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第一章 二十話 下策だろうけど、無策よりはずっとマシであるのは違いない

 分厚い外壁。


 そこに穿った抜け穴とは言え、トンネルとして見れば決して長いものではない。

 だからそこを走り抜ければ、あっという間に向こう側の出口に出れるはずであり、特に何も感慨なく、あっさりとエクレを脱出はずなのだ。


 そのはずだというのに。

 今、僕は強い焦りを覚えている。

 はやく、はやく、はやく! と向こう側へ着くことを急かして止まない。


 理由は簡単だ。

 耳を澄まさなくても聞こえてくるだろう。

 本来僕とレイチェルが地を蹴るその音のみが、反響するはずなのに。

 明らかに二人分よりもずっとずっと多い殺気だった足音が、抜け穴一杯に満ちているのを!


 僕ら以外の足音の主らを語るのに、もはや多くの言葉は必要あるまい。

 僕らを害せんと息巻く、豚の頭を持つヒト型の化け物オークだ。


「もう来たっ」


「一体仕留めて、もうちょっと脅かしておくべきであったかな!」


 先に気迫のみでオークに二の足を踏ませた張本人が、心の底から後悔していることを窺わせる声色で言う。

 その声を聞く限りでは、恐ろしいことに、どうやら僕が渡したナイフでも本当に何も問題なくオークと戦えることが出来るらしい。


「でも、これで良かったと想う。一体仕留めて向こうが怯えてくれる確証もないし」


 むしろ、レイチェルの得物が弱体化したことを勇気を絞り出す根拠となし、五月雨式に次々とオークが襲いかかってきたのかもしれない。

 それでもレイチェル一人だけなら問題なかったのかも知れないけど、その場には僕という足かせが居たのだ。

 僕をかばいながら戦っているうちに不覚を取る、なんてことも十分にあり得る。

 だから、脅かすだけ脅かして、背を向けて逃げる、というあの選択は間違えてなかったと僕は思う。


「そう言ってくれると救われる。さあて、待ちに待った出口だ」


 そして、出口が遠くて遠くて仕方がなく感じていたのは、僕だけではなかったらしい。

 レイチェルが口にした言葉から、そして口調からそのことがうかがい知れた。

 

 口を開けて光を取り込み続ける出口が徐々に徐々にと近付く。

 それまで微弱であった空気の流れも、今では確かに出口へと流れ出ていることを肌で知覚できる。

 下界にて生え広がる青草の瑞々しい臭いが強くなる。


 あと三歩。

 二歩。

 一歩!


