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第二章 十五話 再生教徒との間に、認識の差があることを痛感せざるをえない

 多分これは夢だ。

 真っ暗な暗闇の中に居るはずなのに、視界の四隅にぼんやりと靄がかかっているから。


 ――饗庭。

 誰かが僕を呼ぶ声がする。

 この声は間違いない。

 僕の友人の北条君のものだ。


 でも、どうして。

 今の僕には、どうして夢の中で彼の声がするのか、それがわからなかった。


 だって僕は異世界に居て。

 きっと彼は元の世界に居るはずだから。

 北条和也はこっちには本来存在しないはずなのに、どうして聞こえるのだろう。


 ――饗庭。

 もう一度声がした。

 どうせ夢なのだ。

 普段は出来ないことをやってしまおう。

 そう思った。

 声がした方に向かってそっと両手を差し出す。

 僕を助けて。僕を救って、と乞い求めるように。

 彼に甘えるように、とも言う。


 さて、夢の中の彼はどのような顔をしているだろうか。

 きっと困っているだろうな、と思いながら、意識を目に集中。


 そして結果は予想通り。

 学校で時々見かけた眉尻を下げながら、困ったように笑う、彼の顔がそこにあった。


 僕の伸ばした手は、彼の両頬にあった。

 手のひらからじわりと彼の体温を感じた。


 ……うん? どうして夢の中なのに、温感が生きているのだろう。

 しかも夢の中にしては妙に感触がリアルだ。

 ついでに言えば、視界の四隅にかかった靄はいつの間にかになくなっていた。


 と言うか、なんで今僕は夢見心地なのだ。

 意識が途切れる前のことを思い出す。

 確かレイチェルが仕留めた大きなゴブリンが最後っ屁をかまして――


 あれ?

 これって……も、もしかしなくても……!

 

「あ、饗庭?」


「え? あ。ああっ!」


 これは夢なんかじゃない!

 現実だ!

 第一、僕と北条君は再会していたじゃないか!

 ついさっき!


 僕は何をやらかしているのだろう!

 友達にこんなことするなんて!


