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05

~凛視点~


転生前


「リク?・・・ちょっと冗談はやめてよ・・・どこなのリク!」


自分の前から兄の姿が忽然と掻き消え、どれ程声を掛け様とも返事は返ってこなかった。

そして目の前には2本の彼岸花が現れ、プカプカと浮かんでいる。


(なんじ)の兄は傍なるぞ、只見る事と声を掛くべからぬばかりなり。』


「どうしてですか!何故こんな事をなさるんですか!」


『古き箱庭か新しき箱庭か、いづかたに生を得るかは汝の定むべきかな。

兄もまた個人に定めねばならぬ、兄妹で語らひて定むべし事柄ならず。」


その言葉に呆然とするしかなった。

別れの時があまりにも唐突過ぎる、それ故にアタシは激しく動揺し大きなショックを受ける。


死ぬ時まで一緒だった双子が、ここへ来て切り離されると言う残酷な仕打ち。

だが次の生き方を兄妹で話し合う事で、妥協が生まれ個人の意見をどれだけ反映出来るかと言うと、それは互いに折版と成り得る。

半分ずつでは完全なる個人の意見として、認めて貰えないと言う事であろう。


だが脳裏に浮かぶは、子供の頃から現在に及ぶまでの思い出と体験。

試合に負けたアタシを励ましてくれた優しい陸、道場の稽古で遅くなると頼まなくても迎えに来てくれた兄の姿。

だけど何度も大喧嘩し、一月(ひとつき)の間、一切口を利かなかった事もある。

いい事があれば二人で喜び合い、失敗すれば互いに励まし合う、そんな身近な存在。

自分にとって謂わば半身とも思える大切な存在、または男としての人生を送る事を選んだもう一人の自分。


それは幼い日の思い出――先走る自分を制して、後ろからトコトコ付いて来る姿は、今でも覚えてる。

本当は自分の方が姉で、彼は弟なのではと考えた事も幾度もあった。

『着いてくるな!』と強く言った事もあるけど、陸はそれでも『心配だから』とか『角から車が来たら危ないだろ』などと気に掛けて来る兄との記憶が、今じゃ涙となって零れ落ちる。


『すまぬ、憂き決断をせめてあるは分かれり・・・されど・・・』


「分かっています・・・決めなきゃですよね。」


『さり。』


彼が自分の半身なら、これからの人生でも傍にいて欲しい――いや、欠かせない大切な存在である。

アタシはアタシで、自分の性格を十分に理解しているつもりだ。


そそっかしくて、男の陸より喧嘩っ早い、オマケにガサツだ。

自分でも嫌に思う所ばっかりだけど、それを今まで陸が補って来てくれていたのだ。

直そうとしても直せなくて、幾度となく悩んで、変える為に努力して来た


でも結果は火を見るよりも明らかで、大学生になっても悪い所は治らなかった。

そんなアタシを見放さずに、何時も傍で見守ってくれた陸には、まだ何のお礼も出来ていない。


もう一度会いたい――ホント会えなくなってから、その大切さを実感するなんて馬鹿みたい。

だったらなおさら、願う事は1つだけじゃないか。


「なら、私は贅沢も裕福も――人並みの生活も要りません。

でも叶うなら、兄との再会を心より願います!

