第10話 いよいよ冒険者ギルドへ!・・・行くはずだったのになぁ。
名付けが終わり、ほっとしたような空気が流れる。だがこの後まだ予定がある以上のんびりもしていられない。
「さてと……サクヤ。召喚して早々だが出かけるぞ」
「我が君、どちらへ行かれるのですか?」
「……なあ、その我が君ってのやめないか? それと言葉遣いも、もっと砕いていい」
「へ?」
そう言うと驚いたようにこっちを凝視してくるサクヤ。よく見ると少し涙目になってないか?
「いやあのですがそのえっと我が君はこう呼ばれるのはお嫌なのですか?」
大分混乱しているな。とはいえ俺も我が君呼びはなかなかにむず痒い。だがどうすれば説得できるか。……とりあえず素直に言ってみるか。
「ああ。正直その呼ばれ方はむず痒い」
「で、ですが我が君は我が君ですもん」
もんって! いやまあ見た目だけなら似合ってるんだけど……
どうしたもんか?
「名前呼びは嫌か?」
「い、嫌ではありませんが、そんな畏れ多い」
「畏れ多いって……」
そんなこと初めて言われたぞ。
「うーん。じゃあせめて主はどうだ?」
「主ですか?」
「ああ。こっちならまだマシな気がする」
本当に気がするだけだが、我が君はよりは硬派な感じのイメージがある。
「ううぅ。せめて主様ではダメですか?」
主様か。これならまだマシかな?
「わかった。その呼び方でいい」
そう言うと先ほどまでの泣き顔が嘘だったかのように笑みを浮かべるサクヤ。
まったく……。なんだかんだ言ってもこの子はまだまだ子供なんだろうな。
「それで言葉遣いの方だが……」
「善処します!」
「・・・」
「善処します!」
そんなに嫌か!
「はあ。まったく仕方がない」
「ありがとうございます!」
まあ泣き顔を見るよりはましだと思おう。
「それじゃ改めて行くぞ」
「はい、主様」
サクヤを連れて廊下を進み、階段を下りる。
「主様。結局どちらに行かれるので?」
「ああ。それはな……」
気を取り直して、サクヤにこの後の予定を話そうとした時。
「きゃーー!」
階段を降り切った所で横合いから劈くような女性の悲鳴が轟いた。
その悲鳴に咄嗟に身構えながら声がした方向に顔を向け、使えるかもわからない腰の刀に手を伸ばす。
「一体なにが……」
その瞬間。俺の横をものすごい勢いで宿屋の少女、ラーナが通り過ぎ、その先で俺と同じように腰の刀に手を伸ばしていたサクヤに抱き着いた。
「なんですか! なんですか、この子! かわいいです~!」
あまりの事態に俺もサクヤも固まる。だが興奮しきっているラーナには関係ないようでサクヤが固まっているのも関係なしにサクヤを抱き上げた。
「わ~! 小さい! 髪サラサラ! ほっぺぷにぷに! 天使ですか? 天使ですね? かわいい~!」
そう言ってサクヤに頬ずりを始めるラーナ。
そこであまりのことに固まっていた俺もハッとして再起動する。抱き上げられているサクヤはまだ固まったままだ。
ともかくまずはラーナを正気に戻す必要があるな。
「あ~、ラーナさん? 一体どうs」
「シュンさん!」
「はい?」
ラーナを正気に戻すため話しかけようとした俺だが最後まで言うことなくラーナに名前を呼ばれる。
「この子がさっき言っていた召喚モンスター? ですか? そうなんですか? 名前は? 名前はなんと? なんでこんなかわいいんですか? もうもうもう! こんなかわいい子なら最初からそう言ってくださいよ! もうもうもう! シュンさんそれで? どうなんです? ねえねえねえ!」
そうまくしたてながらどんどん顔を近づけてくるラーナ。あ、圧が半端じゃない!
「ラ、ラーナさん? とりあえず落ち着いてくれませんか? これでは話したくても話せないです!」
「あっこれは失礼いたしました」
俺の言葉に少し落ち着いたのか離れてくれるラーナ。だが興奮はまだ収まったわけではないらしく、で? と言わんばかりの眼差しでこちらに話の先を促してくる。
め、目力が半端ない……! 俺はその眼力に引きながらもなんとか話を進める。
「え~と、はい。その子が俺の召喚モンスターでサクヤと「サクヤちゃん!」、言います……。なんでこの容姿なのかはわかりません。俺もさっき初めて呼び出したので……」
「そうなんですか~! はぁ~かわいい~!」
もうかわいいしか言ってないな……。ともかくサクヤを助け出して冒険者ギルドに……とそんなことを考えて更に言葉を重ねようとしていると、カウンターの奥から恰幅の良い肝っ玉母さんとでも言うような女性が出てきた。
「ラーナ? 一体何を騒いでいるんだい?」
「あっ! お母さん!」
おかあさん!? に、似てねえ~……!
「ん? その子は一体どうしたんだい?」
「あっ、この子はそこにいるシュンさんの召喚モンスターなの!」
「召喚モンスター?」
ラーナから話を聞いて怪訝な顔をしながら俺に視線を向けてくる女性。
「んっ? あんた来訪者かい?」
「あっはい! 自分はシュンと言います。召喚術士でラーナさんに抱き上げられている子の契約者です」
「お母さん、トレスさんがうちを紹介してくれたんだって!」
「そうかい……。あたしはマーサ! そこにいるラーナの母親だよ! 召喚術士ね~? 聞いたことないけどまあそれはいい。それで? どういうことなのか説明してくれるかい?」
ちらっとラーナを一瞬睨みながら説明を求めるマーサ。
マーサさんのその言葉に冷や汗を流し始めるラーナさん。
これはチャンスか?
