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木々の向こうから甲高い口笛の音が聞こえてくる――これは一連の前準備が終わった事を知らせる合図だ、僕は小走りで陸君達がいる方へと向かう事にした。
すると直ぐに皆を目視するに至るのだが、その惨状はあまりにも凄惨で正に死屍累々と言うべき状況である。
顔面を鈍器で潰された男の死体が地面に横たわり、その死体に掛けている腕が地面に転がっている
胴体を斜めに斬り付けられた男は、傍から見れば損傷は少ないかも知れない、だがこの死体は顔に尋常ならざる恐怖を宿したまま死んでいる。
向こうにはコボルトが立ったまま死んでいる、首から上は存在せず、手には刀身が欠けた剣を未だに握りしめている。
僕は呆然とこの光景を眺めながら、胸の辺りがムカムカしてくるのを感じ取り、すぐさま木の根元に吐瀉物を吐き出すのであった。
だがそんな最中、陸君はニナに何やら怒っている様であり、声を荒げながら彼女に迫っている。
僕は一連の戦闘を見ていない為、何がどうなったのかを知らないが、彼があれ程怒りを露わにするのだから相当な事を仕出かしたのであろう。
「ニナ!さっきのはどういう了見だ!――ふざけた真似しやがって・・・てめえは相手に敬意を持って接する事が出来ねえのか?」
「でもアイツ等、悪い奴だし・・・犬畜生に敬意とか必要ないじゃん、そもそもコボルトを始末し出来たんだから良かったと思うんだけど・・・」
「お前マジで言ってんのか?――いいか覚えて置け、この世に生まれながらの悪党は存在しない、少なくとも俺はそう考える。
お前の言動は、只単に不必要に相手を貶めてから刈り取ったに過ぎない――俺達は連中を殺して金を貰う汚い仕事をしているが、中身まで汚れる必要はねえんだ。
せめて死にゆく者に対し最低限の敬意を払え、恐怖を与えてしまっても絶望を与える必要はないんだ。」
「おいリク、あんま叱ってやるなって~それに時間との勝負なんだろ?
だったら俺様としては、さっさと山を駆け上って連中を追い詰める方が先だと思うがな~」
死体が転がる中、彼は道徳性について説いて見せた――それは殺しを楽しんで欲しくないと言う、彼の思いやりなのかも知れない。
だがそもそも、何故皆はあんなにもグロイものを見て平気でいられるんだ、まったく理解が追い付かない。
人を殺したんだぞ、何と言うか殺し慣れているなんて感じではなく、もう既に彼等の心が死んでいるとしか――いや、心が死んでいたら今の様な発言は出来ないか・・・
「ハヤト、悪いが背中は摩ってやれないからな――俺達全員血でベタベタだし、そもそもお前さんには慣れて貰わねえといけねえ。」
今しがた傍に寄って来た陸君は作戦通り、鹿の体内に入っていた為に全身を鹿の血で滴らせながら、冷たく声を掛けてくるのであった。
「・・・大丈夫、僕はそんな事を頼む気はないから・・・それより君は何でそんなにも平気でいられるの?――何かコツでもあるのかい?」
「コツ?――そんなもんありやしない――俺は単純に気が触れてるだけだ、そうでなきゃこうして人を斬ったりなんか出来る訳がない。」
彼はそう吐き捨ててから離れて行った――そしてニナに指示を出し、再び山の中の行軍が始まるのだ。
だが彼は歩き出す前にボソリと言葉を呟いた、『あぁまた殺しちまった』と、その言葉の意味は単純に自分の行いを悔いているのか、はたまた本気で見逃す気があったのかは今となっては分からない。
僕等はニナの鋭敏な聴力を頼りながら草木を掻き分け前進した――目指すは山奥で潜んでいるであろう盗賊本隊の拠点である。
僕達の歩く速度はニナの指示によって徐々に速まり、その理由を問うと何やら撤退の準備を進めているみたいである。
そもそもの問題として、先程殺された盗賊の一人が絶叫を発した事から、それ程の猶予がない可能性が浮上しているのである。
だが森で生まれ育った彼女の前では、決して逃げ果せる事は叶わず、程なくして盗賊達が隠れ潜んでいた場所へと辿り着くのである。
僕等は雑草の中に匍匐前進の状態で寝ころび、盗賊達の行動を観察する事にした。
その場所にはねぐらとなっていたであろう洞窟があり、その周囲は切り開かれたが如く木々はなく、まだ少し残る雪に幾つもの足跡が散らばっている。
当然そこには盗賊達の姿も確認出来ており、何人かが馬に奪った品物を積み込んでは再び洞窟へと戻って行く――鑑みるに後、数分の内に脱出の準備は整うであろう。
