第7話『今日を知りたくて』
♪♪♪♪♪…
今日もまた目覚ましの音で目を覚ます。
「はぁ…、もう朝なのか…。…ん?」
目覚ましの音楽を止めるためにゆっくりと体を起こすと視界に一番最初に飛び込んできたのは汚い部屋だった。汚いといっても普段の状態と比べればであり、人によってはそこまで汚くないのかもしれない。面倒だとも思ったがどうしても放っておけなくて重い体を起こして散らばっているノートを拾い集める。ノートには殴り書きでナンバリングが施されていたので僕はそれに倣ってノートを重ねて机の上に置いた。机の上もずいぶん散らかっており、紙切れもある始末。眠たく思考が覚束ない頭でも流石におかしいと思い始める。
「昨日、こんなに散らかしたっけ?」
枕元に置いてあったスマホを手に取り日付を確認する。今日は2018年の11月14日(水)なので昨日は火曜日で普通に仕事があったはず。帰りにノートを買った記憶が無いので、帰ってきてから部屋を整理していたのだろうかと考えていると机の下に紙きれが残っていることに気付いた。
「はぁ…、こんなゴミ残して寝たりしないんだけどな…。」
さっきからしゃがんで立ち上がってを繰り返していたので、紙切れを拾うことに思わず溜息がこぼれる。頭の中では完全にそれをゴミとして認識していたので拾い上げながら握りつぶそうとしたが、紙の裏側に何か文字が書かれていることに気づいたのでその内容を確認して何でもなければそのままごみ箱に捨てようと考え直した。でもその内容に思考が奪われる。どう考えてもただ事じゃない気がした。
「冷静になるのが難しいのはわかるがとりあえず会社に行ってる場合じゃない。もしかしたらこの記録を残す前までに何回もDay Reloadしていたのかもしれないが、それを知る術がない。持ち越せるのは日記帳とノートだけ。記憶を持ち越すことができるのが一番いい。何か思いついたら試してくれ。41と65の僕より」
仕事に行きたくない気持ちを紙切れに後押ししてもらえるとは露にも思っていなかった僕は、先ほどまで集めていたノートの一冊目から手に取り始めた。47の僕とやらはずいぶんみっちりと記録してある。内容もそうだが心境も一緒に書いてあることが自分が日記を書いていた時のことを思い出させた。確か結構前に書かなくなったが、その時にこんな内容を書き残したとは到底思えない。薄々感づいていたがこの字は僕自身の字で間違いない。こんな乱雑で自分にしか読み返せない字を他で見たことない。机の上にあった2枚の紙切れももちろん僕の字で書かれていた。
机の上の紙切れ2枚、拾い集めたノート10冊、ずいぶん前に手を付けなくなった日記帳、そして拾い上げた紙切れ1枚…。これらから察するに僕はどうやら同じ日を繰り返しているらしい。なぜよりにもよって一番めんどくさい水曜日なのか。せめて土曜日ならずっと遊んでいられるのにと残念に思う気持ちが一番最初に湧いて出てきた。いや、そもそも同じ日を繰り返しているという話を信じること自体おかしいのだが、どうしても「仕事に行ってる場合じゃない」という言葉に引っかかる。僕の字だから僕が書いたのだろうが、こんな考えを持つなんて珍しいどころかあり得もしない気がする。社畜…、になりきれているわけではないと思うが、どれだけつまらなくても会社をサボるという行動だけはどうしてもできなかった。別に僕がいなくても回る業務だからサボろうと思えばそうできてしまうのに…。
「もし…、もしこれが本当だったら…。」
25年間生きてきた自分だからこそ、自分の内面的なことは一番自分が理解しているつもりだ。そんな自分がおかしいと感じている。根拠としては足りていないし、考えが短絡的すぎるのもわかっている。だから「もし」という可能性に興味をつなげてみた。どれだけ信じ難い内容だったとしてもたった一晩でこれだけのノートを用意したり、しかもそのノートを散乱させたりとただ事ではない。逆にくだらない内容なら、その時にまた判断しようと、僕は紙切れにあった通り日記帳の47~51の内容を確認してみた。
「日記帳やノートが机の上に積み重なっていることに違和感を感じた僕は素直に手に取って読んでみた。47の僕という表記に倣うとどうやら僕は48らしい。使い方は日記帳に書ききれなかったことをノートに補完する形でいいみたい。47が検証したがっていたので、とりあえず僕の番号を47の日記に書き足しておこう。これで47以外の僕がその記録を見ることができた印になるし、とりあえず数字のみだけど2日以上の記録を残せたことになるはずだ。だが47の僕は日記とノートのことについて注目しすぎだ。誰かに相談した方が早いだろう。まぁこんなこと相談したところで誰も信じてくれはしないと思うが、それをきっかけに自分が鬱状態になっていることを客観的に知ってもらえるかも。自覚のある鬱なんて聞いたことないけど、そうしたら療養とかなんとかで会社休めれそうだな。それがいい。そうしよう。
どうしよう…。自分自身でさえもおかしいと思う状況なのに、誰かに相談しようと思ったら突然口が動かなくなってしまった。頭が真っ白になって何を話そうと思っていたのかさえも考えられなくなった。お母さんとは結局たわいのない話をしてそのまま電話を終えてしまった。本当におかしくなってしまったのだろうか…?とりあえず誰にも相談はできないみたい。そも相談できる相手がお母さん、強いてお父さんもかな?妹にはこんなこと話せないし…。それしかいないのが改めて悲しい…。 48の僕より」
