「地下世界の疑問」
地下深くに建造された都市で暮らす人々は、何も知らずに生きている。
ここは何処なのか、なぜここにいるのか、そんな疑問を持つ事はまるでない、
巨大なその都市はそんな疑問を持たせない位巨大だ。
人々は毎日どこかから送られてくる食料を食べて生きている。
毎日、充分な量と質の食料が送られてくるのだから、それがどこから来るのかなんて考える必要も無い。
そんな地下世界は数千年も続いているが、その歴史を学ぶ人もいなければ、研究し伝えようとする人もいない。
ある程度の満足を与えられた人々は、余計な事を考えなくなるのだ。
知るという恐怖は余計な事でしかない。
娯楽施設で適度な運動はするものの、一日の殆どをそれぞれの部屋で過ごしテレビを見ている。
テレビからは特殊な光線が発射され、人々をテレビに夢中にさせる。
ドラマや映画も更に面白く感じる。
時折流れる商品のコマーシャルの中で、気に入った物があれば画面をタッチするだけで数日中には部屋に届く。
とても便利な世界だ。
しかしある日、そんな世界に疑問を持つ少年が現れた。
「テレビの中の世界って一体どこなんだ?」
そう思うのも当然だ、テレビの中にはこの地下世界とは全く違う景色が広がっているのだから。
父親にその疑問をぶつけた事もあるが、帰ってきた答えはとても満足出来るものではなかった。
「どっか遠い場所だろ」
そんなはずはないのだ、川や海ならそうかもしれないけど、頭上に広がる大きな空がどこか遠い場所にだけあるなんて考えられなかった。
少年は父親に告げた。
「僕は旅に出るよ、そして遠い場所に本当に空があるのか探してくる」
少年の目は真剣だった。
「そうか、それはいい心がけだ。でももう少し大きくなってからな」
少年はまだ7才だから父親がそう言うのも仕方がない、
「分かった」
少年もまだ一人ではそう遠くまで旅など出来ない事は分かっていた。
それから数年後、そろそろ一人旅も出来る歳になった少年だが、テレビの中の事そんな事どうでもよくなっていた。
テレビから出る光線の影響もあるが、毎日、美味しいものを食べて適度な運動をしてテレビを見続ける事で、余計な探究心など消えてしまうのだ。
少年が持った疑問は、少年時代にかかる流行り病の様なもので、そういう少年がたまに現れるのも大人達はよく分かっていた。
そして、満足な毎日がまた続く。
おしまい。