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隣で支える小さな影  作者: 柳
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友達とは。5

 

 午後の授業が終わり放課後になると、不思議と痛みは感じなくなり、身体の各部に若干の違和感が残る形となった。

 手加減されていたからなのかはわからないが、身体というものは意外と丈夫にできているらしい。

 幸い保健室のベットにお世話になることもなく、いつも通り過ごせていた。


 問題は心の弱さだった。

 家に帰り着くと真っ先に風呂へ行き、念入りに身体を洗った。

 汚れとともに何もかもを洗い流したかったが、いくら擦っても赤く腫れ上がった傷は残っていた。

 夕飯の時間になっても食欲はなく、少量の食事を取り早めに眠りについた。


 最低の一日だった。

 昼の出来事が蘇る度、身体が震えた。

 たった数日で世界が変わってしまった。


 こんなの望んでいなかった。

 贅沢なことだって考えたことなかった。

 何もない平凡な毎日で満足してたんだ。


 もうあの頃には戻れない。

 何もかも、変わってしまった。

 だから、夢の世界へと逃げ込んだ。



 高校に入学したての頃、不良グループがいるということを誰かが話していた。

 興味はなかったが何となく聞いていた。

 日頃から身なりや生活態度の悪い彼らを、教師たちは注意深く監視していた。

 けれど、いくら時が経とうと彼らは騒ぎになるような問題を起こそうとはしなかった。

 他生徒への悪影響は多少あるものの、校則違反ではないため処罰は下せない。


 追い出す口実が掴めず、いつしか彼らは教師にとって手に余る存在になっていったらしい。この話を持ち出すのは決まって校則を守ることを絶対と考えている暑苦しいのが特徴の教師らしく、それに賛同するのはたかだか二、三人。

 もし、その教師みたいな考え方をしているのが大多数だったのならば、何かしらの対策をこうじていたのかもしれない。


 けれど現状は多少の乱れなら見て見ぬ振りをしていた。

 その話を聞き終えた僕は関係のない話だと思っていた。

 頭の片隅に置いたまま消えかけていた話が今になって掘り起こされた。



 起きてしまったことを無くすことは出来なく、また、嘆いたところで何も変わりはしない。いくら助けを求めてもヒーローなんていないことは、この数日で散々思い知らされた。


 学校で起きた問題ならば、教師に相談するのが最も有力で確実なのだろうけど、こんな話を思い出してしまった後では、教師に助けを求めたところで何も解決しないことはわかりきっている。

 考えるまでもないが、自分自身の力でどうにか出来るわけもなく、出来ていたのならとっくにしている。


 もし、こんな絶望的な状況になったのが僕ではなく、幸秋に降り掛かったのならこんなに悩まなくてもよかった。

 幸秋なら難なく解決してしまうのだろう。

 相談すれば何かしらの策を与えてくれるかもしれないが、頼ることは絶対にしない。一番の裏切り者に助けを請うことだけはしたくない。


 どうにか上級生と関係を切れないものかと考えていると、いつの間にか周りが制服ではなく体育着に着替えていることに気が付く。

 二時間目はすでに終わっていて、もうすぐ三時間目の体育の時間になろうとしていた。残り少ない休み時間の間に着替えなくてはならなく、慌てて制服を脱ぐと、昨日まではなかった小さく薄い痣が太ももにあることに気が付いた。

 それを偶然なのか、まだ残っていたクラスメイトに見られた。


 何も言ってこなかった。

 僕の身体を気遣う人はここには居ない。

 着替え終われば教室に僕だけが残った。


 日差しが僕の手元を照らしていた。

 何気なく窓越しに空を見上げれば、雲一つない晴天が広がってた。

 目の前の空はこんなにも綺麗なのに、僕がいる世界は複雑に歪んでいる。

 温かさなど上辺だけで、本心は冷たいものだということを身を持って教えられた。


 知って学んで理解した。

 それでも、そうでない人がいると思いたい馬鹿な自分がまだ心の何処かに残っていた。


 体育が終わり、これといった対策も思いつかないまま昼休みになっていた。

 このまま机にかじりついていても問題が勝手に解決するわけはなく、無視しようものならどんなことになるかわかったものではない。

 重い腰を無理やり立ち上がらせた。


「ねえ、昨日のはちょっとやりすぎだったんじゃない?」


 ふと、教室に残っていた女子の会話が耳に入った。


「思いついたこと片っ端からやってるだけ。でもあんなん生ぬるいのじゃダメ。もっと苦しんでもらわないと」


 あまり耳にしたくない人の黒い部分から意識を逸らし僕は教室を出た。

 人物や経緯はわからないけれど、気持ち悪い奴に対し嫌がらをした話をしていたらしい。少し前までイジメなんてテレビの中だけの話だった。

 その当事者となって、それが身近にあるのだと知った。

 する側の人間がいるならされる人間が必ずいる。

 何処かの誰かさんが酷いイジメを受けていると耳にしても、可哀想とは思わなかった。


 僕だって同じだから。

 他人のことなんて考えている余裕も、時間も、僕にはないけど、ただ一つだけ気がかりなことがあった。話をしていた集団が僕に嫌がらせを行っていた女子だったこと。


 そういえば、いつの間にか嫌がらせがなくなっていた。

 標的が変わればなくなるものなのだろうか。

 そんな単純なことではないと思うが、余計なことは考えないほうがいい。

 ようやく静かになったんだ、自ら呼び起こすことはない。

 下手に首でも突っ込めばどんな因縁をつけられるかわからない。


 だから無視した。


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