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隣で支える小さな影  作者: 柳
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世界は大きくて、とても狭い。4

 

 その髪も人目を惹くほど派手ではあるが、服装も負けてはいなく、離れていてもすぐに見つけられる自信がある。

 そんな自己主張の強い人とは今までに関わったことはなく、若干の苦手意識はあるものの会話を重ねるごとに抵抗は少なくなっている。

 話しかけられても変に緊張もしなくなった。


「ほら」


 田辺さんが指に挟んだ煙草を僕に向ける。

 多分だが、煙いなーと煙草を見ていたのを興味がある、と捉えられてしまったらしい。勘違いをどう対処しようかと迷っていると強引に白い煙草を渡してきた。


 髪の毛を染めた。耳に穴を開けた。

 それは多少なりとも好奇心があったからだ。煙草の匂いが苦手で、進められても挑戦するつもりはなかった。


「いや、僕、未成年だし……」

「そんなこと気にしてんの? あと数年だろ。気にすんなって」


 田辺さんが言う。


「そうそう。何にも考えず」


 そう言う月城さんの隣には化粧の濃い女性が寄り添っている。

 甘えるように月城さんの胸に頬を当て、幸せそうな笑みを浮かべている。

 彼女なんだと思うけど訊けない。

 一昨日は違う女性の腰を抱いていたから。


「ほら、いっちゃえよ」


 迷っている僕の背を田辺さんが押し、見つめる先には煙草がある。

 身体に悪いと聞いていても、たかだか一本くらいで悩むほどではないかもしれない。少なくともここにいる人はそう思っているのだろうし、僕の気持ちを理解している人はいない。


 それが変だなんて思うことはなく、ここにとってそれが普通のことであり、僕がまだ馴染んでいないだけ。空気を悪くはしたくないが、流されたくない気持ちもあって、でも断る勇気もない。


「言ってなかったけど明日河、肺が弱いんだ」


 背後から聞こえた風間の声が田辺さんの言葉を遮った。


「だから煙草は辛いみたい。この前試してみたけど、やっぱり無理みたいよ」


 そう言いながら風間は僕の手にあった煙草をとり、月城さんに返す。

 一瞬の出来事だった。

 どう反応したらいいのかわからず、僕は固まったまま何も言いだせずにいた。


「そうなんか。悪いな無理言って」


 話は勝手に進み、僕は煙草が吸えない身体だということで収まった。


「そうだ、風間。ちょっとジュース買ってきてくれ。いつものでいいから」


 軽い謝罪を告げた後、田辺さんは風間に言う。

 他の人もそれぞれの欲しい物の名を上げ、聞き届けた風間は無言で外に出た。

 僕はその後を追う。


「さっきは助かった」


 追いついた僕は風間にお礼を言うと、気にすんな、とだけ返された。


「でも、どうしてわかったんだ? 僕が苦手に思ってるって。肺が弱いなんて嘘まで吐いてさ」

「何となくだよ。嫌がってるように思えたからさ。機転が利くだろ?」


 得意げに言いながら風間は笑う。


「明日河が変なこと言わないかとヒヤヒヤしたんだ。俺の嘘がバレるんじゃないかってさ」

「言わせる隙を作らなかったのはお前だろ?」

「そうした方が良かっただろ?」


 風間の言うことが嫌味に感じるくらい当たっていた。

 でも、それを認めてしまうと僕が不器用な人間だと自覚してしまう気がして、せめてもの抵抗として納得していないと言わんばかりに唸った。

 そんな僕をみて風間は笑う。


「なんだよ」


 不機嫌だと伝える口調で言えば、悪い悪い、と口では謝罪を述べてはいるものの、風間は笑うことを止めようとはしなかった。

 実際に、風間の言う通りではあった。

 僕が何か余計なことを言えば、そこから嘘が露見していた可能性があった。


「明日河は嘘下手そうだしな。少しくらい嘘を言えるようになった方がいい」


 笑いを収め、真面目な口調で風間は言う。


「お前は反対のこと言うんだな。嘘が必要だって」

「そうだと思わないか? 嘘をつかなければそこら辺で争いが起こる。太ってる人、ブサイクな人、嫌いな人になんて言えばいい? 嘘言うしかないだろ」

「極端なんだよ。そりゃ嘘も大事な時もあるだろうよ。けど、なるべくなら嘘は吐きたくない。僕はそう思ってる」


 言い終えると風間は意地悪そうな笑みを僕に向けていた。


「なんだよ。別に変なことは言ってないだろ? 僕はただ事実をだな――」

「いいんじゃないか。俺はそういう明日河が好きだな」


 何も言い返せなかった。言い返す言葉が浮かばなかった。

 人から好意を向け慣れていない僕は改めて知ることになった。

 同性であっても好きなんてはっきり言われれば照れる。

 思考も鈍くなり、無防備になった僕を風間はからかい、遊ばれているのだと自覚をしながらも嫌ではなかった。


 買いに行くなら外に出る必要があると思っていた僕は、店のカウンターの前で首を傾げる。けれど、その疑問もすぐに解けた。

 風間は迷うことなく小型の冷蔵庫から頼まれた飲み物を取り出す。

 同様にカウンターの裏で頼まれたものを探していく。

 頼まれたものはバラバラだったが、どうやらこの場所で手に入れられるものだったらしい。店員不在の為、風間は勝手にレジを開き支払い分を入れた。


「金は預かってきたのか?」


 僕も風間に習って適当に飲みのもを取って値段分をレジに入れる。


「なんのことだ?」


 言葉が足りなかったのか、風間が不思議そうに僕を見ている。


「だって、それお前の財布だろ?」


 風間は少し間を置いて、これでいいんだよ、と言い、頼まれた物が入ったビニール袋を持ち来た道を引き返す。

 何気なく言った言葉が何処か引っかかった。


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