 恥ずかしさで顔が熱かった。

 困り切った北条君の一言を受けて、慌てて両手を引っ込める。


「ごごご、ご、ごめん」


 あまりの恥ずかしさに、彼を直視できない。

 僕は視線をあさっての方に向けた。


「お。おう。取り敢えず……うん、元気そうだな。怪我なさそうでよかった」


 対する北条君も、どこか受け答えがぎこちない。

 それでも、僕の恥ずべき行動を受け流して、無事を喜んでくれるあたり、やはり彼はいい奴だ。


 無事……そうだ。

 僕らは、あのゴブリンの命を賭した奇襲により、奈落に落とされてしまった。


 目を、真上に向ける。

 目を凝らして見ると、今僕らが居る空間はドーム状になっているらしい。

 その真ん中、丁度天井の頂点となっているはずの場所から、篝火由来思われるオレンジ色の光が、手のひら大となって、張り付いていた。

 あれが、僕らが落とされた穴だろう。

 随分と高いところから落とされたようだ。


「どうして僕たち、無事なんだろう」


 心に浮かんだことを素直に口に出す。

 正確な高さは知ることは出来ない。

 でも間違いなく、あそこから落とされたらお陀仏となるはずだ。

 そうなのに、命に関わるどころか、怪我一つしていない。

 不思議としか言いようがなかった。


「多分、こいつのお陰じゃないか」


 北条君が真下を指差す。

 視線を彼の指先を追ってみれば、そこには白い網があった。

 いや、網と言えば語弊があるか。

 むしろこれは――


「蜘蛛の巣?」


 幾何学的に編み込まれたそれは、確かに蜘蛛の巣であった。

 ただし広さが尋常ではない。

 ちょっとした講堂なら、きっとその床を埋め尽くせることだろう。

 それくらいの面積はありそうだ。


 巨大なのは、面積だけではない。巣を構成する糸も、また巨大だった。

 糸と呼ぶにはあまりに太すぎ、もはや紐と称した方が適当なほど。

 太いだけあって強度も十分らしい。

 恐る恐る立ち上がってみると、しなりはしたものの、糸が切れる様子は全くもってみられなかった。

 しなやかさと強さを併せ持っているようだ。

 特大のトランポリンの上に立っているような、そんな気分だった。

 北条君の言うとおり、こいつが僕らの命を救ってくれたとみて、間違いなさそうだ。

 さらに糸自体が青白く発光し、光源の役割を果たしてくれているのだから、まさに至れり尽くせりと言えよう。


 それにしても蜘蛛の巣に命を救われるなんて、とても妙な気分だ。

 どうにも北条君も同じらしい。

 口をへの字に曲げて、素直に喜ぶべきかどうか、その判断を下せぬように見えた。 


「わっ」


 突然、足下の巣がゆさりと揺れた。

 はじめ、やはりいくら大きくても人間の体重を支えるのは無理で、限界がきてしまったかと思った。

 だが、気を失う直前に感じた浮遊感はいつまでたってもやって来ない。

 誰かが巣の上で動いて、そのために揺れているようだった。

 

