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隣で支える小さな影  作者: 柳
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世界は大きくて、とても狭い。2

 

 振り返ると面識のない男が店長と向かい合っていた。


「ああ、そう、風間くんの友達?」

「そういうことにしといてください」


 二人は親しい間柄のようで言葉遣いは軽い。


「わかったよ。でも、この間のような問題は起こさないでよね」


 彼の、どの言葉がきっかけになったのか、店長はそれ以上追求をすることはなく、それどころか、楽しんでいってね、と言葉を残し背を向けた。

 風間、と呼ばれていた男は店長に向け軽く頭を下げていた。

 警察官の職務質問にも似た窮屈な時間からようやく解放され、ほっと息をついた。


「こんなとこで何してんの? って、遊んでんだよな。学生?」


 僕を助けたその人は店長が座っていた椅子に腰を下ろす。

 口の端のシルバーのピアスが目についた。


「あ、いや……」


 助かったと思ったのも束の間、店長から不良に入れ替わった。

 厄介でいえばさして違いはない。


「俺は風間、気軽に呼び捨てにしていいから」


 風間と名乗った男の口調は軽く、親しみやすく感じた。

 が、助けてもらった恩は感じていても、こっちとしてみれば名前も知らない赤の他人の関係を望みたい。理由はさっき見かけたビリヤードにいた不良の一人だから。


「そんな警戒しなくても取って食いはしないよ。って、こんな見た目じゃ警戒もするよな」


 言われた通り警戒してるし、かかわり合いになりたくないと思っている。

 不良という輩は自分勝手やりたいように振るまい、他人に迷惑をかけることもいとわない存在で、関われば何かしら害を及ぼす存在だということを嫌と言うほど知っている。現に、上級生たちは自分が楽をするためだけに僕を暴力で従わせていた。


「どうして助けてくれたんですか?」


 会ったばかりの人に対し抱いた疑心と嫌悪感を悟られないよう注意しつつ僕は口を開く。


「ん? 余計なことしたか?」

「いえ、助かりました。もしあのまま未成年者だって知られたら学校に連絡されたかもしれませんから」


 感謝していると僕は軽く頭を下げた。


「学生、ね。あの店長なら面倒だからそんなことはしないと思うけど。ちなみに、俺と店長は昔からの知り合いだから多少は融通が効くんだ」


 身内贔屓みたいなものだろうか。

 友達という言葉だけの曖昧な理由で店長が身を引いたのはわかったけど、まだこの人が僕を助ける必要性は語られていない。


「もうひとつ、訊いてもいいですか?」


 知らないままでもよかったのに僕は尋ねていた。無償で他人を助けるような物好きはいない。だからきっと裏がある。


 下手に逃げ出して余計な騒動はごめんだ。持ち金で勘弁してくれるなら上々。

 それ以上を要求されたら死ぬ気で逃げよう。


「おういいぞ。あと、そんなかしこまんなくていいから」


 風間はあくまで親しく、軽い物腰で僕を受け入れる。

 疑われているなんてこれっぽっちも思ってはいなさそうだった。


「すいません、初対面の人とはこういう話し方になってしまうので」

「そんなもんなのか。で?」


 風間が先を促す。

 それに押させるような形で僕は口を開いていた。


「僕と、風間さん、でいいですかね? 初対面だと思うんですけど、どうして助けてくれたんですか?」


 最低限の覚悟を胸に秘め、いつでも逃げられるよう身構えておく。

 善意の裏側、偽りの仮面が剥がれ落ちる瞬間を固唾を飲んで待っていた。


 けれど、その瞬間は一向に訪れない。

 目の前の不良は、僕の質問が難しい問題であるかのようにしばらく考え込み、その後、答えが見つからなかったのか少し困った顔をしていた。


「どうしてもなにも、理由が必要なのか?」


 不思議そうに尋ねるその言葉は、まるで人が困っているなら助けるのが当然だと言わんばかりだった。

 予想していた言葉とは真逆の答えに返す言葉が見つからない。


「理由がないと助けちゃいけないのか?」


 そんな僕に風間が問う。


「そうじゃ、ないんですけど………」


 嘘なのか、それとも本心なのか判断できない。

 いや、そもそも決める必要はないんじゃないか?

 このまま、感謝を告げて終わりにすればいいだけのはずなのに、僕は何を期待しているのだろうか。


 この人とは名前を知るだけの赤の他人であればそれでいい。

 何処かでばったり出会ったとしても、気付いていないフリをすれば問題ない。

 そう決めて、ここから離れようとした。


「そっか、そうだよな」


 けれど、どこか淋しそうに呟くその言葉が僕の決断を遅らせた。

 常に軽い口調で話し続けていたからか、少し声のトーンが落ちただけで落ち込んでいるように聞こえた。

 そして、顔を上げ風間は笑った。


「俺らみたいなんかとは関わり合いたくないよな?」


 乾いた笑が痛々しく、僕は視線を落としていた。

 悲しそうに同意を求めるその言葉には、自らが近寄りがたい存在だと知っていると告げていた。

 けれど、そうだとわかっていたとしても、見た目だけで理不尽に距離を置かれているのは彼にとっては辛いことなんだと思う。

 不良と呼ばれる人であっても、避けられれば傷つくのだと。


「よくさ、人間見た目じゃないって綺麗事言う奴らいるけど、俺はそう言う奴が嫌いだ。俺らのこと何も知らないのに不良って括りでまとめちまう。そいつが、どんな性格してんのか知ろうともしないんだ」


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