「全部で七人か・・・それ程多くねえな――リク、ここは一気に乗り込んでブチのめしてやろうぜ。
それが一番手っ取り早いし、簡単だろ?」
「待て待て、まずは馬を潰しに掛かる――あれに飛び乗られちゃ追い付くのも面倒だしな。
俺とニナが弓で攻撃する、ハヤトは・・・やれそうか?」
「馬だけなら・・・何とかなるかも。」
「よし、馬を全部始末したら、ジョニー突っこんで荒らし回れ、その後ろを俺が続く。
ニナも好きに動いてくれて構わねえ、ハヤトは自分の身だけを守てな。」
「手早くやってくれ、俺様は金棒を振り回したくてウズウズしてんだ――あぁ喧嘩が楽しみで仕方ねえや。」
すると陸君は血液ボトルの栓を開き、霧状に漏れ出る血を左手で受け止めてからと言うもの、徐々に形を変化させていく。
作り出したのは赤黒い弓と三本の矢であった、その内二本はすぐ手の届くところの地面に突き刺して置く様だ。
それを見てから僕はクロスボウを用意し、ニナも弓の用意を済ませてから互いに彼へ視線を送り準備が整った事を目線で知らせる。
陸君はコクリと頷くと、小さな声で『3,2,1』とカウントを取った後、一斉に矢を浴びせだすのである。
僕は匍匐状態のままクロスボウを構え、照準を馬の頭に向けてゆっくりとトリガーを落とした――すると吸い込まれていくかの如く、狙った場所に着弾するのであった。
そして目の前に集まっていた馬達は、それぞれ嘶きを上げながらバタバタと倒れていくのだ――当然、その物音に感づいた盗賊達は続々と洞窟から飛び出してきて、逃走手段が無くなった事に驚きつつもそれぞれ武器を構え臨戦態勢へと移行していく。
このタイミングを見計らっていたジョニーは素早く草陰から飛び出し、手近な敵の元へと走り込んでいくのだ。
ジョニーは金棒を右脇へと構え、帯刀した男へ近づいて行く――向こうは剣を咄嗟に鞘から引き抜くも、時すでに遅し、剣を構えるより速くジョニーの攻撃が飛んでくるのだ。
彼は脇から振り上げる様にして相手の顎を打ち抜き、その勢いのまま金棒は頭へと戻っていく――この攻撃によって男は倒れた、そしてジョニーは凄まじい形相で雄たけびを上げ周りを威圧するのだ。
すると気付けばジョニーの後ろにはピッタリと陸君が追いかけており、彼は先程の血で作った弓を鎖へと変え、槍を持っている女盗賊へと投げつけるのだ。
鎖は女の首へと絡まり付きそのまま手前へと引っ張る、同時にショーテルの柄を回転させ峰側を正面にし、えぐる様な動作で鋭い突き技を女の心臓へと突き立てる。
刀身は女の薄い体を容易に貫通し、髑髏の兜越しに女の顔をジッと睨みつけてから、足で蹴って刀身を引き抜く。
こうして一瞬の内に二人が死んだ事で盗賊達の間に激しい動揺が起こるのである――オマケにどうやら奴等は陸君の事を知っている様で口々に『死神だ』と呟き出すのだ。
意外にも盗賊達の間で彼は有名な様である――だが盗賊達のリーダーと思しき男が叫び出す。
「慌てんじゃねえ!何が死神だ、所詮はガキじゃねえか、囲んで袋にしちまえ!」
この一声によって相手側は冷静さを取り戻した様であったが、しかし直ぐに動揺する事態となる。
突如飛来する四本の投げナイフ、これが盗賊達の中でも一番大きい体格をした男の胴に突き刺さるのである。
だが着ていた革鎧に阻まれ致命傷には至っていない、このナイフを投げたのはニナであり、彼女は『あれれ?』と言葉を漏らすのである。
大男はその自慢の体格を生かし、両手斧を振りかぶってニナへと接近し、そして思いっ切り振り下ろすと土を舞い上げる程の威力を示すのであった。
しかしその振り下ろした所にニナはいない、彼女は余裕の表情のまま、飛んでくる攻撃をたった一歩横に動くだけで避けて見せるのであった。
ニナはおもむろにハンドアックスを引き抜き攻撃の用意をする、だが大男も攻撃の隙を与えんと猛攻を繰り出すのだ。
大男はあらゆる角度から攻撃を仕掛けるも、ニナは顔色一つ変えずに躱し続け、そして素早く懐に入ると大男の鎧に刺さったナイフを足場にして駆け上がっていく。
すると器用に大男の肩へ乗ると同時に、ハンドアックスを大男の後頭部へと振り下ろすのであった。
流石の大男もこの攻撃には耐えられず、白目を剥いてドサリと倒れ伏すのである。
ここで陸君が多声で盗賊達に対し言葉を投げ掛ける――――
「聞けッボンクラ共!!!武器を捨てて降伏するなら命は取らないでおいてやる!!!