 そして視界から一切の闇の気配が消え去った。

 僕らの四方を囲み、圧迫感を与え続けた石の壁も姿を消し、代わりに視覚情報として捉えたのは、緑の地平線と、鈍色の曇り空。

 少なくとも、そこだけ切り出せば、終末の世界とは到底思えないほどに長閑な光景だ。

 僕らはエクレの外へと無事に抜け出すことが出来たのだ。

 もっとも、無事なのは今のところは、だけど。


「……なんだ、これは」


 でも、異常が見られないと感じていたのは僕だけであった。

 レイチェルが警戒に満ちた声色でぽつり呟く。

 彼女が何に警戒しているのか、僕にはそれの心当たりがあった。


 彼女がそれは、僕が開けた抜け穴を出てすぐにあった。

 外壁の中腹までの高さを持った、抜け穴の門柱よろしくにそびえ立つ土の塔。

 その様は恐ろしく大きな蟻塚、といった風で、そもそも塔と呼ぶのでさえおこがましくなるような酷い出来である。

 隙なく、そして立派に築かれたエクレの外壁とのコントラストと相まって、一層粗末な印象を強く受けた。


 土塊はこのエクレに初めから備わっていたものではない。

 ほんのついさっきこの世に生まれ出たものだ。

 その事実を僕が知っているということはつまり。


「僕が作ったんだ」


 言葉を置き去りにして、僕は向かって左の方の不出来な土の塊、その根元に向かい、そしてしゃがみ込んだ。

 レイチェルの疑問の視線が、僕に突き刺さる。


 何故これを作ったのか。

 その目的は何か。

 何故急いで逃げなければならないこの状況で、そこにしゃがみ込んだのか。


 僕にそう語りかける彼女の視線を、丁重に無視することにして、僕は土塊に手を当てて、そして意識をそれに集中させる。

 外壁に抜け穴を穿ったその時のように、僕の魔力を不細工な土のオブジェに浸透させるイメージ。

 自らが拵えたものだからだろうか、とても苦労した外壁とは打って変わり、魔力は非常にスムースに対象の隅々にまで行き渡った。


 手を当てて、常に魔力を土に流しながら僕は視線を、ぽっかりと口を開ける抜け穴へと移す。

 地鳴りと称して相応しい足音が、その口からあふれ出て僕の鼓膜を振るわせた。


 それだけでも十分に肌を粟立たせるのに十分なのに、あまつさえどんどんとその音が近付いてくるのだ。

 今すぐにも逃げだそうと動きそうになる僕の両足の欲求を殺して、殺して、殺して、なんとかその場に留まり続けた。

 まだ動くべきではないと自分に言い聞かせた。


 何度そうして自分自身に我慢を強いただろうか。

 やがて我慢の止め時が訪れた。


 その時とは即ち。

 ぬるりと暗い闇色を湛える抜け穴の出口から、オークの先兵一人が現れる出るその時。


 それと時を同じくして僕は必死に想起した。

 高い高い土塊が、その根元がぼろりと崩れるその姿を。

 そんな思念が魔力を媒介として瞬時に、粗末な土の塔に染み渡り。


 そして僕のイメージが具現した。 


 土塔が崩れ始める。

 けたたましいラップ音が辺りに響き渡り。

 数瞬後にやってきた、がらがらと土塊が崩落する暴力的な音が、鼓膜だけとは言わず、身体ごと振るわせた。


 崩壊する音に僅かに混ざる悲鳴と水音もする。

 それは僕の企みが上手くいったことを意味していた。


「壁に魔力を通すことで穴を塞げぬのであれば、外側に塞げるだけの重さを持った物を用いて塞ごう、というわけか」


「うん、崩すついでにオークのいくらかは巻き込めたらって思ってね。作るのにそれなりの時間はかかったけど」


「しかし、こうして目論見通り穴を塞ぐことも、オークを先頭を走っていた巻き込むことを成功した。めでたし、めでたし……とは」


「うん」


 からりと音がした。

 粉々に砕け、最早小さな築山と成り果てた、僕が作った元、土の塔からその音は聞こえた。

 音の正体は、小石ほどの大きさに固まった一片の土の塊だ。

 それが、山肌からぽろりとこぼれて、地面に落ちた音であった。


 塊が落ちたのは、不安定な状態でどこかに引っかかっていた小片が、とうとうバランスを失ったことが原因であろうか。

 そうであるなら嬉しい。


 だけど、現実は厳しかった。

 どしんと、腹に響く振動と、大きな音が山と積もった、土砂の内から聞こえてきた。

