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警察官  狩矢 和人(カリヤ カズト)

 私はその事件で最初に発見現場に到着した警察官だった。


 交番勤務の一環のパトロール中だった私は、公園の近くを通りかかった時に凄まじい叫び声が聞こえて、慌ててその方角に向かった。


 私の目に飛び込んで来たのは、少女を抱きしめてうずくまり泣き叫ぶ少年の姿。

 力なくされるがままに抱きしめられた少女の顔は鬱血うっけつし一目で死んでいるとわかった。


「えっ?……メイちゃん……!?ロウくん!?」


 その少年と少女は近所に住んでいて彼らが幼い頃から見知っている二人だった。

 仲の良い幼馴染の二人はいつも一緒で、少しお転婆で我儘なメイちゃんを、いつもロウくんが笑顔で宥めている、私はそんな微笑ましい姿をいつも見守っていたのだ。


 高校生になった二人はロウくんからの告白で恋人同士になっていた。

 この発見現場となった公園で口づけをしている二人を目撃してしまったから知っているのだ。

 その時の私の心中は穏やかではなく、子供だと思っていた二人の成長に、月日の流れの早さを感じていた。


 そんなメイちゃんが目の前で死んでいる。

 そしてロウくんが、その身体を抱きしめて泣き叫んでいる。


「ロウくん、何があったんだ!」


 持っていた無線機で慌てて連絡をしてから、私はそっと近づいてロウくんに声をかけた。

 ロウくんは私の言葉にぴたりと動きを止め、ゆっくりと顔を上げる。


 涙に濡れながらも今にも噛み付いてきそうな獣の様な鋭い眼差しで私を睨むその姿に、いつも穏やかに微笑んでいる彼しか見た事がない私は驚きを隠せなかった。


「……どうして、どうしてメーちゃんがこんな事になっているんですか?」


 メイちゃんの死に関して、彼の目には全てが怪しく見えているのかもしれない。


「……どうしてメーちゃんが死んでいるんですか?こんなに長い時間を掛けて……ようやく想いを伝えたのに……。もう少しだったのに……。ああ、……僕は……メーちゃんを殺した犯人を赦さない!絶対に殺してやるっ!!」


「ロウくん、少し落ち着いて!今から他の警察官も駆けつけてくる。犯人は絶対に捕まえるから!君がそんな事は言っては駄目だよ!」


 激高するロウくんは私の言葉に反応して私を睨んだ後、俯き啜り泣いていた。


 そして、駆けつけた警察官がメイちゃんの遺体から嫌がり抵抗するロウくんを引き剥がす姿を私はなす術もなく見ている事しか出来なかった。



 検死の結果、メイちゃんは顔やお腹などを数発殴られた後、手で首を絞められて窒息で命を落とし、その後に暴行を受け、遺体は程なく発見された公園に捨てられ、直後にロウくんが見つけたと言う経緯がわかったそうだ。

 しがない交番勤務の警察官である私が事件の捜査に関われる筈がなく、そこまでを知るのがやっとの事だった。

 ロウくんに合わせる顔もなく、私は机に向かい、頭を抱えているのだった。


「あれ?狩矢さん、手、どうしたんですか?」


 数日ぶりに顔を合わせた後輩が私の右手の包帯に視線をやりながら聞いてくる。


「ああ、よく懐いていた野良猫を保護して飼おうとしたんだけど、室内が嫌みたいで暴れて引っかかれちゃったんだ」

「へー、狩矢さん猫好きなんですねー」

「ああ、昔から大好きだよ」


 そう、昔から大好きだったのに、私に飼われるのを嫌がり、もう絶対に手の届かないところにいってしまったモノを思い出す。

 そっちから近寄って来て、構おうとしたらするりと逃げてしまうくせに、ほっといたら拗ねながらおねだりしてくる小悪魔。

 最後は私を裏切った事を後悔しながら、か細く鳴いて私の手の中で動きを止めた。

 その温もりを失っていく姿を見下ろし、私は残酷な運命に涙した。

 本当に大好きだったんだよ。




「カズ兄さん」

 数週間後、非番の日の夜にコンビニに向かって歩いていた私は、ロウくんに声をかけられた。

 満月の光の加減なのか彼の瞳が金色に光ったような気がしたが見間違いだろう。

 ロウくんは事件があったのが嘘のように何時も通りに穏やかに微笑んで手を振っていて、その姿に私は困惑したのだった。

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