アタシにはリクが必要なんです、どうかもう一度リクと生きさせてください。」


もしこの願いが叶うなら、今まで以上に話をしよう。

これから生を受ける所が何処かなんて関係ない、それが地球でも、新しい世界でも関係ない。

陸と一緒に、新しい景色を見てみたい――共に気持ちを共有したい。

一人で眺める景色は、きっと物悲しくなってしまうだろう――でも彼となら、それはそれは美しい景色を共に観れると信じているのだ。


天照様は『そうか』と只一言そう告げてから、光の中で右手を払い、目の前の彼岸花を掻き消した。

そして新しく一本の彼岸花が現れた、それは美しい純白の彼岸花であった。


『また会う日を楽しみに――人の考へし、白曼珠沙華(マンジュシャゲ)の花言葉なり。

されど汝の兄は幼き頃の如く、迎へに行かぬかも知れんぞ、良しや?』


「アタシ等は双子なので、兄との考えは似たり寄ったりです。

昔から心配性なリクが、私よりも裕福や贅沢を望むとは思えません。

兄は――リクとはそういう男です、必ず迎えに来てくれると信じています。」


『さなるべしな――彼岸花を掴みたまへ。』


彼岸花を掴んだ瞬間、眩い閃光で眼が眩む。

会えなかった時の不安はある、だが再開を待ち望むしか自分には出来そうになかった。


「お願い・・・昔みたいに迎えに来なさいよ、リク・・・」


そして最後に、天照様の優し気な声が聞こえた気がする。


『良い旅路を。』



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~現在 転生2日目~


最初に目に入ったのは、見慣れぬ木製の天井。

今まで寝ていたゴワゴワとした感触のベッド、恐らく中身は藁か何かを詰めているのか、シーツ越しに草の臭いを感じる。

起き上がり周りを見渡すと殺風景な部屋が広がっていた、窓の隙間からは光がさしている。

現状を見るに、昨日の出来事、全てが夢だったと言う事ではない様だ。


隣には大口を開けて寝ている陸がいて、口から涎が垂れていた。

そうしてグーグーと寝息を立てている姿は、前世とあまり変わっていない。

直ぐに起こしてやろうかとも考えたが止めておく。


「迎えに来てくれたし・・・今は許してしんぜよう、このシスコンめ。」


と、小声で言いつつも、今では自分でもブラコンであるのを自覚しつつある。

人攫い共に袋詰めされた当初は、迎えは来ないのかと脳裏を過った、なので自力で脱出しようかと考えた。

しかし子供の体では中々対抗できず、暴れて暴言を吐くしか出来なかった。


だが陸はやはり迎えに来てくれた。

助けに来てくれた事が、再会が叶った事があまりに嬉しくて、思わず抱き付いてしまったのは一生の不覚である。

込み上げて来る「やっちまった」と言う感情、それを必死に顔には出さぬ様に振る舞い、その場を後にした。


しかしそれにしても、この世界に春夏秋冬があるのかは分からないが、朝は少し冷える。

陸を起こさぬ様にゆっくりベッドから降り、台所の方へ向かい暖炉に火を起こす事にした。

昨日の夜に陸が、角材で作っていた木刀の削りカスを集め、火打石で火種を作り、小さな薪から()べていく。

作り置きの蛇スープ入り鍋も、ついでに温めておこう。


火は既に安定し、後は鍋が温まるのを待ちつつ皿などを用意するだけである。

しかし直ぐに配膳も終わり手持無沙汰になってしまう。


家の中をウロウロし、何か使えそうな物は無いかなど見て回るも、コレと言って何もない。

タンスの中を何となく調べて見ると、女物と子供の服が数着ずつあるだけで、男物は見つからない。

予想はしていたものの、やはり父親はいなさそうである。

母親も亡くなり、正に天涯孤独の身。


「どうやって生きていく気だったのかしらね。」


「おはよ・・・早いなお前。」


「おはよう、アンタが遅いのよ。 

スープ、温めてるけど食べるでしょ?」


「ん・・・食う。」


家を物色する物音に気が付いたのか、陸が寝室から出て来る。

まだ眠そうに瞼を擦る姿は、子供の頃を思い出し、何所か懐かしさを覚える。

スープを取り分けテーブルに着き、二人は食事を始める事にした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「碌なもんじゃないと思ってたけど、意外と美味いよな、蛇。」


「そうね、しかも一晩置いたからか、スープにダシが出てるみたいで、普通に食べれちゃうわ。」


互いに蛇スープの感想を言い合いながら食事を楽しんでいた。

骨が多く肉は少ないが、煮込んだお陰か骨からダシが染み出て、昨晩より美味しく感じた。

昨日の夜に食べたハーブ焼きも臭みが無く、黙々と食べきってしまった。


「「ご馳走様。」」


程なくして食事を終え、今日に方針について話し合う事になった。

残りの食材の事や、仕事についてなど、色々話は広がるが、まだ完全にこの世界を知り尽くした訳ではなく、曖昧な答えしか導き出せないでいる。


「そうだ、これまだ見てないよね?」


アタシはポケットから革袋を取り出し、中身をテーブルの上にばら撒く。

中にはやはり金銭が入っており、茶色いコインと小さな紙が入っていた。


「銅貨・・・だよな?それが九枚か、多いか少ないか分かんねえな。」


「これで、食べ物買えるかな?