 一体誰が。

 バランスを崩さないように中腰になりながら、辺りを見渡す。

 動いた人物はすぐに見つかった。

 誰だかはわからない。

 何故なら、その人は大きな問題点を一つ抱えていて、そいつが人物の特定を妨げていたのだ。


「い……犬神家?」


「なんだっけこれ。スケキヨ?」


 同じモノを見つけたらしい、北条君と声が被る。

 言った言葉は別だけれども、意味においては僕らは同じ事を言っていた。


 そう、その人が抱える問題とは、体勢にあった。

 落ちた体勢が悪かったのだろう。

 上半身が巣の面をぶち破り、腰骨のあたりで引っかかって止まっていたのだ。

 だから、見えるのは逆さになった下半身のみ。

 その光景はどう見たって、市川崑の犬神家の一族の著名なシーンであった。


「む。そ、その声はツカサか! 頼む! ここから私を引き抜いてくれ! 私じゃどうしようも出来ぬのだ! 抜け出せんのだ!」


 僕の呟きを聞いたのか。

 足をじたばたさせながら、スケキヨ……もといレイチェルは懇願した。

 光る糸の平面のなか、にょっきり突き出た両足がばたばた動くのはちょっと不気味だ。


 しかし突き刺さったのはよりによってレイチェルか。

 可哀想に、この体勢は恥ずかしい。

 少なくとも女の子にとっては。

 スカートを履いていたら大惨事だ。

 幸いなことに、レイチェルはズボン姿で、最大の羞恥を受けずに済んだけれど。


 兎にも角にも、まずはレイチェルを救出しなければ。

 北条君と二人で彼女まで近寄り、突き出た足を持って、上半身を引きずり出した。


「おお……助かった。ありがとう」


 蜘蛛の巣を突き破ったからか。

 彼女の顔には、切れた糸が何本かぺたりと引っ付いて、ゆらゆらと揺れていた。

 太さが太さだけに、目の前でぷらぷらされるのはとても目障りなことだろう。

 忌々しげに彼女はそれらを振り払った。


「皆さん。ご無事ですか?」


 背中から落ち着き払った声。

 持ち主はリグだ。


「リグ。良かった、リグも怪我がないようで」


「ええ。カズヤさんも」


 無事を知ってほっと、安堵した様子を見せた北条君。

 彼女にかけた台詞も先に僕に言ったものと似たようなもので、ちょっと複雑な思いを抱いた。

 リグが外で言っていた流れてきた義勇の人というのは、北条君のこと。

 この三ヶ月でリグと仲良くなっても、なんらおかしいことではない。

 でも……なんだか気に入らなかった。


「……サイモンさんと、ジェームズさんは?」


「二人なら、あそこに」


 リグは白磁のような指で、すっと背後を指した。

 見れば、そこに北条君と一緒に殿をしていた、二人の騎士がいた。

 北条君が口にした、聞き慣れない二つの名前は、その騎士たちの名前だろう。

 そのどちらかは判らないけど、足折った方が、僕らの視線に気付いて、ぶんぶんと大きく手を振った。

 その様子を見るに、手を振った方も、また先の戦闘で重い傷を負った方も、この落下で新たな傷を負うことはなかったようだ。

 それを見て、三人分の安堵の息が、ほうと漏れた。


「全員無事みたい。良かった」


 僕が素直に感想を述べる。


「まったくだ。しかし……これはなんなのだ?」


 レイチェルは僕の感想に、心からの同意を示すも、同時に疑問を呈す。

 僕らの足下に広がる蜘蛛の巣をつまみ上げた。弾力豊かにびょんと伸びる。

 言うまでもなく彼女の疑問の対象はそれだ。


「こんな馬鹿でかくて、しかも光る巣を張る蜘蛛なんて、私は聞いたことないぞ」


 あ、そうなんだ。

 てっきり異世界だから、こんなのを作る種類がいると思ったけど、どうにもこの巣はこっちの世界でも異常なものらしい。


 この巣のこと知ってるか、と言わんばかりにレイチェルが僕を見る。

 当然知るわけもなく、首を横に振る。

 次いで、北条君、リグと目をを動かすも、反応はいずれも僕と同じ。


 それらの反応は薄々レイチェルも予想していたものらしい。

 だよなー、と小さく呟き、彼女は摘まんだ巣から手を離した。


「教えてあげようか?」


 声がした。

 聞いたことのない、いや、この空間の直上で初めて聞いた女の人の声。

 連想するのは、紫の瞳に、菱形の瞳孔。


 全員の視線が一斉に、声の方向へ飛んで行く。

 その先に、やはり上で見た、魔族の女性が壁際にて頭を掻きながら、ぽつんと突っ立っていた。


 僕と北条君を除いた皆の目に、ぱっと敵意の色が灯った。

 この宿敵め。

 目は暗にそう呟いていた。


 だが、上の時と同じく、敵意の視線を向けられる当の本人は、全くもって気にしていないらしい。


「まあ、警戒するのは無理もない話。でも、状況が状況だ。話をしようじゃないか」

 

