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隣で支える小さな影  作者: 柳
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世界は大きくて、とても狭い。

 

 慣れてきたと感じていた日常は、しかし僕の心に何らかの悪影響を与えていた。

 食事が喉を通りにくくなり、体力が低下した。

 目眩が頻繁に起き、倦怠感に包まれる。

 次第にベットから起き上がる気力がなくなっていった。

 学校という場所がストレスの塊になり、居るだけで心を蝕む毒なのだと自覚した。


 学校を休んだ。

 次の日も、その次の日も。

 部屋に閉じこもる生活を一週間続けた。


 学校へ休みの連絡は毎日した。全部風邪で通した。

 最初は難なく騙せたが、何度も同じいい訳を続けていれば、流石にサボりじゃないかと担任に怪しまれるような発言が出てくるようになった。

 別にバレたっていい。悪いことをしているわけじゃない。

 そう開き直り、嘘をつく覚悟をしていれば自然と言葉は出てきた。

 いずれは直接話すことになるだろうが、その時が来るまではこのままでいようと決めていた。


 学校へ行かなくなりストレスを感じなくなったが、代わりに退屈が覆いかぶさった。これといった趣味のない僕に、無計画に湧いて出た自由な時間を突然与えられてもすることがなく、ただ持て余していた。学校は嫌いだが、それでも授業を受けている方が楽だとまで思うようになっていた。


 部屋に閉じこもり続ければ息が詰まり、僕は外に出た。

 久しぶりに見た太陽は眩しく、平日の景色はとても新鮮だった。

 人は疎らで、目に映るのは大人ばかり。

 のんびりと歩いている人は少なく、どこか忙しそうだった。

 目的もなくふらふらしている僕だけが浮いている気がして、逃げるように近くにあったゲームセンターに入った。


 考えもなく足を踏み入れたが、意外にもこの場所は僕にとっては最適だった。

 暗い店内は顔を隠すにはうってつけであり、平日の昼間となれば人も少ない。

 ようやく落ち着くことができた。


 とりあえず軽く見て回ると、一階にはプライズゲームやメダルゲームが並び、奥にはスポーツエリアがあり、二階に上がればシューティングゲームやパチンコなんかもあった。

 客は中年のおっさんや二十代の若者がいるくらいだった。

 その誰もが自分の世界に入り込んでいるようだった。

 目的もなく目に付いたものから手を付けていけば、いつの間にか昼の時間をとうに過ぎていた。


 自動販売機のカップラーメンを買って店内で食べることにした。

 その時の気分でシーフード味を選び、備え付けのお湯を入れたところで箸が空になっているのに気がついた。

 お湯まで入れて箸がないなんて、と不満と文句を店員に浴びせた帰り、嫌な声を聞いた。スポーツエリアにあるビリヤードの周辺で下品な笑い声を響かせる集団がいた。


 スポーツ関係のエリアにはもともと行く予定はなく、なるべく近づかないように注意しておけば危害はない。触らぬ神に祟りなし、目を付けられなければただの煩い一般人。


 けど、長居はできそうにない。

 せっかく見つけた暇つぶしの場をみすみす手放したくはなかったが、どんな切っ掛けで衝突するかわからない。

 ああいう輩の理不尽さ、言葉が通じない人だということは学んでいる。

 だから今日一日だけと決めた。


 スポーツエリアから一番距離のある二階の奥へと足を伸ばし、次は何しようかな、とぶらぶらしていると懐かしいゲームを見つけた。

 ゲームというものにまだ興味を持っていた頃、時間を忘れるほど熱中したソフトがある。その続編が出ていたらしい。

 早速プレイしてみると内容も昔とあまり変わっていなく、昔を思い出し、どんどんのめり込んでいった。


「ちょっといいかな?」


 ゲームをしている間も周りに気を配らなければならないとわかっていたはずなのに、いつの間にか自分の世界に入り込んでしまい、近づいてくる人の気配に気付けなかった。嫌な予感を抱えながら振り返ると、文句を言った店員とは違う、頬の痩けた長身の店員がいた。


「楽しんでるとこ悪いんだけど、少し時間いい?」


 隣の椅子に腰掛けたその店員は、僕の顔をじっと見つめそう言った。

 頭のてっぺんから爪先まで見定めるかのような眼差しを向け、再び視線が合う。

 その動作の意味を理解した僕は慌てて俯いた。


「僕ここの店長なんだけど、何か身分を証明するものある?」


 いくら店内が暗くてもしばらく経てば目は慣れる。

 それが従業員となれば僕よりも薄暗さには慣れているだろうし、なにより店長ともなれば未成年者を見分けるのに長けているのだろう。

 疑われているなんて曖昧なものではなく、確信しているから声を掛けた。


「君、聞いてる?」


 黙っている間にも店長の瞳に不審の色が広がっていく。

 早く、何でもいいからこの場から逃げる口実を見つけ出さなければ面倒なことになる。未成年者だと知られてしまえば学校に連絡がいくかもしれない。

 最悪、親に連絡がいってしまうかもしれない。

 焦れば余計な考えが邪魔をして、言い返しが思いつかなっていった。


「そいつ、俺の連れです」


 聞き覚えのない声が少し離れたところから聞こえた。


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