決戦②
遂に最終話です。最後までお楽しみください。
日向と結月を始めとする前線部隊の撤退により、敵歩兵が前進する。蛇型が敵陣の真ん中に陣取り、亜梨冴達のいる司令部方面を睨んでいる。
「こっち見てやがる……」
「みんな無事だと良いけど……」
亜梨冴は舌打ちして覗き穴から顔を離した。その隣で慈緒理も不安そうな表情を浮かべている。撤退の支援射撃から1発も銃声は聞こえていない。不気味な沈黙がジャンクシティ全体を包んでいた。
「亜梨冴!聴こえる!?」
「わっ!」
突然無線機から結月の声が聞こえ、慈緒理が軽く飛び上がった。
「よかった……無事みたいね……」
「そんな事より、ロケット持って来れる?今蛇の近くにいる。」
安心して胸を撫で下ろす慈緒理に構わず、彼女は要件を伝えた。
「蛇の近くって……」
「Aの2。今ならやれそうだから、出来るだけ早くね。」
一方的に無線が切られた。
「これだよね?」
「ああ。」
彼女はすぐに弾の入ったバックを背負い、箱から出したロケットランチャーをスリングで背中に背負った。
「ヘルメット、忘れるなよ。」
横から大尉に言われ、足元に転がっていたヘルメットを被る。
「じゃあ、行ってくるね。」
慈緒理と大尉に一瞥して、外へ向かう。
「待った!」
そんな彼女を、亜梨冴が制した。
「なに?」
「必ず帰って来い。絶対だからな。」
睨むような、強い眼差しで亜梨冴は見つめる。それに答えるように
「ええ。必ずね。」
親指を立て、彼女は走り出した。
瓦礫に脚を取られないように気をつけながら、彼女は前線へと走った。背負った物の重さなど気にしている場合ではない。この対戦車ロケットの到着を待っている人がいる。強い使命感に駆られ、彼女はひたすらに走った。戦闘が苦手な自分でも役に立てる、慈緒理はこの戦闘において一種の満足感すらも感じていた。やがて前方に、見慣れた人影が見えた。
「伏せて!」
聴き慣れた声、結月は彼女を見るなり叫んだ。反射的に、ほとんど転ぶようにしてその場に伏せる。刹那、近くの遮蔽物が銃撃された。
「間一髪だったね。」
慈緒理は、日向と結月の隠れている遮蔽物まで近づき、背中の物を渡した。
「待ってたよ。」
「よし!これでやっつけられる!」
意気揚々と2人は発射準備を整える。慈緒理が壁から少し顔を覗かせると、件の蛇型が目に入った。
「こんな近くにいたの!?」
「そう。すっごい怖かったんだよ!」
「2人とも、準備完了。耳塞いでね。あと撃ったらすぐ横に逃げよう。」
結月は弾頭を挿入し、肩の上にランチャーを構える。照準器の狙う先は蛇型の口内、そこにある機関銃だ。
「くらえ!」
彼女が引き金を引くと、弾頭が発射された。反動を逃すための後方噴射で付近の砂利が大きく舞う。放たれた弾頭はほぼ真っ直ぐに飛翔し、狙い通りに命中、爆発する。その衝撃で弾薬にも引火し、轟音と共に蛇型の頭部が無残にも吹き飛んだ。
「よし!」
「やったあ!!ナイス爆破!」
「これで、蛇は無効化できたわね。」
初弾で命中、期待通りの成果を果たした3人はハイタッチをして成功を喜んだ。しかし、あまり時間はない。この兵器の説明を受けた時に言われたのだが、この類の武器は発射時の煙や後方噴射で敵に位置を捕捉されやすい。なので、
「さぁ、逃げるよ!」
結月はすぐに機関銃を持った。
「また移動〜?」
日向も渋々彼女に従う。
「生きるためよ。それじゃ、行きましょ。」
彼女の肩を叩いて、慈緒理も荷物を持った。
彼女らはすぐに走り出した。慈緒理は機関銃を持つ日向と結月から出来るだけ離れるようにした。分散した方が、的になり辛いからだ。常に後方、つまりは敵を警戒し極力遮蔽物から頭を出さないように注意する。銃撃されるかも知れない。ロケットを撃ち込まれるかも知れない。その不安に駆られ、撃たれてもいない背中が痛む気がした。
それでも、ただひたすらに走った。
「もう少しだよ!急いで!」
