表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣で支える小さな影  作者: 柳
42/71

柚木香織という人物。6

 

「あの、一つ質問していいですか?」


 部屋を出る前に聞いておきたいことがあり、入口で立ち止まる。


「もう下校時間になるから、明日にしなさい」


 長岡は明らかに迷惑そうに視線を逸らしていた。


「柚木さんはいつから授業を抜けだしているんですか?」

「そんなこと聞いてどうする?」

「僕と関係あるなら聞いておきたくて」


 しばらく考え込み、長岡は口を開く。


「正確なことはわからないが、購買のおばちゃんの話では三週間くらい前からしているらしい」


 僕が予想していたよりも長く、曖昧な答えが返ってきた。

 お礼を言い部屋を出ると、気を付けて帰るように、と長岡が言っていた。


 さて、どうしたものか。

 いわれのない噂話。

 柚木さんと僕の関係。

 錦戸くんから聞かさせた僕の代わりをしている人。


 無理やり繋げるなら、それをしているのは彼女ということになる。

 日にちに多少のズレはあるけど、それに関しては些細なことだろう。

 仮に、僕に脅されて内藤さんたちにパンを届けさせているのだとするならば一応話の筋は通る。

 重なる点は少なくない。

 けど、僕自身に身に覚えはない。


 休んでいた僕に罪を着せている可能性もなくはないが、どうもしっくりこない。

 長岡の話ぶりからすると、柚木さんが自身の欲望のまま違反行為をしているようには思えなかったのだろう。

 きっと彼らの間には確固たる信頼があり、僕の方がよっぽど卑劣な行為をしていると思えるはど、ありえない話なのだろう。

 そんな彼女が信頼を裏切ってまで目先のことに手を伸ばした、とは考えにくい。

 もし、自分の欲求を満たす為にしているとしても、リスクに対し報酬が見合わない。


 考えても答えは見つからない。

 柚木さんと僕を結びつけるものは、その噂話くらいなもので、それ以上は何もない。あくまで可能性の話。


 一人分の足音が廊下にこだまする中、僕は考え続けた。

 校舎の窓から差し込む夕日が、どれだけの時間を経過したかを物語っていた。

 ふと、窓の外からこちらを見ている人物がいた。

 それが誰なのか気にはなったが、日没間近の沈んでいく夕日がやたらと眩しくて僕は視線を逸した。



 長岡が言っていたこと、噂話が本当かどうか確かめるために僕は四時間目を無視して購買へ向かった。気になるのは僕が命令しているという一点。

 広場へ着けば、おばちゃんと男の人がパンを並べていた。

 近づく僕にちらっと視線を向けるものの、特に話しかけることなく、黙々と仕事をこなしていた。

 邪魔はしたくなかったが、僕はカツサンドを手に取り、おばちゃんにお金を差し出した。


「ダメだよ。先生に時間外に売るなって怒られたばかりなんだから」


 購買のおばちゃんは言う。

 それは、時間外に買いに来た生徒がいたことになる。


「そんなこと言わないでさ、頼むよ」


 両手を合わせ少し頭を下げると、おばちゃんは困った顔をした。


「でもね……」


 口では渋っているものの、おばちゃんは商品を隠そうとはしないし、自分が怒られることなのに迷惑そうでもない。

 言ってしまえばお人好しそうに見える。


「じゃあ、ここにお金置いておくから勝手にもらっていくよ。そうすればおばちゃんが怒られることはないだろ?」

「今日だけだからね」


 おばちゃんの了承を得て、その場で封を開ける。

 ソースが染み込んだカツと、間に挟まっているキャベツがいいアクセントになって美味しい。


「ねえ、三週間前くらいから授業を抜け出して買いに来てた、真面目そうな女の子知ってる?」


 回りくどく言うのも面倒だったので、そのまま尋ねてみれば、おばちゃんは意外にも素直に答えてくれた。


「いつも来ていたわよ。決まった時間に来て、何度も頭を下げる女の子」

「頼む生徒は少なくはないと思うけど?」

「あんたみたいに軽くお願いしてくる子はね。でも、あの子、必死にお願いするのよ。その姿を見ていると、ね。ダメだって思っていてもついつい」


 元来のお喋り好きなのか、おばちゃんは手を動かしつつも答えてくれた。

 人の良さそうなおばちゃんには、威圧的に頼むよりよっぽど効果がありそうに思えた。


「きっとあの子もいけないことをしてるってわかってるのよ。もしかして虐められてるのかね」


 我が子を思う母親のように心配そうな顔をするおばちゃんは、いつもその子が来るのであろう廊下の先を見つめていた。


「多分だけど、虐めとかじゃないと思うから心配しなくてもいいと思うよ」

「そうだといいんだけどね」


 自分とは関係ない違反生徒を心配するなんて、おばさんも苦労の多そうな性格をしている。その後も邪魔しない程度に話を振っては時間を潰した。


 授業終了十分前。先生に注意された後なのにも関わらず、彼女は懲りずにもやってきた。この時間なら授業を抜け出している話も本当のことらしい。

 おばちゃんに気付かれないように彼女を捕まえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