プロローグ
「INFINITY STORY'S ONLINE?」
「そうだ! 来週からリリースされるVRMMORPGなんだけどな? 春樹も一緒にやろうぜ!」
夏休み前最後の山場。
数日に渡る学期末テストが終わり弛緩した空気が漂う昼時。
テスト期間ゆえに半日で学校が終わり、本日最後のカリキュラムである、昼食を食べながら帰宅したあとの予定に思考を巡らせていた俺、天城 春樹は目の前で一緒に昼食を食べていた親友兼幼馴染である東雲 陸からそう話を持ち掛けられていた。
「またいきなりだな……。それって最近話題になっている完全没入型VRMMORPGってやつか?」
「その通り! 最新の技術が山盛り使われた現代の最高峰! βテストの評価も最高峰だ! 現実の世界との差が全くと言っていいほど感じられないんだよ!」
VR〈バーチャル・リアリティ〉(仮想現実)というものが世に出て早くも1世紀以上。
幾度かの技術革新を経て完全没入型VRというものが生まれ一般に普及し始めたのが今から数十年程前。今ではVR機を持っていない人間の方が少ないだろう。
そんな中幾つものVRゲームタイトルが作られてきたがここ数十年は完全没入型VRという点以外でこれといった変化はなく、停滞の様相を呈すなかで生まれた幾つもの最新技術を使って作られた完全没入型VRMMORPG。
それが「INFINITY STORY'S ONLINE」というゲームなんだそうだ。
「まあそのゲームについてはよくわかった。それで? なんでまた俺を誘うんだ? 今までゲームをプレイした感想を話してくれたりはしても誘っては来なかっただろ?」
「まあ春樹はあんまりゲームに興味なさそうだったからな。小説とかに小遣いも時間も全部つぎ込んでたし」
「まあ俺の唯一の趣味だからな」
「だろ? ほんとは一緒にやりたかったんだぜ? でも流石にまったく興味がないものを押し付けるのもなって遠慮してたんだよ」
そう俺は幼い頃から本を読むことだけが唯一の趣味だった。と、いうよりそれだけに傾倒していた。その中でもファンタジーや英雄物語に、はまっておりそれが高じて陸たちのお爺さんがやっている道場に入ったりしたこともあるくらいだ。そこそこ才能があったらしいのだが、結局本を読む時間が取れずすぐにやめてしまったが……。
閑話休題
「じゃあなんでだよ?」
「まあいくつか理由はあるんだが……実は葵も春樹と一緒に遊びたがってるんだよ、このゲームで」
「葵が?」
東雲 葵、隣のクラスに在籍している陸の妹で俺たちの一つ下の同学年。意味が分からないって? まあ簡単に言うなら陸が4月生まれで葵が3月生まれってことだ。
容姿は黒髪ロングな大和撫子で性格も明るく、料理もできる。これだけ聞くとハイスペックだが陸と同じ重度なゲーマーで学校にいる時間以外はほぼゲーム三昧。
今日も昼食も食べず一足先に下校している。
まあそれ故に運動、勉強共に赤点ギリギリ常習犯という残念な奴だ。俺は勉強はそれなりにできるためテスト前はうちに陸とともに勉強を教わりに来たり、両親が仕事で家を空けることが多い俺のためにお礼にとよく朝食を作りに来てくれたりする。
「そそ。まあ、あいつも俺と同じ理由で今までは遠慮してたんだけど、春樹この前自分で小説を書いてみようか考えてるって言ってたろ?」
確かに言った。まだまったく手を付けていないが、小説に嵌って十余年とうとうというべきかようやくというべきか俺は自らの手で小説を書こうと考えていた。
「それでそのネタにこのゲームはなかなかいいんじゃないかと思ったんだよ」
「このゲームが?」
その予想外な提案に思わず目を見開く。
「ああこのゲームはほぼ現実との差がないって言ったろ?」
「ああ」
「その現実との差っていうのが本当に文字通りなんだよ。グラフィックとかモーション、NPCの反応から物理法則まで完璧に再現されてる。
まあ魔法とかがあるからその分は現実と違うし、プレイヤーに関してはモーションアシストとか痛覚制限とか残酷描写制限とかがあるから完全に同じではないけどな! ああこの設定は外すこともできるぞ?」
「それは……確かにすごいな」
ゲーム自体俺はやったことはないが陸からはよく話を聞いていたからどんなものかは知っている。少なくとも今まで聞いたゲームの話ではよくてグラフィックが現実に近いくらいのものしかなかったはず。
「だろ? で、このゲームはクエストとかも常に同じものがあるんじゃないんだ。個々のプレイヤーの行動に沿ってクエストが発生する。つまり自分だけのオリジナルの物語を自分自身が主人公になって歩めるんだ。まあこれはこのゲームの広告の受け売りだけど……。ゲームのタイトルに偽りなしってところだな! どうだ? ちょっとは興味出てきたか?」
「ああ……正直ちょっとどころじゃなく、な」
陸の話が本当なら俺のゲームでの行動それそのものが物語として小説にできるってことだろ? 自伝みたいな感じだしいろいろ盛る必要があるかもだが……いいな、だが……。
「でももうそのゲームって完売していなかったか?」
そうこのゲームあちこちで宣伝していたため俺も見かける機会はそれなりにあったのだ。興味がなかったためスルーしていたのだが、たしか発売して即日完売していたはず。
「ああ、ゲーム自体はもうすでに完売してる」
「だよな。じゃあ次が発売されたらってことか?」
「いいや? だったら今そんな話をするわけないだろ?」
うん? こういうってことは……
「何かあてがあるのか?」
「ふっふっふ。これ、何だと思う?」
そういって隣の自分のカバンから取り出したのは薄い小さな箱。そこには『INFINITY STORY'S ONLINE』の文字が…
「これって……」
「ああ『INFINITY STORY'S ONLINE』のソフトだ」
「でもそれって陸のじゃないのか?」
「いや? これはお前のために葵と用意したものだぞ?」
それはつまり……。
「おいおいこのゲーム、高かったんじゃないか? もし俺がやらないって言ったらどうするつもりだったんだよ」
「まっ、そんときはそんときだな。それにこれお金とかかかってないし」
「どういうことだ?」
「まあ簡単に言えば俺も葵もβテスターに当選してたんだよ」
「まじか」
「ああ。それでまあそれなりにテスターとして貢献しててな? テスターは一人一つソフトと貢献度に応じて特典があったんだが、俺と葵で2人分の貢献度でもう一つソフトをもらえないか運営に相談したんだ。そしたら、」
「もう一つもらうことができたと」
「そういうことだ」
まったく、あまりに後先考えない行動に思わず呆れてしまう。だがそれでも2人が俺のために骨を折ってくれたのがわかり思わず笑いがこぼれる。
「なんだよ急に笑ったりして」
「ふっ、いやなんでも? ありがとな! 陸」
「気にするな、俺も葵もお前と一緒に遊びたかったんだよ」
そう言って顔を背ける陸だが少々耳が赤くなっている。
ああそうか今まで結構気を使わせてたのかもな。悪いことをしたな。
「そうか……葵にもお礼を言わなきゃな」
「そうしてやってくれ、あいつもよろこぶぜ?」
「ああ!」
こうして俺の執筆のためのゲーム生活が始まった。このゲームの世界にどんな物語が待っているのか今から楽しみだ!




