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隣で支える小さな影  作者: 柳
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世界は大きくて、とても狭い。11

 

 目的地のスーパーが見え始めると人の気配がした。


 気付かれないよう注意しつつ、素早く近くの物陰へ自転車を止め身を潜める。

 スーパー裏の駐車場には車やバイクが一ヶ所に溜まり、ライトの光が周囲を照らしていた。

 夜間のグラウンドにも匹敵する光量に当てられた駐車場は、これから何かのイベントでも開かれようといているように煌びやかに映っていた。


 けれど、二十人余りの客でも従業員でもない若者がこの場所を異様なものに変えていた。髪の毛をカラフルに染め上げた人に、帽子に口元を隠すようなマスクを付けた人。

 大型のバイクに跨っている人も数人いた。

 手には光を反射する金属バット。

 不定期に鳴る車やバイクの騒音。


 異様ではあったけれど、僕が想像していた争う様子がどうも見受けられない。

 みんなはまだ来ていないのだろうか。

 もしそうなら、ここに来る前に止めればいい。

 思いのほか簡単に止められそうだとほっとしていると、ポッカリと空いている空間があことに気が付いた。


 倒れている人がいた。

 ヘッドライトに映る服装に見覚えがあった。

 気付かれないよう物陰から物陰へと移動する。

 他人の敷地に侵入してしまっているけれど今はどうだっていい。

 踏み込んでも問題のない最低ラインの距離まで近付き、塀から覗き見る。


「嘘だろ……」


 さっきまで電話で話していた友人の姿がそこにあった。

 ボロ雑巾のようになった服からは肌が露出し、血が滲み、コンクリートには黒い液体が点々としていた。

 足に結ばれた紐じょうのものはバイクに繋がれていた。


 逃げることも抵抗することも出来ない状況で、硬いコンクリートに身体を削られ、打ち付けられ、血を流し、藻掻き苦しむ風間の姿が脳裏で再生されていた。

 そんな非人道的な行いも、思いついたとしても決して実行に移さない残虐な行為も、こいつらは平気でしてしまう。

 超えてはならない人の境界線を無視している。


 許せない。

 でも、そんな奴らに僕みたいな弱者が太刀打ちできるわけもなく、立ち上がることもできないみんなを助けだすことも現状では限りなく無理に等しい。

 だからといって諦めるつもりは毛頭なく、僅かな可能性があるのならそれを繋ぎ、なるべく安全な方法を手繰り寄せていく。

 そうしているうちに激しく打ち付けていた心臓の鼓動は落ち着き始めていた。


 手足の震えもない。不思議な感覚だった。

 あまりに非現実的な光景に当てられた僕の脳が、現実味をなくし映画でも観ていると錯覚しているのかもしれない。

 実際どんな作用が働いているのかはわからないけれど、今は何だっていい。

 僕は迷わずできることをすればいい。見つかった後のことは考えない。

 悲惨な目にあうのがわかりきっているから。


 辺りをよく観察し隙を伺う。

 彼らは増援はないと思っているらしく、煙草を吸ったり談笑したりと油断している。付け入る隙はある。


 スマホを取り出し警察に掛ける。内容はなんでもいい。

 大人数の若者が騒動を起こしている、と場所を告げ電話を切った。

 同様に救急車も呼ぶ。これで準備は整った。


 空を見上げる。

 僅かでも成功率を上げるため、夜空に浮かぶ月が雲に隠れるその時を待った。

 こんな最低な夜でも月は綺麗だった。

 西の空から流れる厚い雲が月が覆うその瞬間、僕は目を閉じて呼吸を整える。

 そして、目蓋の越しでも辺りが暗くるのがわかり早速行動に移す。


 僕の背よりも頭一つ分高い塀を乗り越え、音を立てないように着地しそのまま進む。駐車場に身を隠す物はなく、身を屈めて小さくなり闇に紛れるようにするしかない。それだけでは無謀としか言えない作戦でも、好条件が二つあることが幸いしていた。


 一つ目は、風間が輪の中で一番近くで倒れていたこと。

 二つ目は、明りの強い数台ある車が僕のいる場所からは一番遠くに集まっていることだった。


 注意すべきはバイクの光が届く範囲であり、そこにいる数名の人。

 ギリギリまで小走りで進み、風間から十メートルまで来たところで匍匐前進へ切り替える。


 ここからは更に注意する。

 耳を澄ませながら進んで行くかぎり、今のところ気付かれてはいないように思う。倒れている人間がひとり増えたところで興味を失い警戒を解いている彼らでは認識しづらいのかもしれない。

 視野にも入れていないのかもしれないけれど、油断はできない。

 十分過ぎるくらい慎重でなければならならい。

 失敗は許されないのだから。


 そして確実に前へ進み、ようやく風間の元へとたどり着くと、今までわからなかった異変に気が付いた。

 倒れているのは風間を含めて四人だったが、その三人に見覚えがなかった。

 顔を確認できた人はもちろんのこと、他の二人の体格を見る限り日高さんでも、田辺さんでも、月城さんでもなかった。

 みんなは何処にいったのだろう、という疑問は残るものの、それは後でいいと風間へと視線を戻す。


 軽く体を揺すってみたが反応がなく、気を失っているらしかった。

 怪我の状況は気になるが、今はこの場所を離れるのが最優先だと、顔を伏せたまま繋がれたロープを手に取る。


「来るなって、言ったろ」


 最悪のタイミングで風間は意識を取り戻した。


「喋んな」


 元より時間はない。

 注意も簡単に繋がれたロープへと視線を向ける。

 バイクで引きずられても解けないよう固く結ばれているらしく、人の力では時間が掛かりそうだった。


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