塹壕①
今回も、よろしくお願いします。
その日の朝は、いつもより遅く起きた。昨日の夜は色々な店を回ったり、大きな風呂に入ったりしていたからだ。慈緒理は夜の街の治安を心配していたが、街灯が街を明るく照らし、武装した警備員が街を巡回していた為問題は無かった。店や警備員達は、ジャンクシティの住人が幹部を務め、後は皆滞在の対価として働いているのだと言う。
「昼から仕事だし、沢山食って体力つけないとな。」
「じゃあ、昨日の焼肉食べたい!」
「日向、朝はもっと軽い物にするのよ?」
4人は朝食を取る為の店を探して街の中をうろついた。その結果、適当に見つけた喫茶店でサンドイッチとお茶を頼んだ。昨夜同様、兵隊の証の札を見せるだけで気前よく料理を出してくれた。 亜梨冴は、ここまで好待遇を受けたのだから、仕事は過酷を極める可能性を感じた。しかし、以前は困難だったであろう豪華な食事を楽しむ3人、特に日向を見て、言うのは止めて、自分も存分に満喫した。
「それじゃ、仕事に向かおうか。」
軽めの、しかし充分な食事を終えて、結月が口元を拭いて立ち上がり、他の3人もそれに続く。多くの人で賑わい始めた街を進み、途中で宿から武器を取って来て、22番の建物の中に入る。
「昼の当番だな。早速こっちのドアから外に出てくれ。梯子を降りたら塹壕に繋がってる。そのまま道なりに進んで、土嚢のあるラインまで行ってくれ。幸運を祈るぞ。」
案内の男に言われ、彼女らは塹壕へと入った。
「結構広いじゃん。」
真っ先に梯子を降りた亜梨冴が言った。土を深く掘り下げた塹壕を進み、指定された場所へと向かう。途中で交代の人らとすれ違ったが、簡単な挨拶をした以外、特に何もなかった。
「敵は見えないね。今のところ。」
結月が狙撃銃のスコープを覗いてつぶやいた。塹壕はジャンクシティの前に伸びていて、迷路地点を見降ろせる監視塔、鉄条網、更には小型の砲台など本格的に作られていた。
「敵は正面から来るらしいな。誰か2人、右前の方に行ってくれ。正面と横から挟み撃ちにする。」
亜梨冴が3人に指示を出し、結月と慈緒理が移動する。
「これ持っていってもいい?」
慈緒理が足下の袋を掴み、中身を1つ取り出す。
「手榴弾か。亜梨冴、これって必要かな?」
「アタシ達の所からじゃ投げても届かねーな。持ってっていいぜ。」
結月が亜梨冴に確認を取り、その袋を抱え直した。元々足下に転がっていたので、使っても文句は言われないだろう。「また会おうね。」と手を振りながら2人は塹壕を進んで行く。
構えていた銃を下ろし、亜梨冴は地面に置かれた頑丈な箱に座った。
「敵影なし。今頃慈緒理達も暇してるだろうな。」
亜梨冴と日向は交代で見張りをしていた。見張りの番が来た日向は、亜梨冴が座っている様な箱の上に乗って、塹壕の先を睨む。
やはり、何も異常は無かった。交代の時、亜梨冴は懐から飴玉を取り出して日向に渡し、自分も飴玉を口に含む。
「終わったら服見に行こうよ!」
「それより先に風呂入ろうぜ。こんなとこにいたら埃まみれになるからな。」
「じゃあさ、お風呂上がりのジュースも忘れずにね。」
「いいね。早く終わんねーかなー。」
2人はたわい無い会話をして時間を潰した。箱に座る亜梨冴だが、彼女は常に武器を近くに置き、戦闘に備えていた。
「そろそろ言って貰おうか?亜梨冴が軍隊に入った理由。」
「あーそんな事もあったな。」
唐突に日向が切り出す。出会った日の夜、そんな話をした気がする。
「何と言うかさ、アタシに出来る事を見つけたんだ。」
彼女は、軍隊に入るまでの経緯を話し始めた。
「親とは逸れて、妹は医者の手伝いに行った。頭が良くて優しいやつだったからな………」
どこか懐かしむ様に、時折寂しそうに語る。
「亜梨冴も、妹さんについて行けばよかったのに。」
日向が返す。しかし、
「優しすぎるあいつは、無料での医者について行った。大事だけどさ、現実的には金とかが必要だ。」
彼女がここまで言って、日向は大体の理由を理解した。
「約束したんだ。ある程度物資が揃ったら、一緒に親を探すって。」
静かに、しかし決意を固める様に、亜梨冴はそう言い切った。
ありがとうございました。
誰かの暇つぶしくらいにはなっていて欲しいです。




