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隣で支える小さな影  作者: 柳
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世界は大きくて、とても狭い。14

 

 僕はそんな時間も嫌いじゃなかった。

 コーヒーを飲み干しテーブルに置く。


「幸秋。今までのこと、水に流せないかな?」


 これまでの仲違いを解消しようという意味を込め、僕は言った。

 最低なことばかりだった。

 嫌な思いをしたし、恨んだこともあった。

 起きた出来事を忘れることはできないけど、助けてくれた事実は変わらない。


 だから許し許されあうのではなく、少し強引ではあるけど、あの日々をなかったことにして仲直りしたいって思った。そう思えるようになった。

 幸秋は新聞から視線を離しこちらを向いた。


「嫌がらせがなくなったこと、お前はどう思っている?」


 逆に質問で返されてしまった。


「どうって、飽きたんだろ。単純に」


 少なくとも僕はそう考えていた。


「一番に疑われていた制服を盗んだ犯人に、お前の名前が上がらなくなったのはどうしてだと思う」


 幸秋の質問は続く。


「そんなの、ただそこにいたってだけで僕がやったって証拠もないし、もともと僕じゃない。だからじゃないのか?」

「それだけだと思うのか、本当に」


 らしくない真剣な眼差しだった。少し前にも見た気がする。

 その時は頭に血が上っていたからあまり覚えていない。


「世の中は単純じゃない。疑いだって、悪意だって、時間が経てば勝手になくなったりはしない。そんな都合よくは出来ていないんだ」


 幸秋が言いたいことはなんとなく理解できる。

 けど、それはあくまで一例に過ぎなく、全ての事象に当てはまるわけではない。


「そうかもしれないけど、現になくなったんだ。それはおかしいことなのか?」


 そう幸秋に問う。


「お前の知らない誰かが、なんとかしようとしているからだ」

「誰かって、誰だよ」


 会話の始めから、幸秋が何かを伝えようとしているのはわかるのだけど、それがさっぱりわからない。

 僕がどう答えたら幸秋が納得してくれるのかがそもそも見えない。

 混乱するばかりなのに、僕を置いて話は進んでいく。


「静かに、何もしなければ、誰かに恨まれることも、信用を無くすこともなかったんだ」

「もうやめよう」


 どんどん険悪な雰囲気になり始めていたので一旦終わりにしたほうがいいと判断してそう言ったのだけど、幸秋は止まらなかった。


「お前さえ居なければこんなことにはならなかったんだ。すべてを無くすことにはならなかったんだ」


 また、幸秋が感情を曝した。

 そして――。


「僕はお前を認めない」


 仲直りは失敗に終わった。


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