「ノートの情報は残せているみたいだが自分にその記憶がないから自信を持てない。今までの僕はその日の事しか日記に残していないからそれも関係しているのかなと思い、49の僕は試しに昨日のことを残してみようと思う。昨日は普通だった。えっと、普通にいつも通り起きて準備して会社で仕事して帰ってきて…。何も特別なことはなかったと思う。ん?思い出せないというより覚えていないって感覚なのだろうか?なんか気づいたら電車に乗って、気づいたら会社にいたような感覚かもしれない。そもそも覚えようとさえしていないのかも?結局昨日のことは微塵も思い出せないけど、3カ月前までの日記は読めば何となく思い出すことができる。過去のことを記録できることは間違いないと思うけど、役に立つのかな? 49の僕より」
「仮にだ。もし同じ日を繰り返していたとして、そのループに気づくことができたならそこから抜け出すために何をすればいいのか考えるのが先だろう。本当は原因を探ることができればいいけど、50の僕だって、今朝起きて確認したらこの状況だ。知る由がない…、と思う。もしかしたらループしていると気づくきっかけになったこの日記帳自体が原因ということも考えられるのでは?これを捨てたらどうなるのだろう…。ループから抜けることができるのか、それとも次の僕からはループに気づくことさえもできなくなるのだろうか…。
確かこのループをDay Reloadと名付けているんだったっけ。記憶を持ち越せていないから、今日にとって僕の存在を再読み込みされている…?じゃあ、僕が消えれば再読み込みできなくなって明日に進めるのかも…?でもそれって…。流石にそこまでは試すことはできないなぁ。 次にこれを読むのももちろん僕だが、もしその時の僕に勇気があれば、試す価値があると思ったら、その時に検証してみてほしい。 50の僕より」
「う~ん…、日記帳捨てるのってどうやって試したことを残すことができるのだろうか。だって捨てちゃうんでしょ?捨てる前の事ここに書いてるけど、捨てた後にどうなったか書き残すことできないし、あんまり意味がなさそうに感じるなぁ…。でもDay Reloadが本当だったとして、日記帳捨てるだけでそこから抜けれるなら簡単だしなぁ…。日記帳は一冊しかないからノートで試してみようか。ノートは2冊目から数字が割り振られていたけど数字以外何も書いていないし、これなら捨ててしまっても大丈夫かな?
心の中で思っていることも全部書き残すのが凄い変な気分だけど、見返したときにどういう心境からそう変わったのか察することができそうだから、もし間違ったことがあれば同じ間違いに至りそうな時は回避できるかもしれない。
ま、やってみないことにはわからないよね。じゃ、この日記を書き終えたらすぐに一番下にあったノートを捨ててみることにするよ。 51の僕より」
つまりだ。全部仮の事として話を進めていて、実際に分かっているのは日記帳やノートに書き込んだ内容が次の僕につながっていると…。そのまんま41と65が残したメモのことのようだ。日記帳をこれ以上読もうにも紙切れが書き残しているように今の僕が考えられる何かを実践した方がいいと思う。もちろん内容が被ってしまえばせっかく記録されている意味がなくなってしまう。
だから僕は一通り簡単に日記帳を読んでみた。ノートの内容は日記帳に書ききれなかったときに追記される形のようなので情報が手書きで書かれているページとページ数だけが振られた何も書かれていないページがあった。記憶にはない僕が試してきたことの中で、まだ記録が残っていないように伺える50と51の僕が考えついたこと。とりあえずノートを破棄しても次に繋がるということは日記帳の51と今自分がいるということが証明している。
これ以上同じことを繰り返しても何も得られないかもしれない…。だから僕は、
「50を…、試してみようか…。」
50の検証、それは僕の存在を「今日」から消すということ。日記帳の雰囲気から察するに、それが意味することは…。
47の日記は6話に掲載済みですが、いったり来たりは面倒だと思いますので後書きに載せておきます。
「なんとなく状況を理解してみたくて最初のページから読み返してみたが、やっぱりおかしいのは34からだろう。33まではまぁ普通だ。特に変なところはない。42がページ数を振ってくれたおかげでどの時の僕か区別はしやすいがこの現象や日記帳の法則性がわかっていない。僕は特に日記帳についてまとめてみたい。現時点でわかっているのは
1. 同じ日を何度も繰り返しているこの現象をDay Reloadと呼ぶようにしている
2. この日記帳だけが次の僕に繋がっている。
3. 日記帳は200ページしかない
ということぐらい。僕はこの先を心配している。そもそもこの日記帳は記録するには小さすぎる。だから僕はノートを10冊買ってきた。より多くのことを記録できるようにするためだ。使用するにあたってルールを決めておきたい。とりあえずこの日記帳を基準にしたいから僕は47とどこでも記録しておく。これで少なくとも200の僕までは判断できるはずだ。まずは2が違うことを証明したいので、ノートも次の僕に残されたのか区別するために今日の日記の内容をそのままノートの初めのページに書く。次の僕はノートも使えているのかどうか確認してほしい。47の僕より」
以下、いつもの後書き
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