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隣で支える小さな影  作者: 柳
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まだ見えないこと。5

 

「先生に何を言われても言い返さないのに、私が責められると庇ってくれる。頭もいいのにそれを鼻にかけることもない。理想的な人。世界中探しても見つからない」


 想いが溢れてしまうように、立花さんの吐息には熱が帯びる。

 それを直接当てられた柚木さんは、更に怯えているように見えた。

 背中に当たる手が、立花さんが興奮気味に語る度小さく震えていた。


「香織の行動の全てが私の心に触れるの。見てるだけで満たされるの。誰にも触れてほしくなかった。なのに」


 あなたがいたから、と言い続ける。


「純粋な香織が汚れるのを想像するだけで虫唾が走るくらい嫌だった。ずっと綺麗なままでいて欲しいって、私だけの、私の傍にずっといて欲しいって思ってた」


 そこで話すのを止めると立花さんは顔を俯かせた。

 感情が爆発したかと思えば、次の瞬間には覇気をなくしていく。

 持て余した感情に立花さん自身が振り回されている。

 そのせいで情緒不安定になっているように思えた。


 語られた言葉はどれも柚木さんに向けた告白であり、持て余している強い想いは柚木さんへ対する恋情。

 そこから嫉妬であり、僕に対しての憎しみが絡んでいる。

 立花さんが誰を好いていようと、その相手が同性であっても僕には関係ない。

 人から好かれるのは悪いものではないのかもしれない。


 けど、それにも限度がある。

 怯える柚木さんを見る限り、立花さんの想いは受け入れられていない。


「香織に好きな人がいるってわかって、何もかもが嫌になったの。もう疲れたのよ」


 次に発した立花さんの言動が僕を大きく揺さぶった。


「ちょっと待て。制服が盗またから学校に出て来られなかったんじゃないのか?」

「そんなことどうだっていい。その、誰のかわからない制服も知らないから」


 立花さんは投げやり気味に、紙袋の中を確認するまでもなく、自分の物ではないと断言した。

 こうも簡単に真実が露呈するとは思ってもみなかった。


 少なくとも外から持ち込まれた制服は全て自分の物ではない、ということなのだろう。

 可能性としては、既に自身の制服が見つかっているのか、また、紛失したこと事件そのものがなかったのかのどちらかだと確信できる。

 どちらであっても僕らには関係なく、追及する必要すらない。


「なら、柚木さんに他に人を好きな人がいるって知ったら、部屋に閉じこもっていたのか?」

「そうよ、悪い?」


 悪びれもしない言い方に苛立ちを覚え、そして、今まで僕がやってきた犯人探しと工作は意味を失くした。

 立花さんが学校に登校せず、家に引きこもる切っ掛けとなったのは柚木さんだった。


 柚木さんが誰かに告白をすると知り、想い人が他にいることに心を痛めたことにある。教師や親は盗難事件で落ち込んでいると勘違いしたのか、立花さんがそれを言い訳にしたのか。大きな溜息が零れると、どっと疲れが肩にのしかかった。


「僕たちは付き合っていない」


 その勘違いさえなくなれば、立花さんが引きこもる理由がなくなる。

 立花さんは柚木さんが好きで、誰かのものになってしまうのが嫌だと言っていた。柚木さんの気持ちが何処に向いているのかはわからないけど、遠まわしに僕が好きだったと伝わってはいるけど、今の所は僕と柚木さんの間に色恋が始まる兆しはない。


 だから立花さんが抱えた問題は何もない。引きこもる理由がない。

 事実をありのまま伝えれば立花さんを説得するのは難しくはないように思えた。


「あんたには関係ないでしょ。出てって」


 大声を出して疲れたのか、これ以上僕らを見たくないのか、立花さんは声に疲れが混じっていた。


「そうはいかない。僕は立花さんが学校に来てもらわないと困る理由がある」

「理由って、なによ」

「柚木さんが盗難事件の犯人に挙げられてる」


 そう言うと立花さんは僅かに視線を下げた。

 言われたくないことを、はっきりと目の前に突きつけられたような、居心地が悪いような顔をしていた。

 目を背けてきたことから逃げられなくなったように。


「その疑いを晴らす一番の方法は立花さんが学校に復帰して、真実を話してもらうことなんだ」


 僕から先生に言うことも解決策の一つではある。

 ただ、証拠を見せて野良猫が犯人だったことを伝えても、立花さんが一言、違う、と言えば意味がない。

 補足が必要になる。


 真犯人が出てきても、たったひとつの疑問が残ってしまう。

 犯人でない柚木さんがわざわざ嘘を吐いた理由が必要になってくる。

 だから、立花さんのために、復帰させるために犯人になったと思ってくれた方が良い形で収まる。


「立花さんだって柚木さんがこのまま犯人のレッテルを貼られたまま、嫌がらせを受けていいなんて思わないだろ?」


 威勢をなくした立花さんに伝える。

 今、学校で起こっている現状を伝えるのは卑怯かもしれないけど、良心が痛むように言い含める。


「立花さんだけなんだ。他でもない被害にあった本人が言ってくれた方がみんな信じてくれる」


 柚木さんは多分、自分が言ったことを曲げない。

 いつだって自分の身を差し出して、僕のことを一番に考えている。

 再び僕に疑いが向かないように犯人役を続ける可能性だってある。

 だから、完全に終わらせなくてはならない。


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