 力自慢の大男が扉か壁を体当たりしているのか、と思わずに入られないような、そんな力強い振動であった。


 それが意味することは一つしかない。

 内に閉じ込めたはずのオークたちが、土の崩落から免れたオークが、力任せにこの急ごしらえの壁を突破しようとしている――


 つまりはそういうことであった。


「……この程度で撒けるのであれば、この程度の私たちへの害意を引っ込めるのであれば。奴らが我らの天敵と称されるわけがないよなあ」


 なおも短い間隔で鳴り響く、力任せの物音を前にして、レイチェルは呆れを多分に滲ませた声で呟いた。


 僕も元よりこれで奴らが追跡を諦めてくれたり、まして全滅してくれたなんて思ってもいなかった。


 だってレイチェルがその武でもって、何度も奴らを恐怖を与え、何度パニックに陥れてのにだ。

 それらが落ち着いてしまえば、同じく何度も何度も僕らへの害意をむき出しにしてきた連中なのだ。

 なんだかんだでこの状況を切り抜けてしまい、僕らを害さんと襲いかかってくるに違いない。


 でも少なくとも、これで時間が稼げたのは事実だ。

 そしてこの時間を無駄にせず、駆け出せば奴らとの距離も稼げる。


「行こう、今のうちに」


「ああ、そうしよう」


 互いの返答を聞くや否や、僕らはまた駆け出す。

 まだ、背中からは音が聞こえる。

 それはまだ、奴らは土砂に埋まっていることの証拠だ。

 僕は音が長く続きますように、と心から祈りながら、緑の地平線に向かって駆けた。


「落ち着いているな」


「え」


「策、上手くいかなかったではないか。それにしては落ち着いているな、と」


 どれくらい走った頃だろうか。

 唐突にぽつりレイチェルにそう問われる。


 確かに今の僕は自分でも驚くほどに冷静だ。

 もちろん、身の危機が間近に迫っていることに由来する恐怖はある。

 気を抜いてしまえば、また歯ががちがちと鳴ってしまいそうな恐怖は、まだ僕の内にあるのだ。


 それでも、まだなんとか表面上も、そして内心も平静に保つことが出来ている。

 ひとえにそれは、さっきの手立てが最後の手立てではない、と知っているからに過ぎない。


「まだ、生き残るための仕掛け、残ってるから」


「なるほど。良ければその委細、私にも教えてくれないか?」


 次に僕がどうするつもりなのか。

 確かに彼女にそれを伝えた方が、何かと僕が動きやすくなることだろう。

 オークは今足止めの状況にあるし、話す余裕は十分にある。


 しかしそのちょっとした思案の時間が余計だったのだろう。

 よし、話そうと心に決めたその時、僕らの背の方向にて、耳に障るけたたましい嘶きが襲いかかってきた。


 それが意味することは一つ。

 奴らが土砂から脱出したということだ。


「……と、とにかく。今はまっすぐに進もう」


 恐ろしい咆哮に僕の肌は粟立つ。もう、今日何度目かわからない。

 それでも僕は地を蹴る足の動きを止めない。

 必死に走り続ける。

 何故ならこの先にしか生き残る道はないのだから。


「たしか……この先は底なしの沼、であったか。おい、ツカサ、大丈夫か? この状況で沼にぶち当たるのは……その」


 この地においては、僕と同じく部外者であるレイチェルが、地図を見た記憶思い起こしてか、ひどく言いづらそうに僕に問いかける。

 彼女が思い切って口に出せないでいることは、おおよそ見当がつく。


 追われている状況で沼地にぶち当たりに行くなんて、自ら行き止まりに吶喊しているようなものではないか、ざっとこんなものだろう。


 確かにその通りだ。


 コンマ何秒でもいいから速さが欲しいのに、走るのはおろか、歩くことさえ困難になるであろう地形に飛び込むなんて、正気の沙汰ではあるまい。

 足を取られている内にオークに追いつかれてしまうか、あるいは、オーク共々沼に足を取られて、泥の底に仲良く沈む可能性すらある。


 いずれにせよ、間抜け極まりない末期と言えよう。


 でも、そんな環境だからこそ。


「……だからいいんだ」


 ぼそりと呟いたその言葉は、疾走しているが故に生まれた風にかき消されてしまったのだろう。

 レイチェルは聞き取れなかったらしく、ただただ訝しげな表情を作っただけであった。

 それでも聞き返しもせず、僕に付き従ってくれているのは、この状況を切り抜けるには、僕の企みに乗るしかないと腹に決めているからだろう。


