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隣で支える小さな影  作者: 柳
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柚木香織という人物。2

 

「僕といても、いいことなんて何もないよ。それどころか馬鹿にされるだけだよ」


 錦戸くんは何処かいじけているようにそっぽを向いていた。

 もっと拒絶されると思ったが、意外にもそうではないらしい。


「錦戸くんとなら、なんとなくだけど仲良くなれそうな気がするんだ」


 そう言い、僕は片手を差し出す。


「なに?」


 と、錦戸君が不審そうな視線で僕を見る。


「仲直りの握手だ」


 間違いから始まった友達関係。

 謝ったところですべてが許されるわけではないことは自覚している。

 一度できてしまった歪みはそう簡単には正されないだろうということも。

 それは僕がしたことであり、錦戸くんが抱いた感情だ。


 やり直すことは出来ない。

 だから一からスタートではなく、それらを全て抱えた上での再スタートとして僕は握手を求めた。

 錦戸くんはしばらく考え、もう一度僕を見て、ため息を吐きながらも手を握ってくれた。


「そこまで言うなら、しょうがない」


 そっぽを向いたままだったけど、何処か嬉しそうに思えたのは僕の勘違いだとは思いたくない。そんな彼に、僕は言わなければならないことがある。


「初めて会話した時、話を合わせるために言ったけど、僕、ゲームはあまりやってないんだ」


 そう言うと錦戸くんは笑った。


「知ってた」


 その後、予鈴が鳴り一緒に教室へ戻った。

 まだぎこちない距離感を保ったままの僕たちだけど、時間を掛けて程よい距離感で付き合っていけばいいと思う。


 二週間ぶりに授業を受けたが、休んでいる間も軽く予習していたので苦戦することはなく、半日もすれば学生の感覚も取り戻せた。


 昼食は錦戸君と過ごすことにした。

 教室の中では落ち着かない、と今まで利用したことのない食堂で食べることにした。


 食堂、とは言われているものの、そこは椅子とテーブルがある広い場所でしかない。

 数年前までは料理を提供してくれる人がいたらしいが、それも、僕らが入る前のことであり、厨房はあっても使う人はいない。

 けれど、数多くのテーブルや椅子がある空間を有効利用する意味もあって、今も大勢の生徒が利用している。

 食堂の入口を抜け、乱雑に組み合わされたテーブルを縫うように進み、二人掛けのテーブル席までたどり着く。


「初めて来たけど、結構混んでんだな」


 予想していたよりも賑わっている食堂を見渡してみる。

 二教室分は優にあるだろう食堂に、二人組の少数から十人以上の大人数まで様々なグループが点在していた。

 それぞれが必要な数のテーブルを繋げて楽しそうに話をしていた。

 うるさいと言うほどではないが、話の内容が聞き取れないぐらいには騒がしい。


 そんな人たちをぐるりと回って戻ってくると、錦戸くんの弁当に目が行った。

 錦戸くんが弁当を持ってきていることも、見るのも今日が初めてだった。


「いつも昼はどうしてたんだ?」


 弁当を広げながら僕は訊く。


「うん。内藤さんたちと食べてたんだ」

「……行かなくてよかったのか?」


 錦戸くんはどうしてか、自嘲気味な苦笑いを浮かべていた。


「最近は呼ばれないんだ。多分、用済み」

「用済み?」


 うん、と頷くばかりで錦戸くんは先を話そうとはしない。

 触れたくない話題なのかもしれないと、追求しはしなかった。


 それからしばらく僕たちは黙々と食べ進める。

 互いに、あまり話す方ではないので自然と沈黙が多くなる。


 ふと、錦戸くんの弁当に視線が向く。

 親が作ったのだろうか、肉、野菜、米とのバランスがよく彩も良い。

 どれも美味しそうだと、アスパラの肉巻きに視線を向けると錦戸くんと目があった。


「聞きたいことがあるんだ、けど」


 控えめに錦戸くんが口を開く。


「明日河くん、学校休んでいる間、何してた?」


 何やら思い詰めたような表情をしていたから重い話なのかな、と勝手に想像していたけど、割と普通のことを尋ねられた。


「何って、特別なことは何もしてないよ。最初の一週間は家に閉じこもって、それからはゲームセンターに通いつめてた」

「そうなんだ」


 錦戸くんはそれだけ言うと口をつぐんでしまった。

 ゲーム関連の話を言えば食いついて来ると思っていたが、どうもリアクションが薄い。


「さっきからどうした?」


 不審に思いながら言うと、錦戸くんはしゅんと小さくなっていた。


「最近は、内藤さんたちとは会ってないんだけど。たぶん、明日河くんの代わりにお昼を届けている人がいるみたいなんだ」


 一瞬、苦痛で仕方なかった日々が脳裏を過ぎった。

 学校に戻るということは同時に、お願いという名のパシリが再開されることだとわかっていた。

 ただ、彼らに何か言われるまで無視を決め込むつもりでいた。

 その心配はいつの間にかなくなっていたらしい。


「もう代わり見つけたのか。手が早いな」


 僕は牛乳パックを握りつぶしながら飲みきり、そっとテーブルに置く。


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