野菜もまだ少しあるけど、食い詰めても2日くらいだと思う。」


「ミスったな、初日から食べ過ぎた。」


「確かに、もっと慎重に少しずつ食べるべきだったね。」


「あ、でもホラ、これって紙幣じゃ――いや違うみたいだな、こりゃ。」


紙は折り紙の要領で小さく折り込まれ、表面に文字が書いてあったが解読は出来ない。

ゴワゴワとした質感で強いて言えば、質の悪い和紙の様な印象を受ける。


「ここの表紙の所、読めるか?」


「いや、アタシも分かんない・・・でもこれって手紙じゃないの?」


「あぁ~そう言えば、小学校で女子がこんなの回してたな、開けてみるか。」


ペリぺリと開いて見ると、ハガキぐらいの大きさの紙になり、表面にビッシリと文字が書き込まれていた。

当然開いた所で解読が出来る訳でもなく、頭を抱える事となる。

だが手紙の頭に数文字、最後尾に数文字記載されており、恐らく宛名と送り主の名前が書かれているのであろうと察する事が出来る。


「仕方ねえな、取り敢えず外を見て回ろうや――銅貨九枚で何が買えるのか確認したいしさ。」


「そだね~雇ってくれそうなところも見つけなきゃだね

あっ、ついでに手紙の内容も誰かに読んで貰おうよ!」


「いいね、そうしよう――よし、なら早速出掛けようや。」


陸は椅子から降りると、近くに置いてあった木刀を腰のベルトに差し、ナイフを背中に入れて用意する。


「北も南も禄でもないし・・・東は・・・」


「壁だな。」


「西へ一択ね。ご飯買えそうになかったら、魚でも取ろうよ!」


「すぐそこ川だしな、けど魚いるのかあそこ?

まぁいいや、後で川も眺めて見ようぜ」


街の西へ向けて、自宅のドアを開き外へ出て行く――こうして2日目の行動を開始した。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



貧民街は外壁内の東側に位置していると考えられる。

故に日が昇ると、否応なく壁に光が遮られ、朝の訪れを日陰に遮られてしまう。

それ故にこの貧民街は、まだ若干薄暗い様相を見せているのが現状だ。

これもあり、猿と蛇は仕事のしやすい環境におかれているのは、間違いないであろう。


太陽の位置からして今は7時か8時と言ったところだろうか。

現代日本ならば、通学や出勤の時間であっただろうが、貧民街の道はまだ人通りも少ない。

貧民にとって、朝の行動時間はもう少し遅い様だ。


薄暗く危険に満ちた街をひたすら西へ移動している最中、細い路地の向こうに光が差しているのを見つけた。

路地を通り抜けた先には、貧民と平民を分け隔てるが如き、石畳の道が広がっていた。


道幅も貧民街より広く、歩道には石畳、馬車道には土が敷き詰められ区分されている。

車道を荷物を載せた馬車や、騎乗した鎧姿の兵士達が走り去って行く。

歩道、車道ともに、その往来は激しいものであった。


路地の向かい側にはレンガを多用した背の高い建物が立ち並び、建物から外に出て来た住民同士が挨拶を交わし、どこかへ出掛けて行く。

恐らくは、アパートの様な役割を果たしているのであろう。


木造建物も確認できるが、貧民街に立ち並ぶボロ屋とは雲泥の差であった。

木材の使用箇所は枠組みと屋根が主で、壁を漆喰(しっくい)で舗装してあり、ガラス窓も備え付けられていた。

その家から出てくるのは紳士服の男性で、これから出勤する様子である。

男性を見送りに、玄関へ出て来た妻と子から察するに、アレは一軒家だと考える。


「凄ぇな、これが貧富の差か。」


「何か悲しくなるわね――そりゃ向うからしたらこっち側は、スラムに見える訳よ。」


道行く人々は、仕事へ向かう紳士や、荷物を運ぶ作業員風の者に至るまで様々である。

剣を持ち鎧を着た男女も見受けられるが鎧に統一性はなく、強いて言うならば傭兵や用心棒の印象を受ける。

中でも目立つ存在として、通りがかった傭兵集団の中の一人に目を奪われる。


「ねぇ見てよ・・・あそこに柴犬が・・・」


「ありゃ確かに柴犬だな・・・でも二足歩行で槍持ってるんだけど、なにアレ。」


もしやあれは、マンガなどで言うところの、獣人と呼ばれる者達であろうか。

身長は凡そ170cm程で全身を毛皮が覆っているものの、体格が良く大変筋肉質であった。

手は人と同じ様な形に進化しているも、脹脛(ふくらはぎ)の骨格は逆関節のままである。

鎖帷子を着込んだ上にキルト生地の布鎧を羽織り、ズボンも穿いていて、肩に槍を担いで移動している。

その獣人は仲間であろう人間とも普通に会話しており、集団に順応している。


「「可愛い・・・」」


「「特に尻尾!」」


思わず感想が口から溢れだした、しかも言う事が駄々被りになってしまう。


「あの人、コボルトじゃないかしら?――良くゲームに出て来るでしょ!」


「かもな、てか武器持ってたって事は冒険者なんじゃね?

