その先のやり直し。
次の日の放課後、僕は中庭にいた。
一ヵ月前に交わした約束を果たすために。
「すみません、遅れてしまいました」
声のした方へと視線を向ければ柚木さんの姿があった。
ここまで走ってきたのか、胸に手を当てては乱れた呼吸を繰り返していた。
「そんなに急がなくてもよかったのに」
中庭に来て五分も経っていない。
だから気にすることない、と言っても柚木さんは首を振る。
「でも、約束した私が、明日河くんを、待たせるなんてできません」
柚木さんが律儀な性格なのも知っている。
誰に対してもそうなのかもしれない。
でも、その言葉には確かな重みが含まれていた。
「お話があります」
柚木さんは僕を見つめる。
次の言葉は止まったまま、僕たちは向かい合ってしばらく見つめ合っていた。
そのまま数秒が過ぎると、いつものように柚木さんは俯いてしまう。
それではいけないと、再び柚木さんは顔を上げて、再び俯く。
そんな事を何度か続けて、結局は俯いたまま柚木さんは口を開く。
「私は、明日河くんが好きです」
柚木さんは恥ずかしそうにしながらもはっきりと言葉にする。
前もって告げられていたとはいえ、直接向けられた気持ちは重い。
もし、柚木さんの告白が何の準備もなく唐突であったなら、僕の頭は真っ白になっていたのかもしれない。
そのくらい柚木さんは魅力的な女の子だった。
動揺もそこそこに、返事をしようとすると何故か柚木さんは首を振った。
「私は明日河くんが好きです。その気持ちはあの日から少しも変わっていません。それどころかもっと好きになりました。一緒にいて、私はあなたが好きなんだと、知りました」
柚木さんはいつも真っ直ぐに気持ちを表現していた。
聞かされているこっちが恥ずかしくなるくらい、純粋な気持ちを言葉に込める。
「でも、私は明日河くんに酷い事をしてきました。だから、私には権利がないんです。明日河くんと付き合うなんて思っていいはずがないんです」
柚木さんが言う付き合う権利。
一般的には相手に釣り合わないとか、自分に自信がない諦めの言葉だったり。
柚木さんの場合は約束を守れなかった罪の意識。
それはこれからも消えずに続いていくのかもしれない。
僕の背中にあの日の後悔を見ているから。
「僕は、柚木さんが好きだ」
なら、僕が変えよう。
柚木さんが後ろを見ているなら僕が前を向こう。
恋人という関係になれなくても、そうすれば、僕たちは向かい合える。
焦らなくてもいい。
僕たちにはまだ時間がある。
「これからもよろしくな」
柚木さんはあの日に言いたかった想いを伝えて、言わなくてよかった言葉を今日に付け加えて。
そして最後に、はい、と嬉しそうに答えた。




