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あなたへ

作者: 太郎

 一緒にイルミネーションを見に行った。人の波に揉まれながら笑って、「人が多いですね」なんて言いながら歩いた。はぐれそうになると私の服の袖を掴んで近くに寄せてくれた。

 一緒に夜の海に行った。深夜のメッセージ一つで飛び出して、車の助手席に座って窓の外を見つめていた。他愛のない会話をして笑った。あなたは運転が上手だった。車に乗ると決まって車酔いしてしまう私でも、あなたの運転する車だけは酔わなかった。車の中でかかっているアルバムは、夜を溶かしたような曲ばかりで、私は今でもその曲たちを聴くと泣いてしまうのです。

 あなたは優しかった。大人だった。私が生まれたとき、あなたは中学生だった。よく世代の壁なんて言うけれども、あなたはお話が上手で、壁は壊されて階段になっていた。私はそれを登って、あなたと同じような大人になったつもりでいた。

 私は高校生だった。将来のことで悩む時期だった。家庭のことでも悩む時期だった。進路なんて全く決まっていなかったけれど、あなたは私にアドバイスをくれた。家族には相談できなかった。あなたは私の唯一の信頼できる大人だった。恋心を抱いた。

 私はフラれた。あなたは「今のままの関係じゃ駄目ですか」なんて言って私を拒んだ。私は理解した。私が子どもであるがゆえに拒まれた。私にとっては唯一のあなたでも、あなたにとっての私の代えはいくらでもいるのだろう。

 長い時間が経った。あなたと私は一年半も遊んだ。お互いに心を開いていた。それはわかっていた。それでもあなたと私は恋人同士ではなかった。私は遊ばれているとわかっていながら、あなたの誘いにはかならず応じた。それでもあなたが好きだった。遊びでもいいから会いたかった。あなたはたまに、「私のこと、好きですか」なんて言った。私は嘘を吐かなかった。私もあなたに好意を確認したかった。でもそんなことを口にすれば、あなたが二度と会ってくれなくなるような気がして、私は言葉を喉の奥に唾液と一緒に押し込んだ。

 私はあなたから離れるために、新しい恋をした。素敵な恋人ができた。「恋人ができたのでもうあなたとは遊びません」なんて私の言葉に、あなたは一言だけ返した。私たちはそれきり会わなくなった。

 あなたにとって私はそれくらいの存在だったんだなと思うと涙が止まらなかった。私はあなたにとってもっと大切な存在になれているつもりだった。自分の思い上がりが悲しかった。

 あなたから突然電話がかかってきた。あなたは泣いていて、私も泣いていた。あなたが実は私をずっと好きでいてくれたことを知った。あなたは私を大切にしてくれていた。私はそれに気づくことができなかった。私とあなたは両思いだった。私と恋人も両思いだった。私は恋人を大切にすると伝えた。あなたは泣きながら笑って、後悔を伝えてくれた。

 私とあなたが結ばれることはないでしょう。あなたと過ごした楽しかった時間が消えることもないでしょう。私はあなたが好きでした。長い間ありがとうございました。こんな終わらせ方をしてごめんなさい。どうか私を嫌いになってください。


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