俺とサクヤの前にお茶を置き、女性も俺たちの正面に綺麗な所作で正座する。
それにしてもこの人、素人の俺でもわかるくらい動きが綺麗だ。一つ一つの動作が洗練されているというか、自然というか……。
「お待たせしました。それではお話をしましょうか?」
そう言って女性は俺たちに微笑み、やはり綺麗な所作で一口お茶を飲む。
さてどうやって修行をお願いしたものかな?