先に目標点に到着した日向が壁から顔を出し、2人から注意を逸らすために蛇行していた慈緒理に手招きする。彼女は、一気に加速し、直線距離を駆け抜ける。そして、彼女が結月達のいる壁の後ろに入った瞬間、0.数秒前に彼女がいた場所が銃撃された。弾の威力で地面の小石が宙に舞った。
「またまた間一髪だね。」
「ええ…………なんとか………よく狙われる気がするのは気のせいかしら………」
荒く息を吐き、彼女はその場に座り込んだ。
「よくやった!結月!」
司令部に戻り、結果を報告してすぐに、亜梨冴が結月に抱きついて来た。
「あとは、歩兵だけ………あれから戦果は?」
短時間で喜びを分かち合い、すぐに切り替えた結月。
「進展無しだ。見方も敵もな。…………だが、ようやく彼らが到着したようだ。」
「えっと、彼らって事は…………」
慈緒理が期待を隠さずに訊く。
「ああ。連合軍の到着だ。」
彼女らの後方から幾つものエンジンが近づいて来た。
「やったぁ!もう、遅いんだから!」
日向の喜びと興奮は最高潮だ。「まだ勝った訳じゃないよ」と言いつつも結月も嬉しそうにしている。
「奮戦ご苦労だったな。我々が中央から斬り込む。貴方達には、側面攻撃をお願いしたい。」
「ああ、了解した。互いに全力を尽くそう。」
大尉と到着した連合軍の隊長は挨拶も省略して、作戦を発案、伝達した。
「君達は休んでいてくれ。充分に働いたからな。」
大尉が慈緒理達4人に労いの言葉をかける。しかし
「アタシは行きます。」
亜梨冴はその一点張りだった。
「どうしても、やりたい事があります。」
強い眼差しで、大尉に訴える彼女。
「亜梨冴、危険だよ。」
「大丈夫だ日向。アタシはそんなヘマはしないよ。」
彼女は日向の頭を撫で、地面に置いてあった軽機関銃を担ぐ。
「元部下を信用して下さい。」
そして再び、大尉に目を向ける。
「…………わかった。くれぐれも死なないでくれよ。」
ついには根負けし、彼女の出撃を許可した。
これまでに無いほどの銃撃戦が始まった。注意を引きつける連合軍は、通常より派手に撃つ必要がある。だが完全な陽動では無く、可能ならば撃破を狙っている。突然の増援に対し、塹壕猟兵達は必死で撃ち返す。しかし、連合軍の装甲車は破壊出来なかった。
両軍の火力勝負の最中、彼女はひたすらに走った。軽々、とまではいかないが機関銃を担いで瓦礫の山を踏み越える。
「この辺か…………」
亜梨冴は、瓦礫の山の上から身を乗り出す。敵は正面に釘付けで、無防備な側面を晒していた。2脚で機関銃を設置し、照準を発砲している敵兵に合わせる。そして、静かに引き金を引く。
嵐のような銃声が轟き、弾丸の雨が射出される。排出される薬莢が甲高い金属音を奏でる。銃口から豪快に火を吹き、鉛の弾頭が次々と着弾して、土煙と血煙をあげる。目標を充分に射撃したら次、また次へと照準を動かすし敵、あるいは敵のいそうな場所に鉛玉を送り込む。最後は瓦礫の山の上に立ち上がり、敵陣に全弾を撃ち込んでやった。彼女の銃声が、最後まで轟いていた。
「亜梨冴、気分はどう?」
「スカッとしてる。」
地面に大の字に寝転ぶ亜梨冴。彼女の側には結月が座っている。
「やったね、勝ったんだよ!」
「だな。…………力使い果たしたけど。」
跳び上がって喜ぶ日向。だが、亜梨冴は仰向けのままだ。
「この後どうするの?妹さんと親探すの?」
慈緒理が尋ねる。
「とりあえず、帰って昼寝したい。…………ここで寝てもいい?」
「ダメよ。危ないし風邪ひくわよ?ほら、立って。」
慈緒理に促され、渋々立ち上がる。
「じゃあ、帰るか。」
熱を保ったままの機関銃を担ぎ、ゆっくりと歩き出す。その後から、慈緒理達3人も歩き出した。
彼女らの少し変わった日常、生きる為の戦い、そしてそこで見つけた小さな幸せは、この後も続いていく。いつか機械の脅威が消えるその日まで。
ありがとうございました。間が開いたりしましたが、どうにか完結です。まだまだ未熟ですが、皆様の暇つぶしになっていたのなら幸いです。毎回同じこと言っている気がしますが、本当にありがとうございした。次回作も書く予定ですので、そちらもよろしくお願いします。




