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アルとラズ

書いてて気づいたんですけど、萌える女の子書くのが苦手みたいです。それでもよければ是非。

反響があれば続きを書いていこうと思います。

「やれやれ、ロクなもん見つからねえな。本当にここにあるのかよ」


「いいから手を動かせよ! いい加減手持ちの金も底をついちゃうんだからな」


 薄暗い廃墟に二人の男の声が響き、瓦礫(ガレキ)をひっくり返す音がそれに混じる。かつては誰かが住んでいたであろう建物だが、屋根は破壊され、半壊した家具や壁の跡がむき出しになっている。


「手を動かせって? さっきからやってるだろうが。俺は手と同時に口も動かさないと調子悪いんだよ。いつも言ってんだろ」青い髪の男がまくし立てる。


 その手には穴開き手袋をはめ、レザーとチャコールグレーの布で仕立てられた服を身にまとった姿はまるで冒険家だ。打ち捨てられたソファーや書棚などのインテリアを蹴飛ばす度に、腰に巻かれた二本の革ベルトに吊るされたスキットルがチャプチャプと音を立てる。


「嘘つけ、休憩ばかりしてるくせに」赤い髪の青年が薄汚れた金属の円筒を見せびらかすように掲げてみせる。「ほら、僕はもうシリンダーを一つ見つけたぞ。ラズ、お前は何か見つけたのか?」


 シリンダーとは旧時代の遺物の一つ、機械を動かすためのエネルギー源の俗称だ。ロスト・テクノロジーが使われている為、新たに作り出すことは出来ず、それなりに希少価値がある。


「アル、そうカリカリすんなよ。そんなもんよりデカイお宝がここにあるのは間違いないんだ。そうだろ?」ラズと呼ばれた青髪の男が苦笑いする。


「当然。この僕のダウジングに間違いなんて無いよ。それに今回の反応ときたら! ここまでくるとサービス問題だね」アルは赤い髪をかき上げて白い歯を見せた。



 アルとラズはトレジャーハンターだ。それも腕利きのコンビとして、この界隈ではそこそこ名前が知られている。


 さかのぼること二時間前。アルは野良(ノラ)コンピュータをハッキングし、周辺の地形データを手に入れた。ハッキングに掛けてはマスターエンジニア級だと自負している。マシン語を自在に操る知識だけでなく、データをサーチする勘が問われる技術だ。


 ダウジングを仕掛けた時にただならない反応があった。デジタル化されたマップから、そこに眠る宝物の場所を探し出す。統計的なデータから推測するプログラムであるはずのデジタル・ダウジングだが、アルに限ってその能力はオカルト的なレベルにまで突き抜けていた。


 これまでに見つけてきたお宝は、旧時代のデジタル端末に移動機械、銃器、美術品、ロストテクノロジーが詰まったデジタルライブラリーなど様々である。



「サービス問題ね。だったらさっさと解いてご褒美(ホウビ)にありつきたいもんだぜ」ラズが意地悪く笑いながら悪態を吐く。「まさかそのシリンダーが大当たりだなんて言わねえだろうな」


「あはは、わかってるよ。これはきっと前菜だよ。メインディッシュは、ここかな?」


 言いながら、壁から垂れ下がったケーブルをズルズルと引っ張る。引きながら二度持ち替えた所で、ケーブルが何かに引っかかって止まる。


「あれ、なんだこれ。絡んじゃったかな、もしかして。……えい! うりゃ!」


 アルが気合いを入れるが、ピンと張った太いケーブルはびくともしない。勢いよく引っ張ると、今度は手からすっぽ抜けてしまい、アルは転びそうになる。


「おいラズ、見てないで手伝えよ。僕が知的労働。お前は肉体労働。そういう分担だろ?」


「馬鹿言うな。俺の専門はバトルだろうが。あくまで護衛が仕事であって、廃墟を掘り返すのはサービスなんだよ。あんまり勘違いすんなよな」


 ラズはスキットルを手に取ると、奮闘するアルを横目にグビグビ飲み始めた。


「くはぁ。労働の後の酒は犯罪的に美味いぜ」


「え、なに一仕事終えた感じ出してるの? 結構マジで引くんです……け……ど! うおおお……!」


 アルは苦戦していたケーブルを両手に巻きつけて握ると、全身の力を込めて引っ張った。


 すると、積み重なったスクラップがガラガラと崩れ、隙間からズルズルと重みを伴ってそれは姿を見せた。


「おい、まさか本当に……当たり、か?」


 肩越しにラズが覗き込む。アルは赤い髪をかき上げてニヤリと笑った。「だから言ったろ。人型素体(オートマタ)。おそらく完動品……!」



 元は白色だったと思われるそのボディは、埃とオイル、その他諸々の汚れにまみれ、元の色を完全に失っていた。人間をモチーフにした機械仕掛けの素体は、合成金属で仕上げられた外装や可動域が剥き出しの関節など、人と見紛う程には人間に寄せて作られてはいない。


