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隣で支える小さな影  作者: 柳
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友達とは。6

 

 のんびり階段を降りる僕の横を二人の男子生徒が二段跳ばしで駆け下りていく。

 購買パン目当ての人だろう。

 基本的には弁当を持参している人が大多数であり、僕もその内の一人だった。

 それ以外の人は、一階の開けたスペースに出向き、そこで開いているパン屋を利用する。


 出張パン屋といえど立派なものではなく、売り子のおばさんと手伝いらしい三十過ぎの男の人の二人で、毎日決まった量と種類のパンを売り場に並べる。

 それだけでも、弁当を用意できない学生にとっては重要な食料原になっていた。

 見たことはあったけれど利用したことはなく、自分が参加することになるとは思ってもみなかった。なるべくなら近寄りたくない場所ではあった。


 この時間帯に限り、そこには秩序や規則はなくなり無法地帯と化した広場となっている。律儀に並ぶ列などなく、ただ騒々と群がる生徒。

 しばらく後ろで様子を見ていたが、いっこうに静まる気配はなく、このまま眺めていても仕方がないので無理矢理飛び込んでみた。


 ただパンを買う、という行為がこれほどまで大変だとは知らず、予想以上に困難を極めた。何処からともなく現われる肘が体を突き刺し、油断していると爪先を踏まれる。痛がる余裕もなく、ただ流れに逆らうように突き進む。


 苦労の末ようやく手にしたのは、コロッケパンにソーセージパンが一つずつ。それから、ジャムパンとクリームパンがそれどれ二個。飲み物は紙パックの牛乳が三つ。腹を満たすには数が少なく、なりより甘い。

 売り物の中には惣菜パンも多数あるが、人気のものはすぐに完売してしまう。


 初日とはいえ、頑張ってこれだけしか手に入れられなかった。

 けど、あまり気落ちはしていない。

 パンの指定はなかったし、なにより自分が食べるわけではないから。


「なんだよ、こんなんしかないのか?」


 届けに行くと文句を浴びせられた。


「甘いのは嫌い。腹の足しにならない」


 長髪の上級生はそう言いながらもパンを受け取り袋を開け食べ始める。

 文句があるなら食べなければいい、などとは口が裂けても言えない。


「次は頑張ろうね、明日河くん」


 茶髪の上級生が馴々しい態度で僕の肩を組む。

 僕はただ頷くしかなかった。


「キミには期待してるんだから、期待を裏切らないでね」


 作り笑顔を向け、肩をたたくと僕を解放した。

 難題を押し付けられた。

 このまま残念な結果が続けば暴力を振るわれるかもしれない。


 次の日、僕は授業が終わるのと同時に教室を出た。

 機嫌が悪ければ何をされるかわからない。

 逆に、納得するものを用意すれば何もされない、ということになる。

 広場まで走ってきたが、それでも昨日ほどではないにしろ人で溢れていた。

 時間も距離もたいして変わらないはずなのに、この差はなんなんだと思った。

 不思議に思いつつ群れに交じる。


 急いだのが功をそうし、昨日よりはマシな物を手に入れはしたが、上級生たちはそれでも満足しなく、言葉の圧力を掛けられ続けた。

 僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 理不尽だと思っても努力を認められなくとも、暴力を振るわれるよりはマシだとポジティブに考えるようにしていた。


 そうして一週間が過ぎた。

 彼らが喜ぶほどの成果は未だにあげられてはいない。

 けれど、どうすれば彼らの機嫌を損なわせずに済むのかはわかるようになってきた。それと同時に、僕が話のネタにされることは無くなっていた。


 興味が失せたのか、単に飽きがきたのかはわからないが、遊びという名の嫌がらせは潮が引くようになくなっていた。

 実行犯の井口さんが何もしてこないのも大きいのだろう。

 遊び道具としての魅力がなくなった僕は、居ないものとして扱われた。


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