 それどころか、マイペースにへらへら笑いながら、のんびりとした足取りで僕らに近付こうとする始末。

 彼女の一歩の度に、足下の網はゆらゆらと揺れる。


「動くな! 近付くな!」


 敵意溢れた相手に、近付こうというのは、一種の挑発と見られても仕方がないことだろう。

 鞘走りの音が、ドーム状の空間に反響した。

 レイチェルが、やはりそれを挑発と受け取って抜剣したのだ。


 切っ先を、接近する魔族の彼女に向ける。

 決して安定しているとは言えない足場の中、ぴたりと安定した姿勢で構えられるのは流石は聖堂騎士といったところ。


 間合いからはずっと離れているけれど、それでも剣を向けられた威圧感からか。

 ぴたりと魔族は足を止めた。

 そして彼女は。


「おいおい。剣を向けるのかい? 命の恩人に対して。それはあんまりじゃないか」


 やれやれ、とおどけたように肩をすくめながら、皮肉げな視線をレイチェルに浴びせた。


「命の恩人だって? 何を迷い言を!」


「その蜘蛛の巣。私が作らせたんだ。魔法でね」


 魔族はつま先で軽く足下を小突く。

 こいつこいつ。この蜘蛛の巣がそれね、と言わんばかりに。


「そいつがなければ、君たちはどうなっていたか、解らなくないだろう?」


 この蜘蛛の巣がなければ、間違いなく、全身を強く打って即死していたに違いない。

 確かに彼女は僕らの命の恩人と言って差し支えないようだ。

 ただし。


「貴様を信じろと? 笑わせるな! 魔族の言うこと、それをどうして信じられようか!」


 魔族の彼女の言うことを信じることが出来るのならば、ではあるが。

 信じることが出来なかったレイチェルが吠えた。


「おや、信じられないというのかい」


「だまし討ちは貴様らの得意とするところ。信じるということは、貴様の術中にはまったことを意味する。卑劣な策に乗るほど、私たちは愚かでないわ!」


 レイチェルの態度はあまりに強硬のように見える。

 この姿をカペルの教会で見せれば、きっとすぐさまアイザックさんに窘められることだろう。


 ただし、その態度の矛先が魔族でなければ、の話だが。

 それを補完するように、レイチェルの咆哮にまったくだと言わんばかりに、頷くリグの姿があった。


 何故こんな態度が許され、それどころか歓迎される風まであるのか。

 話は簡単。

 再生教は魔族の存在を許していないからだ。


 彼女ら、いや再生教徒がここまで苛烈に魔族を嫌い、延々と戦争を繰り広げて来たのには、もちろんのこと理由がある。

 端的に言ってしまえば、魔族の間で起こっていた戦争は宗教戦争であった。


 再生教徒からすれば、魔族は最悪の異教徒だ。

 再生教に対し、魔族が信仰するそれは(人類側の資料では)邪教としか記されておらず、詳細は解らない。


 だが、どうにも生け贄を必要とする儀礼があるのらしく、しかもそれは、人類の小さな子供の血を用いるものであったらしい。

 その儀礼のある季節毎に、魔族の領域に拉致されていく幼い子供達。

 飢饉で災害で戦災で、人類がその数を減らし疲弊しようと、そんなことなど、お構いなしに子供をかっ攫っていく魔族たち。

 そんな彼らを見て、人類はこう悟ったのだ。


 ああ、奴らは我らの絶滅を願っていると。


 ならば、決して魔族を許してはならぬ。

 そして自衛しなければならぬ。

 それが例え、戦という手段でも。

 かくして永きに渡る戦争が、人類と魔族の間に繰り広げられることなった――


 こんなことを幼少期から教え込まれているのだ。

 それに加えて、戦争をして殺し合いをして来たのであれば、レイチェルたちの態度が、こんな風に強硬になるのも無理もない。


「そもそもあのゴブリン共にしたって、きっと貴様がけしかけたものだろうに!」


 どうにもレイチェルの頭の中では、この一連の騒動、全ての元凶は魔族の彼女となっているようだ。 


「レイチェル?」


 でもそれはちょっと待って欲しい。

 それはいくらなんでも無理のある考えだ。

 躊躇いがちにレイチェルの名を呼ぶ。


「……多分、彼女。嘘は言ってないと思う」


「ツカサ……?」


 ちらと目だけで彼女は僕を見る。

 向けられたのは、何を言っている? と疑問に満ちたものだった。


「この状況でのだまし討ちって、とても回りくどくないかな? 僕たちまで救うような真似をしなければ、すぐにカタがついた話だし、そもそも全員の無事を確認するまでの僕らは隙だらけだった。その時点で動いていないのはおかしいよ」


 もっと言えば、ここに落とされる直前にしたってそうだ。

 僕らが彼女の存在に気がついたのは、彼女の独り言を耳にしてからのことだ。

 それは即ち、彼女は完全に僕らの隙を突いて侵入していたことを意味している。

 言うまでもなくそれは一網打尽のチャンス。

 これを自ら逃して、その癖、僕らを殺すために、回りくどい上に面倒くさいだまし討ちを選ぶのはあまりに不自然だ。


 ぐっとレイチェルから息を呑む気配がした。

 言われて初めて、いや、多分意識の片隅には、自分の言っていることに無茶があることを自覚していたらしい。

 だからこそ彼女は息を呑んだのだろう。

 何故、レイチェルが少し考えれば、無理があると解ることを吐いてしまったのか。

 きっとあの女魔族の取った行動が、レイチェルの魔族観とは真っ向から異なるものだったからだろう。


 人類の宿敵である魔族が人類を救うはずがない。

 顔を合わせれば、次の瞬間には殺しにかかってくる。

 魔族はそうあるべきなのに、目の前の魔族は、人類の命を救ったばかりか、いつまで経っても殺しに来ようとしない。

 何故?