漫画ラノベで良く聞くだろ、傭兵とはまた別分類のアレだよ!」


地球上には存在しないコボルトらしき生物に、また創作物でしか聞く事のない冒険者と言う職業を想像すると、今までになく興奮を感じる。

だがよくよく通りを観察していると色々な人種がいる事に気が付く、例えば猫耳、猫尻尾、腕周りと足周りにだけ毛皮が付いた顔は人間寄りの猫人間など様々だ。


『あの人、猫獣人と人のハーフよ!』


『色んな人種の人達がいるんだな――やっべぇ興奮して来た!』


こちらの世界の言葉を使おうと互いに心がけていたが、あまりの驚きに話す言語が日本語に戻ってしまう。

それからも街を行きかう人々に対し、驚きと興奮の混じった熱い視線を送り続けた。

傍から見れば、何に驚いているのか不明な、変な子供等だと見られていた事であろう。


そして観察を続ける最中、上空に()()が現れる。


『リン、あれ?!!?!』


『じょ、冗談でしょ!!!』


徐々に近づいて来るそれは、鱗を全身に宿した赤い竜であり、蝙蝠の如き翼を大きく広げバサバサと羽ばたき、猛スピードで頭上を飛び去って行く。

通り過ぎた後には猛烈な突風が吹き荒れ、その羽ばたきは煩い程の轟音を置き去り遠のく。

竜の背には甲冑姿の騎士が二人騎乗しており、竜も鎧や兜を首や顔、胴体に着せられている。

つまりあの竜は、人によって飼育されていると言う事であろう。


『『半端ねぇぇぇぇぇェェェ!!!!!』』


思わず今見た光景に、大声を上げずにはいられない。

興奮はまさに最高潮であった、しかし直ぐに冷や水を浴びせられる事となった。


「おい、ジャリ共!」


「「え?」」


目の前にいるのは、白いサーコートを着た若い坊主頭の男と口ひげを生やした中年の男、2人組であった。

胸にはデカデカと天秤のマークがあしらっており、その服の下には革と鎖帷子を組み合わせた鎧を身に纏っている。

腰のベルトにはロングソード、短い木製警棒、細身のナイフ、肩からカバンを下げている。

兜などは被っていない為、彼等の顔が強張っているのが伺える。


「えっと――どちら様で?」


俺は咄嗟にそう質問を投げかけたが、二人組は『んッ!』と喉を鳴らしながら、親指で胸の天秤を指さすだけであった。

何を言いたいのかが分からない為、凛に目線を送るも彼女も分からず、俺も首を傾げるしか出来なかった。


「何を仰りたいのか、アタシ等ちょっと分からないです。」


「何ってッ!警邏(けいら)騎士団に決まっているだろ!」


「警邏騎士団って・・・あぁ~警邏隊の事か。」


「そうだ、お前達ここで何を騒いでいた。

ここらの近隣住民が、朝から奇声を上げてる子供がいるって通報が来ているのだ。

お前等何していた、まさか悪だくみしてたんじゃないだろうな。」


転生二日目にして職質を受ける事となってしまう、俺達は若干戸惑いながらも、空を指刺し既に見えなくなった竜について話す事にした。


「赤い鱗のドラゴンが、直ぐ上を通り過ぎて行ったんですって!」


「あんなの見たら騒ぎもするでしょうよ!」


「ドラゴン???」


中年の男は後ろに控えていた坊主頭に視線を送り、互いに不思議そうな顔をした。

するとカバンから懐中時計と手帳を取り出しパラパラとページを捲り、眺め始める。


「一応確認したが、概ね(おおむね)普段通り。

ありゃ、いつもの偵察騎だ、驚く程のものではなかろう。」


「いっつも通り過ぎるのかよ、あのドラゴン?」


「あのだな坊主、そもそもありゃドラゴンじゃなくてドレイクだぞ。」


「「ドレイク?」」


あまり聞きなれない言葉に新たな疑問が生まれ、警邏隊員にそれぞれの違いを詳しく聞く。


「ねぇ、それドラゴンと何が違うの?」


「何って、まず大きさが全然違うだろ、ドレイクは馬を縦に並べて2.5~3頭分しかない。

それに対してドラゴンは――まぁ俺も聞いた話なんだが――小さい個体で馬20頭分くらいはあるらしいぞ」


「ドラゴンは凶暴で火を噴き回り、襲われれば壊滅間違いなし。

だが個体数は格段に少ない――滅多に街が壊滅した何て聞く事は無い、恐らく数百年にあるか無いかだな。

それに比べドレイクは火を噴けない代わりに、人に良く懐くし、数も多い。」


「「へぇ~そうなんすね~」」


この世界では、ドラゴンとドレイクと言う枠組みで分類されている様だ。

それは地球でも同じだったのだろうか?