その場合、お前達は犯罪奴隷として身を落とす事になるが、死ぬよかマシじゃないか?
言っておくがこれは最初で最後の警告だ――よく考えて発言しろ!!!」
「ハッ!ふざけんじゃねえクソがッ誰が奴隷なんぞに落ちて堪るかってんだ!」
「―――そうかよ。」
彼は一言だけそう呟き、ジョニーを見てクイッと顎をしゃくり上げて指示を出す、するとジョニーは『そう来なくっちゃ』と言いたげに笑みを見せてから攻撃を仕掛けるのだ。
そこからは陸君達と盗賊達とが混戦状態になり、皆は互いに連携し合って一人、また一人と討ち取っていくのであった。
しかし先程、陸君の問いに答えたリーダーと思しき男が集団からスルリと抜け出し、必死な表情でこちらへと逃げてくるのである。
僕は正直どうすればいいか混乱してしまうも、とにかく足止めしなければと考え、草陰から飛び出し男へ体当たりした。
男を若干態勢を崩す事に成功したものの直ぐに立ち直り、血走った眼で僕を睨みつけてくるのであった。
奴の手にはショートソードが握られており、今にも斬り下かって来そうな雰囲気が漂っている。
僕は今までに感じた事のない緊張を覚え、それと同時に手がプルプルと震える程の恐怖からか呼吸が荒くなり、心臓が激しく高鳴り続けている。
だがそれでも僕は、右手を腰に下げたトマホークへと伸ばし、サッと引き抜いて構えるのである。
これは今までの模擬戦じゃない、実戦なのだ――だから生け捕りに出来るなんて風に考えるべきじゃない。
僕はこの人を倒さなくちゃいけないんだ――それ即ち、殺す覚悟で立ち回らなくちゃ、僕が殺されてしまう。
僕は己に気合いを入れる為に体の奥底から大声を張り上げ、そして男へと飛び掛かる。
その最中、陸君が僕の名を叫んだのが聞こえた、僕は一瞬彼の方を見ると今にも助けに入ろうとしていたが、あの戦闘状況から見て難しそうである。
自分だけで何とかしなくては――勇気を振り絞って戦うんだ!
すると先に男が剣を横薙ぎにして攻撃を仕掛けてくる、僕はそれを見計らいつつ態勢を屈めて回避する。
だが今度は剣を引っ込ませて突きを繰り出してくるのであった――それが頬をかすめ、生暖かい血が流れてくるのを感じる。
しかしここで立ち止まる事は出来ない、僕は突き出された剣に対してトマホークを叩き着けて弾く。
この一瞬生まれた隙を利用して、更に踏み込み男の腕を捕まえてから、腕へと斧を振り下ろすのであった。
攻撃は成功し男は絶叫を上げる、それと同時に男の腕から大量の血が噴き出て自分の顔へ返り血が浴びせられた。
浴びてしまった血によって僕は動揺を禁じ得なかったが、ここで動くのを止める事は出来ない。
僕は続け様にトマホークで男の腹部へ叩き着けた、しかし男は鎖帷子を着込んでいた様で、致命傷には至らなかった。
故に男の股の間に斧を差し込み、左足を男の右足へ絡み付かせ、転倒させることにしたのだ。
すると男は背中から地面に倒れ込み、そして最後の一撃を繰り出すはずだった――しかしここに来て止めを刺すのが怖い、この一撃で男は必ず死んでしまう事を考えると動くことが出来ない。
僕は得物を持った右腕を振り上げたまま、体を硬直させてしまう――そして僕はその隙を突かれる事になる。
男は咄嗟に左手でナイフを掴み、僕の腹部に向け突き出してくるのであった。
それを見て僕は、グッと目を閉じて死を覚悟する――だが痛みが走る事はなかった、恐る恐る目を開くとナイフの刀身は誰かに横から掴まれているのであった。
その刀身を掴む手は血が滲んで滴っており、ふと横を見ると陸君がいるのであった。
彼は肩を上下させて息切れしており、急いで僕の元に駆けつけてくれたのだと理解した。
すると彼は痛みに堪えながら、『やれないなら俺がやる』と言うのであった。
彼はおもむろに剣を上段に構え、今にも振り下ろそうとしている――しかし僕は仰向けに寝転がる男へと視線を向ける。
男は先程の激しい出血が原因なのか、既に意識が朦朧としており、ナイフを握る手も力が抜けてきているのである。
「リク君・・・いいよ、僕がやるから・・・」
「でも出来なかったんだろ、無理すんな。」
「ううん、やるったらやる――僕がこの人を傷つけてしまったんだ、責めて自分でケジメを着けたい。」
