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隣で支える小さな影  作者: 柳
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世界は大きくて、とても狭い。15

 

 体育座りの格好でソファーに背を預け眠っていると、布の擦れる音で目を覚ました。風間が目を覚ましたのは、日が昇ってからだいぶ経ってからだった。


「ここは、何処だ?」


 掠れた声に力はない。


「僕の知り合いの家だ。心配しなくていい」


 そう声を掛けると風間の頭がゆっくりと動く。

 微睡んだ瞳は僕ではなく、天井を眺めていた。


「痛いところはないか?」


 風間に問いかける。

 少しでも異常を訴えたら即病院に連絡しなくてはと、スマホを握り締めながら。


「痛み……みんなは、どうなった?」


 傷だらけで、意識もはっきりしていない状態で、まず口を開いたことが仲間の心配だった。風間ならそう言うかもとは思っていたが、実際にその通りになると少しばかり呆れる。


 どの程度まで昨日のことを覚えているかは定かではないが、みんなと言うからには気を失う前の記憶は残っているらしい。

 何が行われていたのか直接見たわけではない僕は想像するしかないのだけど、きっと酷い事があったんだと思う。


 けれど風間は、痛みを訴えることはなく、顔を引きつらせることもない。

 それにはほっとしていた。

 ただ、風間の血の気の失せた不安そうな表情が気になった。


「ごめん。わからないんだ」


 怪我人に余計な心配は掛けたくはないが、僕は素直に伝えることにした。


「僕が駆けつけた時には大勢の人に囲まれてて、みんな倒れていたんだ。意識はなかったと思う。僕だけじゃどうしようもなかったから風間だけをここまで運んだんだ」


 日高さん等の姿がなかったことを伏せながら、僕が見たことと、これまでの経緯を簡単にまとめた。あの後、幸秋の家からは一歩たりとも出ていないし、様子も見に行こうとは思わなかった。パトカーのサイレンはだいぶ前から聞こえなくなっていたから騒ぎは収まったとは思う。


「救急車呼んだから多分大丈夫だと思うけど……って、まだ無理するな」


 話している最中に風間が身を起こそうとした。

 慌てて両肩を押さえつける。


「今は安静にしてないとダメだ」


 体に力が入らないのだろう、そんなに力を入れなくても動かないようにするのは簡単だった。


「このままじゃ……」


 うわ言のように呟く。

 瞼が重いらしく、また眠ってしまいそうだった。

 時計を確認すると九時を少し回っている。

 そろそろいいだろう、と眠ってしまう前に、僕は風間の耳元へと顔を近づけた。


「風間、これから出かけるから、少し痛むかもしれないけど我慢してくれ」

「……何処に?」


 虚ろな言葉が僕に向けられる。


「病院に決まってるだろ。怪我の調子、見てもらわないと」

「ダメだ」


 驚いた。

 力なく垂れていたはずの腕が僕の二の腕を掴んでいた。

 抵抗もできないはずなのに、掴んでいる手には十分な力が宿っていた。


「そんなこと言ってれれないだろ?」

「頼む」


 それっきり風間は眠りについた。

 こんな状況で安心はできないけど、今は大人しくしてもらえると助かる。

 起きている時よりも安らかな寝顔を僕は見下ろしていた。


 打撲と擦り傷だけを見れば、僕がした処置でも十分かもしれない。

 数日間、そっとしておけば治るものなのかもしれない。

 けれど、本人が自覚できないところ、例えば頭を強く打っている可能性だってある。専門のところで診てもらった方が安全なのは考えるまでもない。


 本人の意志など関係なく強引に連れて行ったほうがきっと正しい。

 そうするのが一番だとわかっているのに、僕はまだ決断できずにいた。

 もし無理やり連れて行ったとして、ここまで頑なに拒否する風間が大人しくしているとは思えない。


 多分、目を覚ましたら病院から抜け出すことくらいはやってしまいそうだと思えた。ただでさえ身体の弱い人が集まる場所で、暴れたりしたら周辺の人に迷惑になる。なら一番の懸念であるお金は僕が出せばいい、ということではきっとない。


 お金より、自分の身体よりも優先すべきこと。頑なに拒否するのにはそれなりの理由がきっとある。警察ではなく、具体的に言えば病院の関係者。

 医師や看護師が怪我の状態を診て、障害事件だと結び付ける可能性が万が一にもあるのかもしれない。


 そこから色々と詮索されることを恐れているのかもしれない。

 梃子でも動かないのであればこれ以上無理強いは出来なく、心配は尽きないものの僕が折れる形となった。


 それからしばらくが経ったが、風間は一向に起きる気配はなく、このまま無関係な幸秋の家に迷惑を掛けるわけにもいかないと、意識を失ったままの風間を背負い、玄関へと進み、潰すように靴を履く。


「世話になった」


 見送りはなかった。

 話しを終えると幸秋は二階へ行ってしまい、一度も降りては来なかった。

 多分、出かけてはいないだろうから鍵は掛けなくていいだろう。


 ドアを開けると、前もって呼んでおいたタクシーが玄関先で待機していた。

 後部座席へ乗り込み、運転手に行き先を告げる。

 場所は風間の財布にしまってあった免許証に記載された住所。


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