世界は大きくて、とても狭い。3
僕のことを言っているように感じて、居た堪れなくなった。
最初に出会った不良が悪人だった。
人を人とも思わない最低の人間だった。
それが全ての原因――とは言えない。
出会う前から不良と呼ばれる人はそういうものだと僕は思っていた。
そういう人種なんだと決め付けていたからこそ避けていた。
〝君もそんな目をしているよ〟
そう言った小太りくんの言葉が脳裏に蘇る。
偏見の目が嫌いなのは僕も一緒だったはずなのに、今でも治っていない。
僕は何も変わっていない。
「悪い、こんなこと話したかったんじゃないんだ」
目の前の人は世間一般からしたら不良かもしれないが、出てくる言葉は普通の人と何も変わりはしない。
それどころか、彼は僕よりもずっと善人で傷つきやすい人に思える。
疑うことしかできなかった自分が無性に嫌になった。
だから、今からでも偏見で人を見るのはやめようと思った。
「ごめんなさい」
僕は大きく頭を下げた。
突然のことに風間は小さく驚いた声を漏らしていた。
「風間さんの言う通りなんです。僕もそういう、偏見の目で見てました。風間さんの言う嫌いな人間と僕は同じなんです。そういう自分は嫌いなのに」
「いいって、気にしてないからさ」
風間はあくまで軽い口調で、気にしていない、と言い、無害そうな微笑みを僕に向けた。無理して気遣っているようでも、嘘を吐いているようにも見えなかった。
嘘は言っていない。
でも、あの悲しい呟きは本心だと思った。
だから許されていいとは思えなかった。
きっと、僕は今日のことを引きずる。
いつの日も思い出して忘れられなくなって、後悔していく。
無性に変わりたい、と思った。
「それより、学校には行かなくていいの?」
場の空気が重くなったのを感じ取ったのか、風間は不意に話題を変えた。
今は行きづらくて、と僕は言葉を濁すと、沈んだ空気を一新するように明るい声が耳に届いた。
「だったらさ、一緒に遊ばない? みんないい人たちだから」
なんの気なしに誘った軽い言葉が、大きく僕を揺さぶった。
誰かから遊びに誘われるのは久しぶりのことで、こんなにも嬉しい言葉だったことを、僕は忘れていた。
「はい」
迷うことなく、僕は返事をした。
風間という人のことをもっと知りたいと思えた。
「同い年なんだからさ、敬語はやめようよ」
風間は人懐っこい笑顔で僕を見る。
「そうだね。よろしく」
「こちらこそ。じゃ、行こうか」
その後、ビリヤードの一角に陣取っているグループと顔合わせした。
風間の言った通りみんな気さくに、簡単に受け入れてくれた。
信じてみようと思った。
打算的な付き合いじゃなく、ただの友達として。
それから風間一樹と遊ぶようになった。
数日の間は彼らに対し壁を作っていたものの、一緒にゲームをしたり、他愛ない話しをしているうちにぎこちなさは多少取り除かれていった。
退屈だった昨日までが嘘みたいに感じるほど楽しい日々が続いた。
特に、風間と一緒にいると時間が過ぎるのが早く感じた。
同い年というのもあって、僕たちの距離はあっという間に縮まった。
古くからの友人のように信頼することができた。
勧められるがまま髪を金髪に染め、ピアスを付けた。
身体に穴を開けることに抵抗はなかった。
外見を派手にすると、不思議にもみんなとの距離が近づいていくような感じがして、自分が違う人間に生まれ変わった気がした。
今日も僕はゲームセンターの奥へと足を向ける。
スポーツエリアの一番端にある、部屋もどきの場所にはソファーやテーブル、棚や冷蔵庫にテレビまであった。もうここで暮らしていけるんじゃないかと思えるくらい生活に必要なものが揃っている。
けれど部屋と呼ぶよりは、休憩所と言ったほうが適切かもしれない。
入口の扉はなく、誰でも簡単に入ってこられるうえに、遊びに来た人たちからは僕らが何をしているのか判断できるくらいに隙間が空いている。
一応ベニヤ板で壁を造ってはいるが、ちょっとした衝撃があれば崩れてもおかしくはない状態だった。
そんな部屋にも換気扇があり、朝から晩までフル稼働している功労者なのだが、音だけは一丁前で働いていると主張しているくせに、回転が遅くあまり換気の意味をなしていない。
煙草の匂いにも少しは慣れたつもりでいたけど、耐性のない僕にはただの煙であり、肺に入れば軽く咳き込む。換気扇から一番遠く、入口付近の煙があまり来ないところが僕の居場所になった。
「やるか?」
いつの間にか、目の前に髪の毛の半分程を金髪に染め上げた男が僕の前にいた。




