特殊なカビ
「立野くん、研究所の間で話題になっとる横田正太郎という人物について何か知っておるかね?」
博士が開口一番そう言った。
「横田正太郎?……ああ!解説君というロボットを高校生の時に発明した人ですよ。確かあの当時はAIなんて技術はまだなくて、解説君の頭脳は極秘情報でした」
「その横田じゃが、今度は人工的に脳を生成する研究をしとるらしい」
「?人工知能ではなくてですか」
「なんでも、特殊なカビを培養して、それが擬似脳を作り出すらしい」
「そんなんできるんですか?」
「ガセネタじゃろう。とはいえ、小魚くらいの知能を持った脳は完成したと言うし、マークしておかんとな」
無生物と生物の間の存在が生まれようとしている。立野くんは身震いした。
クローン技術とも異なるだろう。
「電気パルスを流すことで、カビの変異した脳の部位が出来上がるらしい。君はどう思うかね?」
「脅威ですね」
だって、実在している生物と全く違う生物の脳ができる可能性があり、それが生まれた暁には、人類は滅亡するかもしれない。
「横田正太郎は、解説君を作った時、より人間に近い存在を作りたかった、と言ったそうです。このカビで生成できる脳ですが、横田の倫理観が正しければ、横田の研究には害はないでしょう。しかし、他の誰かがこの研究を悪用したら、おぞましいことになりかねません」
「そのカビなんじゃがなあ、誰も入手方法と保存技術がわからないらしい」
「杞憂ですかね?」
「おそらくな」
研究室はしんと静まり返った。