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隣で支える小さな影  作者: 柳
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世界は大きくて、とても狭い。21

 

「降ろしてくれ」


 しばらくして風間の意識が回復した。

 怪我の状態を比べるまでもなく、僕の方がまだ軽症だということはわかりきっているので、大人しくしてろ、と何度も言い聞かせたのだが、風間は強情に降ろしてくれと言い続けた。


 仕方なく言われた通りにしてみれば、数歩歩いただけで息は切れ、痛みに顔を歪ませている。そんな状況の風間を放っていられなく手を貸そうとすると、大丈夫だ、と強がりを言う。そんな風間の後ろを黙って付いていった。


「ちょい、休もう」


 強がりが尽きたのか、近くの公園で休憩することにした。

 よたよたの風間をベンチに座らせ僕も隣に座る。

 ほっと息をついていると、視線の先に小学低学年くらいの男の子たち三人が遊具で遊んでいた。

 楽しそうに声を上げ友達の名前を大声で呼んでいた。


「どうしてまた、あそこに行ったんだ」


 風間が口を開いた。

 咎めるような口ぶりだった。


「お前こそ、こんな状態でどうして出歩いたりしたんだ」


 僕も風間に文句を言った。


「あんな危険なことして、上里さんが来なかったら、今頃どうなっていたかわからないんだぞ」

「……聞いていたのか」


 気絶していたからてっきり知らないのだと思っていたが、今思えば目を覚ました風間からは何も尋ねられなかった。

 それも、怪我の後遺症で意識がはっきりしていないのだろうと思っていた。


「余計なこと、だったか?」


 そう言うと、風間は短く、いや、とだけ言葉にした。

 それから僕たちは何を言うでもなく、ベンチに座ったままでいた。

 ジャングルジムで遊んでいた子供たちは、いつの間にかブランコを力任せに漕ぎ、靴を飛ばしていた。

 僕もそんな風に周りの視線も気にしない頃があったなと、思い出していた。

 途切れ途切れの記憶だけど、遊んだいた友達の名前も思い出せない頃だけど、楽しかったって思ったことははっきりと思いだせた。


「本当はさ、全てが終われば良いって考えてた」


 隣に並ぶ風間がぽつりと呟いた。


「辞めたいって、何度も考えてた」


 縛られるものがなくなって、仕方ないと強がる必要がなくなって、ようやく本心を語ってれた。

 その言葉を、抱え続けていた想いを聞き逃したくなくて、僕は相槌も忘れてその声に耳を傾けた。


「何度も顔を会わせていく誰もが痩けていくんだ。身体は細くなっていくのに目だけは強くて、でも、目先のことしか見えてなくて。なんだか、生きてく気力みたいなもんがなくっていくんだ。それを俺がしていると思うと……居た堪れなくて、さ」


 視線を横に向けると風間は辛そうな顔をしていた。


「そっか」


 風間はずっと苦しんでいたんだ。

 家族のためとはいえど、そうせざる環境だっとしても、嫌だって思っていたんだ。


「いつどうなるかわからない暗闇の中で……明日河といる時間だけが、その時だけは不安もなくて。ただ、楽しくて。次の日会っても明日河が普通でいてくれていると安心できたんだ」

「そんな僕から距離をとろうとした」


 あの言葉が結構心に残っていたのか、僕は意地悪くそう言っていた。

 子供っぽいとは自分でも思う。

 だから風間は少し困った顔で、悪い、と零した。


「いつかは別れることになるって、わかってたんだけど最後の最後まで言い出せずにいたんだ」


 俺さ、と風間は続ける。


「友達と遊んだ記憶、ないんだ」


 視線の先で遊ぶ子供達を風間は何処か遠く、なんとなく羨ましそうに見つめていた。


「日高さんたちとはだいぶ前からの知り合いだったけど、友達って関係じゃなくて、どっちかって言うと仕事上の先輩みたいなものだったんだ」


 それは言われなくてもわかっていた。

 あれを友達とは呼べないし呼びたくもない。


「だから、明日河が初めての友達だったんだ」

「だった、じゃないだろ? これからもずっとだ」


 真面目に言ったのに風間は笑う。


「これから、どうしようか」


 そしてぽつりと呟いた。

 稼ぎ口を失って、これから先の不安を語っているようだった。

 例え、助けるためなどと免罪符をつけたとしても、風間の平穏を壊したのは事実、僕であることに変わりはしない。


「勘違いしないでくれ。終わってよかったって思ってるのは嘘じゃない。だからそんな顔しないでくれ」


 僕は今どんな顔しているのだろう?

 確かめたくても鏡はないし、なにより両頬をつねって引っ張られているので原型はもう留めていないだろう。


「身勝手ついでにお願いがあるんだ」


 顔を遊ばれながら僕は言う。


「危険なことは今後一切しないって約束してくれ」


 その答えはすぐ返ってきた。


「わかった」


 はっきりとした口調で、どことなく嬉しそうにそう言ってくれた。


「帰って、おかあに話してみるよ。これまでのこと」


 風間は空を見上げた。


「それから、これからのことを」


 それから風間を家まで送り届け僕は自分の家へと帰る。

 最後に見た風間の顔は傷だらけだったけど、付き物か落ちたようにスッキリとしていた。


 これからどうなるかは今はわからないけど、僕に出来る事ならどんなことだって協力するし、お節介だって焼いていきたい。

 それでも見つからない時は周りの人に頼ればいい。

 一人ではどうもできないことだって、二人だったらなんとかなるかもしれない。

 そうやってぶつかった時は人に頼って助けてもらえばいい。


 だからきっと、大丈夫なんだと思う。


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