 そこでレイチェルの思考にバグが生じたのだろう。

 そして自らの魔族観に照らし合わせて、比較的現実との齟齬の少ない解釈を取ったのだ。

 即ちだまし討ちの為に、僕らを救ったのだと。

 それが自分でもおかしいと気付きながら。


「確かに。けしかけたはずのゴブリンに、俺たち諸共ここに落とされるのも、なんだかマヌケな話だしな」


 さらに北条君も僕の考えに賛同する。

 ある程度制御下になければ、ゴブリンを敵対する者にけしかけるなんて出来やしない。

 僕らと一緒に罠にたたき落とすところみると、先のあいつらの飼い主は彼女ではないと見るべきだろう。


「まあ、そういうこと。私には敵意も害意もないよ。だから、物騒なそいつを降ろして頂きたいな」


 魔族はひらひらと両手を振り、空手であることを強調した。

 次いで、レイチェルが両手で握る剣に向かって顎でしゃくり、さっさと降ろしてくれと要求する。


 要求を受けたレイチェルは迷った。

 自身の魔族観を信じるか、見たままの現実を受け入れるか。

 それを深く迷っているようだった。

 現に彼女は、何度も切っ先と魔族を見比べている。


 三回、四回、五回――その見比べが、やがて数えるのが億劫になってきた頃合いであった。

 にわかにレイチェルがぎゅっと目をつぶった。

 やがて小さなうなり声を上げながら、仕方がなく、といった様子で剣を降ろす。

 どうやらあの魔族に敵意はない、という現実を受け入れたようだ。


「うん。そうそう。少なくとも話を聞いてくれる人っぽくて、助かる、助かる」


 重畳重畳と口元で言葉をぼそぼそ転がして、魔族の彼女は再び歩を刻む。

 その歩調はゆらゆらと覚束ないもので、さながら夢遊病のそれである。

 見ていてなんだか危なっかしい。

 目を離したら、こてんと転んでしまいそうだ。

 歩けるようになった子供を見ているような、そんなはらはらとした気分。


 もちろん彼女はそんな僕の感想なぞ知る由もない。

 マイペースにそのままゆらゆらと歩を進め、そして手を伸ばせば届く距離にまでやってきた。


「で、話というのは?」


 つっけんどんな態度を容赦なく魔族に浴びせたのはリグだ。

 僕はびっくりしながらリグを見た。

 僕らに見せていた穏やかな態度と今のそれがあまりにも乖離していたからだ。


 そして、背中がにわかに粟立つ。

 そこには僕らに見せる、柔らかい雰囲気を纏って落ち着いている、神官の鑑と言える彼女の姿はなかった。


 冷たい目。

 とにかく冷たく、突き放した目をしていたリグがそこに居た。


 しかもただ冷たいだけではない。

 その目の奥底には、燃えたぎる感情が見え隠れしていたのだ。


 彼女が魔族という種に激しい憎しみを抱いていることを、外からでも容易にうかがい知れた。

 人は他人にここまでの憎悪を抱くことが出来るものなのか。

 僕はそう思わずにはいられなかった。


 が、そんな視線と態度を向けられていても、当の本人はまったく意に介した様子はない。

 憎悪を向けられて臆するどころか、のんびり頭をぼりぼり掻く真似すら見せている。

 どうにも彼女はマイペースな性分なようだ。


「ああ。結論を先に言えばね。ここから出るまでの間、手を組まないかってこと」


 僕と北条君以外から、遠慮なく敵意と憎悪をびしびし向けられているのにだ。

 暫く行動を共にしようと言ってのけるのは、余程胆力があるか、極端に空気が読めないかのいずれかだ。


 ……どうにも彼女は後者のような気がしてならないけど。

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