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隣で支える小さな影  作者: 柳
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友達とは。2

 

「さて、紹介は終わりだ。あまり長くなるのは嫌だから手短に話すよ」


 名前も交わし合っていないのに紹介? と疑問に思っていると背中を叩かれ心臓が跳ね上がった。

 隣を見ると、最初に話しかけてきた茶髪の上級生が微笑んで僕を見ていた。

 その口の隙間から覗く青白い歯が気持ち悪かった。


「キミは彼の友達だ、そうだね?」


 上級生はちらりと小太りくんに向け、再び僕へと戻す。

 質問の意味もよく理解しないまま僕は、はい、と答えていた。


「いい返事だ。それともう一つ、友達は友達を助けるもんだ、違うかい?」

「……そう、ですね」

「なら話が早い。よかったよ物分かりのいい子で」


 上級生は僕を置いて淡々と話を進めていく。

 向けられる笑顔から滲み出る嘘臭さに、良い人であろうとするかのような振る舞い。嫌な予感が膨らんでいく。


「簡単に言うとね、キミにお願いしたいことがあるんだ。お願いっと言っても難しいことじゃない。ただお使いを頼みたいだけなんだ」


 言い聞かせるようにゆっくりとした口調で僕に言い聞かせる。

 容姿を除けば一見無害そうな人達に見えなくもないが、部屋に充満する煙草の匂いがこの状況の異常さを知らせていた。


「彼は優秀だった。オレらが言うことを何だって聞いてくれるし文句も言わない」


けど、と上級生は続ける。


「残念なことに彼には能力がない。要領が悪い。一生懸命なのは伝わってくるんだけど結果が悪ければ意味がない。彼にはもう期待しないことにしたんだ。期待したところで無意味だからね」


 散々な言われようにもかかわらず、小太りくんは恥ずかしそうにへへっと笑っていた。暴言に慣れているのだと思っていたが、それが苦笑いだと視線を向けて知った。瞳は俯き気味に、無理して張り付けた笑みが何とも痛々しい。


「だから、キミがその代わりを務めてもらいたいんだ。とりあえず、毎日オレらにパンとジュースを買ってくるんだ。それから始めよう。何か質問はあるかい?」


 質問……。


「え……あの、どうして僕が?」


 ようやく口を出た声は、自分のものではないかのように情けなく弱々しいものだった。初対面に近い年上の、しかも恐怖を覚える分類に入る人に向かって言葉を発する、たったそれだけでも少なからず勇気が必要だった。


 そのことをよく理解しているのだろう上級生は、精一杯僕を恐がらせまいと、信頼を向けるような笑みを作っていた。

 たとえ嘘の演技であっても恐怖心は少なからず緩和され、多少の怯えはあるものの自分を保っていられた。


 でも、僕の言葉がその仮面を曇らした。


「話聞いてたよね? 理解出来るよね?」

「聞いていますが、お願いとはちょっと違うような……」

「始めは慣れないかもしれない。だけど、そのうち身についてくる。そんなものなんだよ。だから心配しなくていいんだ。キミはオレらの言うことを忠実に聞いていれば何も心配しなくていい。わかってくれたかな?」


 言葉の意味も、何を言いたいのかも理解していた。


「でも――」

「でもじゃないんだ。わかったらはい、と答えればいい」


 右肩に乗せた手に力が籠もり圧迫してくる。


「黙ってちゃダメだよ。ちゃんと従わないと」


 温厚だった口調がだんだんと急かすように変わっていく。

 逃げるように視線を落とせば固く握られた僕の手があった。

 汗ばんだ両手を開いてみればそこに逃げ道はなく、拒否権は存在しなく、従う他ない状況だった。


 けど、だからと言って、このまま言いなりにはなりたくなかった。

 だから何も言わず口を閉ざした。

 けれど、この行動は先延ばしでしかなく、僕自らが承諾するまでは逃がしてはくれないことはわかっていた。


「従ったほうが痛い思いしなくて済むよ」


 拒否したら痛い目に遭うと脅している。

 暴力を振るわれる光景を想像するだけで怖い。


「ああ、お金はちゃんと払うから安心してよ。オレらはそこら辺のクズとは違うからさ。ほら、口を閉じてちゃわかんないよ。もう子供じゃないんだからさ」


 洗礼と言わんばかりに右肩に痛みが走る。

 両足が小さく震えていた。


「……やりたく、ないです」

「えっ? なに? 聞こえないんですけど!」


 耳元で怒鳴る。

 聞こえているはずの言葉は受け入れない。


「やりたく、ない、です」


 その時の僕は恐怖で従うより、ちっぽけなプライドが僅かに勝っていた。

 それを聞き明らかに落胆した目を僕に向け、上級生は掴んでいた肩を放した。


「残念だ。本当に残念だよ。キミはもっと賢くて素直な子だと思っていたのに」


 そう言い残し僕から離れていく。

 そして、宣言を実行に移すために背後の二人がふらりと立ち上がった。

 選べる選択しはもとから存在しなかった。

 ここに足を踏み入れだ時点で決まっていたのだから。


 彼らは地べたに転がるなんてことのない石を見るかのような目で僕を見つめ、無表情で近づいてくると、心の準備を待つまでもなく暴力が始まった。

 太ももを蹴り上げ、膝が脇腹を突き刺し、立っている事がままならず倒れた足を更に踏みつける。想像以上の痛みが全身を駆け巡り呼吸が出来ない。

 吐き出した空気を求めて口を開くと痛みで吐き出される。


 繰り返す。何度も。


 彼らは本気ではなかった。

 人体に問題にならない力加減に加え、見えにくい場所を意図して選んでいた。

 こうした扱いになれているのだと思った。


 そんな彼らだからこそ、効果的に恐怖を植え付けられる。

 視界を奪い、逃げ道を無くし、四方からの変則な打撃が身構える余裕を消す。

 そうして、だんだんと手数が数が少なくなり、終わったのかと安堵していればその直後、思考を分断する一撃が振り落とされ、まだ終わりではないと告げてくる。


 そうやって幾度も僕を絶望へと突き落としていく。


 一方的な暴力に僕は身体を小さくする事しか出来ず、いつ終わるともわからない痛みに耐えるしかなかった。果てしなく長い時間だった。

 最後の暴力が止んでしばらくし、噎せ返りながら恐る恐る目を開けと眼前にシルバーのアクセサリーと上級生の顔があった。

 僕が目を開けるのを待っていたかのように顔を覗き込み、視線が合えば笑顔を浮かべた。


「わかったかな? キミが拒否しても無駄だってこと」


 茶髪の上級生が何事もなかったかのように平然と僕に語りかける。


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