 失敗は許されない。

 恐怖に震える心を叱咤。

 気を抜くと泣き言を上げてしまいそうな弱い気を引き締めて、なお走る。


 青草生い茂る地面を駆け抜けた。

 草の姿が消え、少しずつ湿り気を帯び始めた地面も気にせず駆け抜けた。

 にわかに現れたかたく平たい岩盤が広がる大地も、無心に駆け抜けた。

 沼地の気配は何処にも見出すことはできない。


「おかしい」


 岩盤を走り始めたあたりから、より訝しみを強めていったレイチェルであったが、とうとう我慢出来なくなったか。

 何かが不審だ、何かがおかしいとぽつり独りごちた。


「いくら私は部外者といえど、地図で沼と街の距離はおおよそではあるが知ったはずだ。それなのに」


「いくら走れど沼が見えないのはおかしい。妙に平らでかたい大地が、こんなに広がってるのはおかしい。地図になかったのに?」


 彼女の疑問を、僕がそれを推測して口に出す。

 ちらとレイチェルをうかがい見る。

 僕の視線に対して、彼女はこくりと頷いた。その通りだと。


 その頷きと、足から伝わる地面の感触がまた変わったのはほぼ同時だった。

 かたい岩盤から、再びいくらか湿り気を帯びた少し柔い地面へ変化。

 それを認めて、僕は土の塔を崩してから、ずっと忙しなく動かしてきた両足の動きをぴたりと止めた。


 荒い息を整える。


「ねえレイチェル。頼みがあるんだ」


「頼み。それはいいが……おい、何をしようとしている?」


 突然足を止めた僕に、レイチェルはやや狼狽した様子で答えた。


「僕ね、これからそれなりに大きな魔法を使うの。時間、とてもかかると思うんだ。その間、僕は無防備になる。だからもし、間に合わなかったらごめん。少しの間、僕をかばって欲しいんだ」


 僕の魔法は、使用者の不器用さが反映されてか、少しばかり使い勝手が悪いらしい。

 一つの魔法を使おうと集中すれば、その最中、別の魔法を練り上げることが出来なくなるのだ。

 石の弾丸を作り上げている最中、もう一つ弾丸を拵えようといくら思っても生み出すことが出来ない。

 少なくとも最初に作ろうと思った弾丸が出来上がるその時までは。


 言うなれば僕の魔法は単発式なのだ。

 故に一つ一つの魔法の間には隙があり、それは大きな魔法を試みる程に比例して大きくなる。

 今回挑むことは、外壁に穴を開けた以上に大きな隙を見せることになろう。

 だからこその、とても厚かましい依頼であった。


「……その大きな魔法とやらこそが、君の切り札、と見て良いのだな?」


 地面に手を押し当た後に、僕は何も言わず首肯する。

 傍らに立っていたレイチェルの動く気配がした。

 ちらと目だけで様子をうかがえば、彼女はきりりと凜々しい表情で僕らが逃げてきた方を睨んでいた。


 半身に構え腰を落とす。

 明らかな臨戦態勢だ。

 彼女も言葉にこそ出さないが、僕をかばってくれることを快く了承したのだ。


 まだ、視界に映るオーク達の姿は小指のさきほどに小さい。

 時間は全くないわけではないが、余裕があるわけではない。

 間合いにすら入っていないのに、もう構えを取ったレイチェルを見てもそれは明らかだろう。

 と、なればまごまごしている暇なんてない。


 地に当てた手に全ての意識を捧げて、想起。

 湿った地面に僕の魔力が浸透し始める。


 けれど、これではない。ここではない。

 魔法を実現するために、隅から隅まで魔力を通すのはこの地面ではないのだ。


 魔力の根を、僕らが逃げ走ってきた方向へと伸ばす。

 僕の脳神経に魔力が直接与える、表現に困る謎の感触の様相に変化が生まれた。

 魔力が湿った地面から、かたく平たい岩石まで突き進んだのだ。


 そうだ、ここだ。

 ここからが本番だ。

 集中をより一層、深めて、がむしゃらに魔力を岩に浸透させる。


 右へ左へ斜めへ前へ。

 とにかく魔力をいち早く染みこませようと努力した。

 浸透速度は外壁の時に比べるとずっと速い。


 当然だ。

 何故なら、この大きく広がる岩盤の原は、土塔のように僕が生み出したものだから。


 けれども速度は速くとも、染みこませる面積はまさしく広大だ。

 まだ、染みこんだ範囲は全体の一割にも至ってはいないだろう。

 だからもっともっと集中しなくては!


