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隣で支える小さな影  作者: 柳
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世界は大きくて、とても狭い。17

 

 そんな風間のお母さんが作り出すのどかな雰囲気はこの家にぴったりと合っていた。だからだろうか、まるで田舎の叔母さんの家に居るような錯覚を僕は覚えていた。でも、くつろぐことはできなかった。

 向けられた笑顔を僕は返すことができなく、ただ目を伏せたていた。


「怪我の理由、聞かないんですか?」


 躊躇いながらも僕はそう口にした。

 怪我している理由が僕にあるわけではないけど、なんとなく悪いことをしてしまったように感じてしまう。

 いつ怒られるのかとびくびくしている自分がいた。


「もちろん知りたい」


 答えは直ぐに返ってきた。

 さっきまでのほほんとした口調でなく、はっきりとした声に、僕は恐る恐る顔を上げた。真剣な表情だった。

 でも、その瞳は暖かくて、咎めるものとは違った。


「あの子、そこら辺のことは話したがらないから。だからあの子が話してくれるまで知らないままでいようって、決めてるの」

「そう、ですか……」


 風間がしていることをこの人は知らない。

 だから知りたいと思っていて、その答えを僕は持っている。

 もし、僕が知っていることを全て話したら、どう思うだろうか。

 その理由が自分たちを守るためだっと知ったら、どんな風に感じるだろうか。


 たぶん止めるだろう。辞めさせようとするだろう。

 実際そうする気がするし、そうして欲しいって思う僕の願望がある。

 でもそれを、僕が勝手にしてしまっていいのだろうか。


「どうしたの?」


 話すべきか迷っていると、心配そうに風間のお母さんが僕を見つめていた。


「いえ、なんでもないです」


 結局、言い出せなかった。

 悪事から手を引かせるには話したほうが良くて、きっと大きな力になってくれる。けれどこの時は、この人に心配を掛けたくないと想う気持ちが勝っていた。


「なんでもないんです。僕はこれで」


 大きな秘め事を抱え、隠している居心地の悪さ、後ろめたさから僕は立ち上がった。


「そうなの? 残念。今度は時間の空いた時でいいからいつでも遊びに来てね。おばさん、あなたとお話したいことがたくさんあるの」


 笑顔を向けられると、一層苦しくなった。

 立ち上がるのもひと苦労だろうに、風間のお母さんは僕を見送ってくれた。

 靴を履き、引き戸に手をかけたところで僕はふと振り返る。


「写真、どうして途中で辞めてしまったんですか?」


 並べられた写真は風間が中学二年で終わっていた。

 それが気になっていた。


 犯罪に手を染めても守ろうとしている風間と、息子を心から心配している母親との仲が悪いとは思えなく、そう訊ねた。

 答えは単純だった。


「撮ってくれる人がいなくてね」


 風間のお母さんは写真へと顔を向けた。

 その横顔はとても寂しそうだった。

 話には一度も出てこなかったけど、置いてある写真には写っていないけどきっと風間のお父さんなのだと、思った。


「その年の交通事故で私の足と、お父さんを連れてってしまったの」


 何も言えなかった。

 家族を亡くした人に掛ける正しい言葉が浮かばない。

 暗い話になってごめんなさい、と謝る風間のお母さん。

 そして、


「これからも一樹と仲良くしてあげてね」


 と、別れ際に告げられたその言葉が僕に重くのしかかった。

 持ってきたお金は使い果たしてしまったのでタクシーは使えず、徒歩で帰ることになる。この辺の地理にはそれほど詳しいわけではなく、とりあえず見覚えのある所まで土手沿いをまっすぐ進むことにした。


 川の流れを見ながらも頭に浮かぶのは風間のお母さんの笑顔だった。

 優しい母親だった。

 ただ顔に刻まれた皺が、僕には疲れて見えた。

 多分苦労しているのだろうと思った。


 風間だけじゃない。

 二人で頑張っていたんだ。

 それが崩れるところは見たくない。


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