色々なファンタジー物を見て育ってはきたが、正直そう言った分類の仕方は知らなかった。


「お前等なぁ~勉強不足も甚だ(はなはだ)しいぞ。

ドラゴンなんぞより()()()に襲われる危険の方が高いと言うこのご時世に、ドレイク如きに驚きおってからに!」


「そんな事、子供に言ったって仕方ないですよ。」


「なんか、手間掛けさせちまったみたいで、すんません。」


「珍しくて驚いちゃっただけです、勘弁してください。」


「まぁいい、分かったらもう馬鹿騒ぎするなよ!いいな?」


そう告げて彼等は去って行った。

面倒事には発展せず、注意だけで済んで良かったと一安心する。


しかし、転移者とは一体何なのだろう?――まだ知らない事だらけで良く分からないが、これから色々と学ぶ事が増えそうだ。

この世界でどの様な法があるか分からぬ以上、軽はずみな行動は避けて通るべきであろう。

肝に銘じる事にする。


だがそれにしてもこの世界と言うか、この街並はどうも可笑しい様な気がして来る。

長い事、この場所で街を観察していて、思わずそう考えてしまう。


「冷静になって考えてみると、この街のちょっと変じゃないか?――文化水準も技術レベル高すぎだろ。」


「そんなことないでしょ~中世なんてこんなもんじゃない。」


「いや、俺も詳しい訳じゃねえけど、19世紀か...それぐらいには発展している様に感じる。

寧ろ中世の街並みって聞いたら、俺はむしろ貧民街の方を思い浮かべる。

それにホラ、服にしたってデニムもテーラードも近代的過ぎやしねえか?」


凛は貧民街の方を振り返り眺めてから、もう一度正面に向き直る。


横切っていく作業員の服は、デニム生地のオーバーオールであった。

デニムが主に使われ始めたのは、1800年代中期頃のゴールドラッシュ時に、鉱夫向けに販売が始まったと記憶している。

紳士服も同様に、現代的なテーラードジャケットも居れば、ヴィクトリア朝初期を彷彿とする服装が混在している。


そして彼女も道行く人々を観察し、違和感に気が付いた様で、感じた違和感について話し出す。


「あ~言いたい事分かった気がするわ。

今風のワンピースにヒール履いてる人も居れば――あれはバッスルスカートって言ったかな。

映画や洋ドラに出て来そうな、服装の人も居るわね。

色々混ぜこぜな感じだけど、ここ異世界だし変って言う程でもないんじゃない?」


「まぁ『異世界だから』って言ってしまえば、それまでなのかもしれんけど。

俺が言いたいのは、思った以上に転生の道を選んだ人が多くて、同時に記憶も引き継いでいるんだなって事だよ。」


凛は口元に手を当て少しだけ考え、再び口を開く。


「人が向うからこっちに流れてきて、技術力に高まる分には喜ばしい事だと思うけど。

それに記憶に関しても、アタシ等だけ特別な訳ないじゃん。」


俺達は前世の記憶が残っている。

記憶を手繰り寄せて見ると、両親の顔や名前、剣道を始める切っ掛け、妹との思い出に至るまで事細かに残っている。

どうして憶えていられるのだろうか、転生とは人生をリセットして、一からやり直す事だと考えていた。


何故残ったままの状態で転生出来ているのか理解出来ない。

それこそ神のみぞ知る事柄なのかもしれないが、どうにも腑に落ちない。


「俺達だけ特別だなんて思っちゃいねえって。

只よぉ~服とか建築ならまだしも、武器や兵器を持ち込んで来る奴がいるかもって事だよ。

結局俺等は地球生まれの部外者、必要以上に技術を広めて世の中を搔き乱すべきじゃない。」


「・・・アンタの意見は間違ってないと思うよ・・・けどこれは仕方のない事かとも感じる。

皆が皆、何とか食べて行かなくちゃいけない状況に置かれている訳で、仕方なく前世の知識を披露する人がいても可笑しくない。

それをアタシ等がどうこう出来る事じゃないって、況してや止めれる訳でもないしね。

もう行こ、仕事とか手紙の内容読んでくれそうな人探さなきゃだしさ!」


彼女に腕を引っ張られ、ようやく路地を出て表の通りへ出る。

俺は凛とはぐれない様に隣を歩き、仕事を探しに点々と店らしき場所を歩き回る。


そして偶々通りがかった武器屋のショーケースの中には、古い型式の銃が収められていた。

もう既にこの世界には武器が持ち込まれた後だった。




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お手数やも知れませんが、どうかよろしくお願い申し上げます。


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