友達とは。4
でも、思ってしまった。
彼はずっと一人だった。
たくさんの人がいる学校の中で彼は独りきりだった。
体育の時間、二人でチームを組むと彼だけが自然にあぶれ、同じく相手が見つからなかったクラスメイトからは露骨に嫌な顔を向けられていた。
席替えがあると、彼の周りをみんなが避けた。
みんなが彼を嫌っていた。
理由はわからない。
僕は彼のことはよく知らない。
一緒に行動をとっていても、表面だけ取り繕った偽物の関係だったから。
もしかしたら一言も口を開かない日もあったのかもしれない。
誰とも目を合わせない日もあったのかもしれない。
そんな場所で、唯一付き合いがあったのは、彼を使うことでしか利用価値がないと考えている上級生だった。
そんなの、他人よりも酷い関係じゃないか。
そんな彼が僕に話しかけた。
彼と同じ経験をした僕に……。
自分と同じ境遇を辿り、同じ苦しみを味わった僕となら、もしかしたら友達になれるんじゃないかって思ったんじゃないだろうか。
偏見もなく蔑むことのない、どこにでもいるような普通の友達に。
傷を分かち合えるたった一人の友達に、資格のある僕だけがなれたのかもしれない。
けれど、僕はどこまでも彼を馬鹿にしていた。
言葉にはしたことなかったけど、思ってしまったことは隠そうとしていても自然に出てしまうのかもしれない。
そうした僕が、身体的特徴だけで中傷され続けられていた彼をさらに傷つけていたのかもしれない。
小太りくんが僕に期待を寄せていたほど、その反動が彼を落胆させたのかもしれない。それでも小太りくんは諦めなかったんだと思う。
最後の最後に僕を試した。
上級生の言うことに従っていれば、これまで通り一緒にいることができる。
それが普通とは言えなくても、例え歪んでいたとしても、友達になれるんじゃないかって。
小太りくんは言っていた。
これは悪い話じゃないと。
「僕の一番嫌いな目をしている君のことを友達だって、思えるわけないだろ」
最後にそう告げると小太りくんは僕の前からいなくなった。
誰もいなくなった部屋で僕は立ち尽くしていた。
握りしめたこぶしはいつの間にかほどかれていた。
小太りくんに対する怒りはもうない。いや、初めからなかった。
だって、信用なんてしてなかったのだから。
「気付かなければよかった」
そうすれば全ての責任を、悪意を、怒りを彼にぶつけられたのに、それが出来ない。小太りくんの言っていた事が全て本心だと思い込むことは出来る。
上級生に言われ、ちょうどいい存在だったから、僕に声をかけたんだと結びつけるのは簡単だった。
でも、初めから僕が蔑んでいたとわかっていたのなら、利用するためだけに近づいてきたのだとしたら、あんなにも落胆し、落ち込んだ表情をする理由が見当たらない。
もし、僕が少しでも小太りくんに向き合っていたのなら彼の真意を見抜けたのかもしれない。それが悪意だったとしても、好意によるものだったとしても、納得出来ていたのかもしれない。
少なくともここまで嫌いにはならなかった。
自分が、どれだけ愚かで惨めな人間だったということを自覚せず、自己嫌悪に浸ることもなかった。
だってそうだろ?
僕は彼の名前だって知らないのだから。
それで友達だった?
本心は隠したまま、上辺だけで語り合う関係をそう呼ぶのなら、他人だって友達だ。
僕は利用していた。
都合のいい言葉として、思ってもいないことを盾にして、自分が正しいのだと友達という言葉を利用した。
笑うしかないだろ。
助け合うはずの関係が、面倒事を擦り付け合う汚いものに変えてしまった。
大切だと言っていた自分が、友達という言葉を軽んじていた。
どこから間違ったのだろうか。
その答えもわからないまま、教えてくれる人もいない。
まさに自業自得という言葉がよく嵌る。
崩れた制服を直し、足跡や砂を払って教室に戻った。
これ以上はないであろうドン底の気持ちを抱え自分の席に着いてみれば、ここはいつもと何も変わってはいなく、さっきまで起きた出来事は悪い夢を観ていたようにすら感じる。けれど、体中の痛みが夢ではなく現実だと思い知らせる。
彼らは何も起きず、僕だけが最悪の状況へ転じているだけだった。