「あ~、はい実は……」
階段を降りたところから今までの経緯を説明する。それほど長くはない経緯を聞いたところでマーサさんは深いため息をこぼすとラーナさんに近寄り、頭にげんこつを落とした。
ゴンっという痛そうな音が辺りに響く。
「いった~い!」
涙目になり痛みに悶えながらもサクヤを地面にそっと下ろす。そして降ろした瞬間痛みに転げまわるラーナ。
サクヤを丁寧に扱うのは評価するがすごい根性だな。
降ろされたサクヤは地面に足が着いた瞬間ハッと我に返り、急いで俺のもとに戻ってきて抱き着いてくる。相当怖かったらしい。
「このバカ娘! 客に迷惑かけんじゃないよ!」
そんなラーナの様子に一切頓着せず言葉で追撃をかけるマーサ。
そのまま「まったく」といいながらこちらを向いて
「嬢ちゃん、それにシュン、うちのバカ娘が悪かったねえ」
そう言ってマーサは俺たちに頭を下げた。
「あ~、俺はそれほど迷惑を掛けられたわけじゃないので。謝罪はサクヤの方にお願いします。サクヤ?」
俺はいまだに腰のあたりに抱き着いていたサクヤの頭を撫で促す。
俺の言葉に反応し、マーサの方へ顔を向けたサクヤはマーサの様子を見て、今の自分の状況に気がついたようだ。顔を赤らめながら慌てたように俺から離れ、マーサの謝罪に言葉を返す。
「わ、私は主様が気にしていないのなら、気にしません!」
その言葉にほっとしたように顔を上げ、軽くサクヤの頭を撫でるマーサ。
「そうかい? ありがとね! ほらラーナ! あんたも謝りな!」
いつの間にか痛みから抜け出していたらしいラーナの首根っこを掴んで俺たちに顔を向けさせ、俺たちに謝罪するように促すマーサ。
「あの! ごめんなさい……」
マーサに首根っこを掴まれながら、しょぼんとして俺達に謝罪するラーナの様子に思わず笑いそうになりながら、俺とサクヤは気にしないでいいと返した。
そんな俺たちの様子に安心したような顔をしてラーナから手を放すマーサ。
「2人とも、許してくれてありがとうね! 客商売だから変な噂が立っちゃ困るからね。この子は昔からかわいいものに目がなくて、嬢ちゃんみたいなかわいい子を見つけると、ときどきこんな風になるんだよ。まったく困った娘だよ」
呆れたような顔をしながらもマーサのラーナを見つめる目は優しい。
そんなマーサの様子に俺たちは思わず、ほっこりとしてしまう。
「シュンそれとサクヤちゃん、だったね? こんな子だけどこれからも仲良くしてやっておくれ」
「もちろんです! 抱き上げられている間も丁寧に扱っていただいていましたから、私に含むところはありません! 主様は?」
「はい。俺もサクヤと同意見です、マーサさん。それに少しくらい欠点がある方が、可愛くていいと思いますよ?」
ちょっとした意趣返しにいたずらっぽい笑みを浮かべてそんなことを言ってみる。
案の定ラーナは顔を真っ赤にして俯いた。
「あっはっは! そうかいそうかい! ありがとね!」
その様子が面白かったのか大笑いしながら腹を叩いているマーサさんはやはり肝っ玉母さんの貫禄に満ちていた。
「それじゃ仕事に戻ろうかね。シュン、あんたたちもどこかに出かける予定だったんじゃないかい? 引き止めちまって悪かったね!」
「いえ気にしないでください」
「そうかい? まあ今回のお詫びになにかサービスするから楽しみにしときな!」
む? それなら……
「それだったらマーサさん。誰か料理ができる人を紹介してくれませんか? ちょっと料理を習いたくて」
そう言うとマーサは不思議そうな顔をしながらも頷いてくれた。
「構わないよ。それだったらラーナに教えさせよう。いいね? ラーナ?」
「もちろん! 迷惑掛けちゃったし、それくらいだったらまかせて!」
笑顔で了承してくれるラーナに心の中でガッツポーズをする。
今後仲間が増えるなら料理くらいできないと大変そうだからな。
これでポイントを使わずに料理を覚えられそうだ。
「ありがとうございます! それじゃあ今夜から早速お願いできますか?」
「ええいいわよ」
「それじゃあお願いします!」
そこで横で何かを考えているサクヤの様子が目に入った。
「サクヤ? どうした?」
「あっはい主様。その、料理なんですけど、私も教えてもらってもいいですか?」
「サクヤも? 俺は構わないけど……ラーナさん?」
「もちろん大丈夫です! サクヤちゃんと料理ができるなんて夢みたいです!」
本当に最初のしっかりものな彼女はどこに行ってしまったのか。
「だってさ」
「ありがとうございます! ラーナさん!」
「いえいえ! こちらこそありがとうございます!」
まあいいか。さて話も終わったことだし、
「それじゃあラーナさん、マーサさん、そろそろ俺達は行きますね!」
「はい! いってらっしゃいませ!」
「気を付けていくんだよ!」
そうして2人の見送りの言葉を受けて俺たちは宿を出るのだった。




