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隣で支える小さな影  作者: 柳
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世界は大きくて、とても狭い。16

 

 そこで始めて知った風間の家は、僕の家と川とを挟んだ隣町にあった。

 それほど距離があるわけではないので、手持ちのお金で事足りそうだった。


 しばらく車に揺られていると、疲れが溜まっていたらしく、油断すると瞼が閉じてしまいそうになった。まだ眠るわけにはいかなく、必死に睡魔と戦っていると運転手のおじさんに肩を揺すられた。


 大丈夫かい? と心配そうな顔を向ける運転手のおじさんに迷惑を掛けまいと、はい、とはっきり答えつつ、料金メーターを確認し財布を取り出す。

 気を失っている風間を背負う過程にも、おじさんは何度も僕たちに気遣う言葉を掛けてくれた。

 汚れた衣服のまま乗車してしまっているのに、嫌な顔を最後までしなかった親切なおいじさんに、僕は頭を下げお礼を言った。


 タクシーが路地を曲がり見えなくなるまで見送り、左を向けば平屋の一軒家がある。木造の建物は年季を感じさせ、ちょっとした地震が起これば崩れてしまいそうに思えるほど脆く見えた。

 庭へと視線を向ければ長いこと放置されていたのだろう、雑草で埋め尽くされたいた。表札を確認し、ガラスの玄関をノックする。


 そしてしばらく待っていると、はーい、と家の中からくぐもった女性の声がした。僅かな緊張を抱えながら玄関前で待つ。けれど、一向に誰も出てこない。

 足が不自由だと前に聞いていたから不思議ではなかったけど、ただ、もしかしたら起き上がるもの困難な状態なのかもしれない、と脳裏を過ぎる。


 だからといって、いくら友人の家だとしても勝手にドアを開けるのは失礼ではないのかとも思い、反応があるまで何もしないで待った。

 そのままの態勢で待っていると曇りガラス越しに人影が映り鍵の開く音がした。


「どちら様でしょうか?」


 ガラガラ、と音をたてながらドアが引かれると、薄いピンク色のパジャマ姿の女性が姿を現した。風間のお母さんなのだろう。


「あ、初めまして、風間くんの友達です。え……と」


 ここまで流れで来てしまい、挨拶もろくに考えていなかった僕はしどろもどろに言葉を繋ぐ。そんな不審者同然の僕に、首を傾げるつつ風間のお母さんの視線がすっと僕を通り過ぎた。

 そして、少し大きくなった瞳が再び僕に向けられた。


「君が明日河くんなのね」


 事前に風間が僕のことを話していたのか、初対面であるはずの僕に親しみのある笑顔を向けてくれた。優しそうな人だと思った。

 ただ、少し気がかりだったのが、傷だらけの我が子を見ても風間のお母さんは慌てることはなく、驚きも最小限に留めていた。


 もし、僕が同じ状態で母親に出会ったのなら血相を変えて何があったのか、と質問を繰り返すだろう。それが正常な反応だと思うし、それが当たり前だと僕は思っていた。


「上がって」


 そう言って風間のお母さんは背を向け家の中に入っていくと、左脇の松葉杖が目に留まった。

 不自由なのだろう左足を補助するように、慣れた動作で松葉杖を動かしていた。

 その姿が少し痛々しく感じてしまい、直視できそうになかった。


「お邪魔します」


 一歩踏み入れると古い家の独特の香りがした。

 体重を掛けると僅かに沈む廊下を慎重に進んで行くと、棚に並べられた写真の前で足が止まった。


 風間と、風間のお母さんが写っている写真。

 それは一年ごとにあり、この家の前で撮られたものだった。

 照れてる顔に笑っている顔など、様々な表情をしている風間を見るのは新鮮で、成長すると背丈や服装など変化が見られたけれど、ただ一つ変わらないものがあった。

 寄り添う二人距離は幼少期から一ミリも動いていなく、仲の良さが写真を通し伝わってきた。


 その他にも興味を引く物が部屋中にあり、失礼だと思いながらもあっちこっちに視線を漂わせていた。

 そうしている間にも、風間のお母さんは布団を用意し終えていた。


「ありがとうね」


 風間を寝かせると母さんは頭を下げた。

 突然のことにどうすればいいのかと、僕は慌てながら、


「たいしたことはしてないです、頭を上げてください」


 と、言った。

 その姿が可笑しかったのか、微笑みを浮かべた風間のお母さんは目を細めまっすぐ僕を見つめた。


「一樹が言う通りの子なのね」


 その瞳がなんだか気恥ずかしく、くすぐったくて、僕は逃げる様に顔を風間に向けた。風間のお母さんはそっと風間の頭を軽く撫でていく。

 怪我の状態をみているわけではなく、ただ我が子を寝しつけるような動作だった。そうしているだけで風間の表情が和らいでいく気がした。


 その後、風間のお母さんは僕を隣の部屋へと案内した。


「たまに帰って来るとあなたのことばかり話すの。それはもう嬉しそうに」


 風間のお母さんはお茶の入った湯呑を僕の前に置き、正面に腰を下ろす。

 片足に加え、片腕が満足に使えない状態では大変そうに思えたが、慣れているのか危なっかしいところはなかった。


「風間、くんがですか?」

「ええ。同い年の友達が出来たって。少し変わってて面白いって言ってたわ」


 見たところ僕の母親と同じくらいの年齢だと思うが、その仕草は歳を感じさせないくらい若々しかった。


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