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隣で支える小さな影  作者: 柳
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僕が憧れていた友人。2

 

「それは、柚木さんと関係あるのか?」


 無表情だった幸秋の表情が僅かに硬くなった。

 そして質問に対する答えは返ってこない。

 まるで幸秋と絶交した時、疑った時の再現のようだった。

 真っ直ぐに向けられた瞳は僕をしっかりと捉えている。


「言いたくなければいいんだ。でも話は聞いてもらうよ」


 無言でいることが了承したと受け取り先を進める。


「幸秋には言っても言っても言い足りないくらい感謝している。それは本当なんだ。幸秋が必要ないって言っても僕は助けてもらたって思ってる。絶対に忘れたりしない」


 あの時の感謝と、抑えきれない気持ちは多分一生忘れない。

 そのくらい僕にとって大切な瞬間だった。

 助けてくれたことも、駆けつけてくれたことも。

 理由はどうでもいい。


「それとは別にもう一つ話があるんだ」


 今後、幸秋が困る出来事があるのかはわからないけど、助けたいし、相談に乗りたい。些細なことだっていい。愚痴だっていい。

 でも、それを叶える為には話さないといけないことが残っている。


「僕はずっと幸秋を恨んでた」


 僕は話し始める。

 それは絶交したその日から。


「あの告白話は作り物で、僕を騙すためについた嘘だと思ってた。今考えれば、幸秋がそんなことするわけないのに、頭に血が上って冷静に考えられなくなっていたんだ」


 こじつけもいいところだった。


「だから、それから悪いことが起きる度、全部幸秋の所為にしてた。ずっと裏切られたと思ってた」


 でも、と僕は続ける。


「柚木さんのおかげで間違いに気付くことができたんだ。全部僕が悪かったんだって」


 幸秋は黙って僕の話に耳を傾けてくれる。

 どう思っているのかはわからないけど、今はそれだけで十分だった。


「この世の全ての災難が僕に降り掛かってきたように思えるほど嫌なことばかりが続いた。毎日が辛かった。逃げ出したいって何度も思った」


 そこで言葉を切ると幸秋は、そうか、とだけ言った。

 素っ気ない返事だったが、僕が言った言葉をちゃんと受け取ってくれたのだと思える。

 少し前の僕なら聞いていたのか、と疑問に感じていた。

 見方と捕らえ方を変えただけでこうも違って見える。


「それで、僕は幸秋に謝らないといけない」


 幸秋は再び眉間に皺を作った。


「謝る? 何をだ」


 話の流れから考えれば僕の発言は間違っていないはずなのに、幸秋は疑問を持つ。身勝手な思い込みで恨まれていたなんて知れば幻滅するなり、憤るのが普通だと思う。

 でも、幸秋は謝れることなどないかのように言う。


「勝手に勘違いして幸秋を悪く言った」

「勘違いなら誰でもする。気にしなくていい」


 幸秋は簡単に許してくれる。

 それが些細な喧嘩であったように、単なるすれ違いから起こったことであるように。

 それは優しさなのだろうか。

 僕が気にしないようにあえてそんな風に言ってくれたのだろうか。


 多分、どっちも違う。

 幸秋は始めから気にしていなかった。

 無理やりこじつけた罪を擦り付けても、暴言を吐かれても幸秋にとっては些細なことだったから。


「でも謝らせてほしい。ごめん」


 そんな幸秋から僕は一歩引いていた。

 踏み込むことを恐れていた。


「僕は間違っていたんだ。だから謝る。それが幸秋にとって意味のないことなのかもしれないけど、このままじゃ嫌なんだ」


 関係が壊れるのを恐れていた。それが間違いだった。

 幸秋が許してくれたとしても、僕が言ったことは消えないし、けじめはつけなくてはならない。

 そうするのがきっと当たり前のことで、そうしなくちゃいけないって思うから、僕は頭を下げる。


 幸秋は何も言ってこなかった。次の言葉を待っているのだろうか。それとも呆れているのだろうか。話すことなんてこれ以上ないと、思っているのだろうか。


 頭を下げている体勢では幸秋の表情は見えなく、何を思っているのかわからない。しばらくして顔を上げて幸秋を見ても、結局どう思っているかなんて感じ取れなかった。

 だから僕は言葉を繋げる。


「今まで幸秋に嫉妬していた。何でも出来るお前が羨ましかった」


 そう言うと今まで黙って聞き役に徹していた幸秋の口が微かに動いた。


 嫉妬、と呟いていた。

 その言葉は小さくてかろうじて聞き取れたものだったが、なんだか妙な含みを感じた。その顔は、あの時と被って見えた。


「僕よりもなんでも出来て、いつも僕よりも上にいる幸秋が誇りだったんだ」


 今だって羨ましいし、誇らしい。


「でも、それは幸秋の表面だけで、一番近くにいて、友達だと思っていた人のいい部分しか見てなくて、それ以上知ろうとしなかった。それが間違いだった。あの時だって」


 僕たちが友達だった一番最後の日。

 あの時踏み込めなかった距離を、もう遅いかもしれないけど、踏み込んでみる。


「告白の話をしていた時、いつもの幸秋とは少し違う気がした。いや、そうじゃないな……気付いていないだけで、その前からも違ったのかもしれない」

「違って、何がだ?」


 要領を得ない僕の言葉に幸秋は不審そうに尋ねる。


「どんなことが起きても冷静だった幸秋が、その日は何となく思いつめたような表情をしてた」

「気のせいだ。僕はいつもと同じだった。気のせいってのはいつでも何処でもあるものだ」


 幸秋が言っているのはもっともだと思う。

 けれど、なんだかはぐらかしているような気がした。


「そういうことだ、だから――」

「幸秋が話てくれるまで僕は諦めない」


 幸秋の言葉を遮り、僕は言い切る。

 このまま話を終わらせれば、僕が幸秋の言葉を受け入れてしまえば終わってしまう。今までの、友達よりも遠い関係に。


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