「・・・分かった、じゃあやってみ。」
これは卑怯なのかも知れない――それは相手が弱り、意識が薄れつつあるのをいい事に止めを刺すのだから・・・
しかしそんな事よりも何より――この人を早く楽にしてあげたいと言う気持ちが強いのだ。
僕はトマホークをしっかりと握り締め、そして勢いよく振り下ろした・・・
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俺達は15日後の日が沈むと共に道場へ帰還する事が出来た――俺は馬車を停止させ、荷台で眠りこけている皆を起こして回る事にした。
行き帰りに相当な時間を掛けた為か、全員がクタクタに疲れているものの、取り敢えずは風呂と暖かい飯が食いたい気分である。
「起きろバカ共~道場に到着だぞ~」
「・・・あん?・・・もう着いたのかぁ~畜生、背中が痛てぇ。」
真っ先に起きたのはジョニーであった――彼は今の今まで変な体制で寝ていた為か、拳で肩を叩いてから大きく伸びをする。
そして彼も起こすのを手伝ってくれたお陰か、ニナや隼人も続々と起き始めるのであった。
そして皆で一斉に馬車から降り立つ、すると道場の玄関が開きターシャが姿を見せるのであった――どうやら子供等に食事の用意をしてくれていた様で、手には木製のお玉を握りしめていた。
だが彼女は笑顔で迎えてくれたが直ぐにハッとした顔をする、それに対し俺はどうしたのかを問い詰めると苦笑いしながら話し出した。
「お帰り~、随分時間かけたんだね、今までで最長なんじゃない?
まぁそれはいいとして、実は皆が今日帰って来るとは思わなくて・・・ご飯用意してないや・・・ご、ごめんね!」
「なんだそんな事か、じゃあ外で食って来るわ――ターシャ、悪いんだけど帰ってくるまで子供等の面倒頼むわ~」
「了解、ウチに任せんしゃい!」
こうして俺達は一度家に入り、鎧や剣などを仕舞った後、汚れた服を着替えて再度外に集合する事にした。
その際に俺は財布と杖だけ持って皆のところへ行くのだが、ふと杖の重さに違和感を感じるのであった。
何だか杖が重く感じる――いや、気のせいの可能性もあり得なくはない、見た目も蛇の頭を模した持ち手である為、違うものを持って来たと言う事もない。
そもそも、この道場には杖の類はこの一本しかない為、間違えようがないはずだ。
「おいリク、どうしたよ――遅くなる前に速く行こうや、腹が減って仕方ねえ。」
「ん?――あぁそうだな、行こうか。」
不思議がっている俺に対し、ジョニーが急かす様に声を掛けて来たお陰で、やはり気のせいだと確信した。
きっと出掛けていた為、杖の重さを偶々勘違いしてしまっただけであろう――うん、そうに違いない。
そして俺達は街に向かって歩き出した、先程時間を確認したが、まだ午後6時くらいであった事から殆どの店が営業している事であろう。
そこに俺はふと出発前の隼人との約束を思い出したのであった。
「なぁハヤト、早速米を食いに行こうか?――トオルさんの店なら、色々食えるしいい案だと思うんだが、どうするよ。」
「・・・・・・」
「ハヤト?――今の話聞いてたか?」
「えッゴメン何だっけ――あ、ご飯の話だよね、僕は皆に任せる。」
隼人はこの間の戦闘以来ずっとこの調子である――心優しい彼をそうさせてしまう程の大きなショックを与えてしまったのであろう。
俺とてその気持ちは分からなくはない、だが俺の最初の経験と彼の最初ではまるで状況が違う。
故にどう声を掛けてやればいいのか悩んでしまう、だが意外にも彼の方から話を振って来たのだ。
「リク君・・・君が最初に人を殺した時は、どんな風に感じた?」
どう感じたか――そう言われて思い浮かぶのは、貧民街での薄暗い路地裏での光景である。
俺は未だに昨日の様にその時の光景を覚えている、俺が手にしていた木刀によって頭を砕かれた狩人の死体、だが殺すだけの理由が俺にはあった――あの時の感情を強いて例えるならば――
「最初にソイツと向き合った瞬間は、どす黒い怒りで一杯だったんだが――かち割った狩人の頭とへし折れた木刀を見て・・・あぁ、俺は気が触れちまったんだなって思った、その後にくるのは激しい罪悪感とリンの顔を思い浮かべた。
