世界は大きくて、とても狭い。9
無い知恵を振り絞って考えていると、いつになく真剣な声が集中していた思考を分断させた。
「どういうい意味だよ」
視線を風間に向け、僕は問う。
「そのままの意味。抜けたいならそうした方がいい。今すぐに」
風間は周囲に誰もいないことを確認するかのように視線を泳がせながら、僕を見ることなく小声で言う。
そんなことをされれば何かあるのかと勘ぐってしまう。
「どうしてそう急ぐ?」
「さっきの会話、どのくらい聞いていた?」
風間が言うさっきの話とは、僕が来る前に話していた内容だろう。
「あんまり」
「近々争いが起こる。その前に」
「だったら風間も――」
風間は首を振る。
「俺には他に行くところが無いんだ。悪事って一度加担したら最後までそこにいるしかない」
「終われせるにはどうしたらいい?」
「潰れるしかない」
「それは、どっちの潰れるだよ」
風間は笑う。
いつか終わる日が来るまで、風間は解放されない。
社会人になって一人前に稼げるようになっても――。
「俺とはもう、会わないほうがいい」
その言葉はまるで、別れの言葉みたいだった。
「どうしてそんなこと言うんだよ? ようやくお前と仲良くなって、これからって時に……」
僕は呟く。
「ようやく親友て呼べる人を見つけたのに」
まだ行ってないところだって、行きたい場所だってたくさんある。
話したいことだって、まだまだあるんだ。
だから――。
「そんな淋しい事、言うなよ。僕たち友達だろ?」
僕の呼びかけにも風間は一切揺れる様子はなく、ただ淋しそうに正面を見つめていた。
「ここにいられないって思えたんならそうした方がいいんだ。きっと」
風間の言いたいことはよくわかるし、心配してくれているのも伝わってくる。
そんなところが好きだったし、見習いたいって思っていたんだ。
でも、それは身勝手だ、僕の気持ちをわかっていない。
僕は立ち上がり、風間と向かい合う。
「なら、どうして僕に声なんて掛けたんだよ」
僕は言う。
「いつかこうなるってお前は知っていたんだろ? そうしないといけないって、お前は思ってたんだろ?」
風間はそういう奴だから。
どんな形であれ、巻き込む前に、巻き込まれる前に僕を遠ざけようとしていたはずだ。それは残酷ではないか。
「だったらあのまま、放っておいてくれれば、よかったのに」
こんなに大事に思えた友達は今までにいなかった。
それが、こんなことで終わりだなんて認めたくない。
けれど、そう思っていたのは僕だけだったらしく、風間は一言、ごめん、と呟くだけだった。
それ以上の言葉を、僕が求める回答を得られることはなく、無言の時が過ぎた。
「今日はもう帰るよ」
僕は言う。
受け止めきれないことがありすぎて、僕は少し疲れていた。
「今日はじゃない、これで終わりなんだ」
頑なに言い含める風間を無視し、財布に常備入れてあるメモ用紙を取り出し、自分の携帯番号を書いた。
「もし何かあったらここに連絡してくれ」
差し出したメモ用紙を見つめた風間はしばらく考え、渋々受け取ってくれた。
きっと、掛かってくることはないと思うけど。
「それじゃ」
何も言わない風間から背を向けた。
ゲーセンを出てそのまま家路へと足を向ける。
僕は選ばなければならない。
これからに関わる大事なこと。
それは今のところ二択だった。
みんなの悪事を受け入れ、全ての異常から目を逸らし風間とともにいるか、みんなと別れを告げ元の生活に戻るか。
答えはほぼ固まっている。
悠長には構えていられない。
家に帰り着き、ベットに倒れ込みそうになる身体を奮い立たせパソコンに向き合い、薬物に関する刑罰を調べてみた。
知っていく度、寒気がした。
失敗は許されない。
それを、風間は知っていて、覚悟している。
軽い目眩がした。
風間は、底が抜けてボロボロ橋の中心で、立ち止まっている。
進むことも、戻ることも出来ず、崩れ落ちるその時をただ待っていた。
そんな風間を安全な道の上で僕は見ている。
なんとかしたいという気持ちが先走る。
情報化社会と言われている現在でも、友人を犯罪から手を引かせる方法は調べても記載されていない。
だからこの問題は僕が考えなくてはならない。
友達でいられる方法を。