 しかし大半の人型素体は人間並みの、あるいはそれを遥かに超える運動能力を備える。


「やったなアル! こいつがあれば使ってよし売ってよし、どう転んでもメリットしか見えてこない。文句無しの大当たりだ」


 ラズが興奮気味に快哉(カイサイ)を叫ぶ。しかしアルは硬い表情のまま、引っこ抜いたケーブルの先を見ている。


「ラズ。確かに当たりは引いた。でも厳密には、当たりと外れを同時に引いたらしいよ」振動とそれに伴う地響きが徐々に大きくなっていく。「トラップだ……来るぞ!」


 地響きが轟音へと変わる。山積みの瓦礫が大きく震え、ガラガラと崩れ落ちた。その中心から、三メートル程もある巨大なシルエットがぬらりと立ち上がる。何本もの触手の束がうねるその姿はまるで――


「巨大……イソギンチャク」


 呟いたアルの声に反応するように、イソギンチャクの根元でセンサーが赤く光った。


 ◆


 一瞬の間を置いて、イソギンチャクの触腕が凄まじいスピードで振り下ろされる。瓦礫が砕ける音がして、二人がいた場所に金属製の触腕がめり込んだ。初撃をかわしたラズとアルに、別の腕が次々と襲い掛かる。その全てを最小限の動きで避けながら、ラズが不満を口にした。


「まったく、楽な仕事のはずだったのによ」


「何言ってんだよ。自分ばかり楽できると思うなよ」


「お宝を掘り出すのが俺の仕事だろ」ラズが数分前のセリフをあっさり翻す。「なんだってこんなバケモンと戯れ合わなきゃなんねぇんだよ」


 サイドからの攻撃を屈んで回避すると、ターゲットと正面から向き合う。網膜(モウマク)装着型のディスプレイを通して、ターゲットの情報が流れ込んでくる。製造メーカー、全長、重量、材質から感染しているウィルスの型まで、解析に成功したすべての情報が次々と表示されていく。


「材質はニグルマテリアルか。劣化コピー品でも今時もう少しマシってもんだぜ」ラズはにやりと笑い、腰の後ろに手を回す。


「任せたぞー、ラズー!」


 見ればアルは速やかに部屋の反対側へ避難している。この辺りの逃げ足の速さは才能と言ってもいいだろう。ラズは苦笑いして軽く舌打ちした。


 触腕が振り回される度に、風切る轟音が辺りを飛び交う。横薙(ヨコナ)ぎにされた触手を屈んで回避すると、ラズは地を蹴った。


 一瞬で距離を詰めると、触手の生えた本体に右手を打ち込む。その手に握られていたナイフがイソギンチャクの身体に深々と突き刺さった。


「トリガー」


 ナイフ――正確にはナイフ型の強制アクセス端末――を握ったままラズが呟く。同時に、金属で作られたチェロのような、硬質な鈍い音色が数秒放たれた。


「一丁上がり」


 イソギンチャクは全ての触腕をダラリと垂らして動きを止めると、コア停止音の余韻を残して静かになった。


「おお、瞬殺だね。さっすがバトル担当!」


 まばらな拍手をしながら赤髪の青年がモンスターに近づく。


「横なぎにされた時にチラッとボディが見えたからな。ニグル製ならナイフで充分ぶっ刺さる。あとはボタン一つでハック完了。簡単なもんだ」


「簡単にハッキングできるのは俺が作ったウィルスのお陰だよ。あれをプログラムするのにどれだけ苦労したか」


「わかってるって。それよりアル、このポンコツタコから使えるパーツをさっさと回収しようぜ」


 言いながらラズは電子回路を覗き見る。


「さっきのお宝に連結して罠を張ってたみたいだね。あれに手を出した人間を餌食にしてたわけだ。見ろよ、触手の先に電磁ファング。当たりどころが悪ければ一発で昇天できる。おお怖っ」


「なっ、マジか……もっと安全策で行くべきだったか」


「結果オーライじゃないの? それよりさ、こんな低レベルのジャンク漁ってる場合じゃないよ。今日のメインディッシュは?」


 二人の視線が交わり、にやりと笑ってラズが答える。


人型素体(ヒトガタソタイ)ちゃん。さぁ、ご対面だ」



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