それとジェシ・・・いや、すげえ世話になった人に迷惑掛けちまう事が申し訳なくて・・・何で天照様は俺なんかを転生させたんだろうって考え込んじまったかな・・・」
「リクよぉ・・・前にも言ったはずだぜ、ありゃ奴の自業自得だ。
――それにハヤト、お前が殺したアイツだって禄でもねえクズって事に変わりはねえ、気にし過ぎなんだよ。
てか、コイツに最初の殺しを聞くのは普通に禁句だ、二度と聞こうなんて思うな。」
すると隼人はハッと何かを察した様な表情をし、『ジョニーが知ってると言う事は・・・』と口にし、続け様に『変な事聞いてごめん』などと謝罪の言葉を発するのであった。
要するに隼人は瞬間的に理解したんであろう、俺が貧民街に住んでいた段階で既に殺しを経験したと言う事を―――
ふと俺は今回の遠征でも初めて経験した事を、何となく吐き出して置きたい気分になる。
「そう言えばこの間、初めて女を殺しちまった・・・しかもソイツが女だって気が付いたのは、胸に剣を突き刺して顔をジックリ眺めてからだった。
・・・そん時思ったね、俺は遂に来るところまで来ちまったって――罪悪感なんて微塵も感じなかった、寧ろその後どう戦うのが効率いいかを考えた――変な話、狩人組合のクズ共が言う様に、俺は化け物かも知れねえ・・・」
俺はあの時斬り捨てた女の死に顔を思い出しながら、力なく話す事しか出来なかった。
そしてボンヤリと天上の星空を眺めながら考える、俺は兜の影響で普通の夢が見られないから、この出来事がトラウマになる事もない。
ある意味、殺し屋もしくは戦士として優秀だとも捉えられる、だがそれは人として何かが大きく欠けてしまっている事は間違いない事実である。
するとそこに温かくてモフモフとした触り心地が、手に伝わってくるのを覚える。
それが何かを調べる必要はなく、チラリと隣に視線を向けるとニナが笑顔で立っているのであった。
俺は彼女に手を握られており、ニナの反対の手は隼人が繋いでいる――すると彼女はツラツラと話し出すのであった。
「あのね、ニナは皆の事いっぱい知ってるよ!
リクくんは壊れてなんかない――寧ろそうやって考えれるのは正常な証だし、皆が怪我しない様に冷静に立ち回ってるのを何時も見てたよ。
ハヤトくんはとっても優しいね――例え悪い人でも、あれ以上は痛みで苦しまない様に止めを刺してあげたんだよね、忘れがちだけど痛みを与えない様にするのは凄く大事。
ジョーくんが狩り中に笑うのは、楽しんでるからじゃない――笑顔を見せる事で自分達が有利なんだって直ぐに分かるし、ジョーくんは体も大きくて力持ちだから、前に居るだけで勇気が出るよね。」
彼女は何時だか見せた真面目モードに切り替わり、今まで見て来たそれぞれの考えを予想して見せた。
そしてこれが意外な事に、それぞれ思うところがあったのだと顔を見て判断できた――それは当然、俺も含まれる。
ここ最近、俺は傷を負う事が増え始めた、その原因の殆どが誰かを庇って出来たものに他ならない。
一人で賞金首を追っている時は怪我をする事は少なかった、だが仲間を連れての仕事が増えてからと言うもの、特に気を付ける様にしたのは彼等を死なせないと言う事である。
彼女は今までの仕事において、一番多く行動を共にしてきたが故に、気が付いたのであろう。
「さて、ここからは姉弟子としての言葉です、心して聞きましょう――悩むのは何時でも出来るけど、遊ぶ時とご飯の時は忘れましょ~です!
これ即ち!!!――ニナはジメジメした話より、早くご飯を食べたい所存です!」
「ヘヘヘッ!――まぁニナらしいお言葉だわな。」
「うん、まったく同感だね。」
「畜生、言われてみればクソ腹減った――早く街に入っちまおうや。」
こうして俺達はニナの言葉に和みつつも、いそいそと食事をしに街に入って行く事となる。
当然、もう向かう店は決まっている――久々に日本食を食べる事にしよう、その楽しい食事時だけでも嫌な事は投げ出してしまおうではないか。
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