 ひたすらに念ずる。

 染みこめ、染みこめ、染みこめと。

 それまで殆ど聞こえなかったオークの足音、それが僅かにではあるが、僕の鼓膜を振るわすようになってきた。

 奴らが着実に近付いていることの証拠。

 対する僕も、確実に岩盤に魔力を浸透させていた。


 ようやく半分といったところ。

 けれども、まだ遅い!

 もっと速く魔力を行き渡らせなくては!


 強い思念と深い集中の代償だろう。

 頭の奥の奥が、がんがんと鋭く痛み始める。

 視界が歪む。

 物と物の輪郭が、境界が滲んで、全ての物がぼんやりと見える。


 頭が痛い。


「っ、ふぅ」


 思わず息を漏らす。

 泣きわめいて転げ回りたくなる頭の痛みに耐えて、なお僕は集中した。


 現在進捗は七割。


 耳に聞こえる奴らの足音は、もうかなり大きい。

 更に急がなくてはなるまい。


 頭が痛い。


「ツカサ! 魔法はまだか! もう大分接近を許したぞ! あと少しもすれば、私の間合いに――」


 頭が痛い。


 レイチェルが焦りを隠せない声色で叫ぶ。

 敵は近しと。

 でもこっちだってあと少し。

 僕の魔力は岩盤の八割にまで満ちた。

 でもオーク共が近いなら、もっと頑張らないと。


 頭が痛い。


「うっ、ぷ。ふぅ、ふ」


 頭が痛い。


 吐き気もする。


 目はもうロクに働いていない。

 物の輪郭も掴めないし、色彩だってうまく捉えられない。


 頭が痛い。


 視覚だけではない。

 聴覚だってやられ始めた。

 オークの足音は聞こえない。

 レイチェルが何か叫んでいるのは解るけど、聞き取れない。

 ぐわんぐわんといろんな物が混ざった、妙な音しか聞こえない。

 水の中に潜っているようだ。


 強引に魔力を通した代償を味わいながらも、休まず魔力を通した甲斐あった。

 今や九割まで浸透し、完了するまであと一押し。


 痛い。


「――――!!」


 痛い。


 レイチェルの声らしき音が聞こえる。

 緊張感ここに極まれり、といった風な音だ。

 でも耳が馬鹿になったからしっかりとは聞こえない。


 頭が痛くていたくて、仕方がない。

 いますぐにコレをやめたくてしょうがない。


 でも、ほら、今。

 僕がさっき、つくった岩すべてに魔力がしみわたった。

 なら、さいごのしあげ。

 ここでやめちゃだめ。

 まほうのイメージを具現するため。

 みちびきたい結果を想起する。


 いたい。

 いたい。

 いたい。


 そしておもいおこすは。

 この世界でよくみた地割れ。

 岩よ、ばりばりにくだけてしまえ、と祈るように僕はいめーじした。


 いたみが余計つよくなる。

 目に映るのは、もう暗闇だけ。


 いたい。

 いたいよう。


 ほとんどの感覚がなくなってるのに。

 ふしぎと触覚はいきていた。

 だからぼくは感じとれた。

 地震にもにた強い揺れを。

 揺れはいめーじがじつげんしたあかし。


 それと感じたのはもう一つ。

 そして地についていたそのぼくの手の上に。

 ぽたぽたと生暖かい水が垂れ落ちてきたのを。

 それがぼくの鼻から出てきた、ぼくの血だということにきづいたのは。


 いしき、ぜーんぶが、まっくらやみのせかいにおちるすんぜんだった。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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